| Ecology on Wheels 〜クルマにまつわる環境学〜
vol.12
エコカー艦隊、京都〜愛知万博を突っ走る!
〜その1〜
1998年、パリのコンコルド広場にエコカーの隊列が現れた。タイアメーカーのミシュランの呼びかけで世界中から代替燃料車が集まり、南仏の小さな町からパリまで走り抜けたのが、エコカーの祭典「チャレンジ・ビバンダム」の始まりだ。今年は京都議定書が決議された京都国際会館をスタートして万博会場まで走り抜ける「ビバンダム・フォーラム&ラリー」として開催された。
「星みっつ!」
3歳の息子が、美味しいものを食べたときに出るセリフ。今では誰もが「三星クラス」なんて言って料理を褒めるけれど、最初に星を使ってレストランの評価を始めたのはタイアメーカーのミシュランだった。街道沿いのおすすめレストランを紹介した『レッドガイド』の表紙の上にいるタイア男「ビバンダム」の生誕100年を記念して、1998年に世界中のエコカーを集めて開催されたのが「チャレンジ・ビバンダム」だ。
まだエコカーがよちよち歩きだった当時、ミシュランのお膝元であるクレルモン・フェランからパリまでの道のりをエコカーが力の限り走ることで、持続可能なモビリティの可能性をアピールしたイベントだった。今年は日本に、50台以上のエコカーが会する「ビバンダム・フォーラム&ラリー」として開催された。「エコとクルマ」と聞いちゃ、黙っちゃいられない!早速、フォーラムが開かれる京都に駆けつけ、愛知万博の会場までのドライブに参加した。
1日目のフォーラムは、中国、アメリカ、欧州、そして日本の持続可能なモビリティに対するビジョンを始め、内燃機関エンジンの高効率化(注1)、燃料電池車(FCV)に代表される電気自動車(EV)の可能性(注2)、先進安全自動車(AVS)や高度交通システム(ITS)などの技術(注3)の進展状況に関する発表があった。堅い話は注釈に譲って、ランチタイムに特設コースで開かれた「プチ試乗会」の模様を紹介しようと思う。
一番の注目株は、女性ファッション・ブランドとして有名なクレージュのEV。デザイナーのコクリーヌ・クレージュさんは、1969年のファッションショーで模型のEVを使ったという筋金入りのEVファンだ。リチウムイオン電池を積むEV「EXE」の助手席に高円宮妃をお乗せして、会場をぐるりと一周して見せた。
異色の存在だったのが、100%電気で走るスポーツカー「ヴェンチュリ・フェティッシュ」。スーパーカー・メーカーの彼らが目指したのは、将来のスポーツカーに求められる新しい「運転する喜び」を形にすること。発進時に力強く加速できるモーターの特性がスポーツカーに向いていることに目をつけて、スポーティなEVを開発した。「女性だけ乗せてあげる」と笑うデザイナーのサシャ・ラキックさんの言葉に甘えて、助手席に滑り込んだ。鋭い加速感と排気ガスと無縁なオープンエアは、純粋なスポーツカーの新たな楽しみに他ならない。
ミシュランは、タイアの未来型を提案するスタディモデル「Concept」を持ち込んだ。昨年登場した燃料電池車「Hy-Light」同様、低転がり抵抗のタイア(注4)を履くホイールの中に、ブレーキ、モーター、アクティブ・サスペンション(注5)まで入っている。モーターで直接タイアを動かすので、普通のクルマに必要な動力伝達系の部品(注6)がない。しかも手元のリモコンを操作すると、好みの乗り心地が作りだせる。実際に乗せてもらうと、スポーツカーのような乗り心地から、ふわっとしたソフトな印象まで変化自在(注7)で狐につままれた気分だ。
この日は結局、世界中からの参加者とモビリティの将来について深夜まで語り明かしてしまった。明日は7時に京都国際会館に集合して、愛知万博の会場まで177kmの道のりを走るというのに……

(注1)フォーラムでは、ガソリンエンジンのハイブリッド化とディーゼルエンジンについて多く語られた。なかでも、1997年にコモンレール化して以来、排気ガス中のNOxやPMが減少してクリーンになってきたディーゼル車についての発表には、参加者の多くが興味を示していた。現状として、ヨーロッパの一般的な走行習慣ではディーゼルエンジンの燃費が優れており、ドイツでは60%程度、フランスでは70%近くまでシェアを伸ばしていることにも関心が集まった。日本では規制の対象になり、環境負荷が高いというイメージのディーゼル車だが、燃費が大幅に向上し、尿素SCRやNOx触媒などの後処理技術によって排気ガス中のPMやNOx値も基準を満たしたものが開発され、さらに高圧化や噴射方式の改良によってパワーアップと高効率化をはかる研究が進んでいる。燃料の観点からは、排気ガス中の有害物質を規制する2009年のポスト新長期規制に向け、脱硫などの燃料加工技術が新しい。ほかにも天然ガス車の普及、ディーゼル燃料の代替としてバイオマス燃料(ジメチルエーテル、廃食油利用、FT軽油など)の研究も進んでいる。
(注2)EVに多大な期待がかけられた時期があったが、近ごろでは、狭いエリアを走るEV、中長期的な将来に向けてのFCV、低コストでフレキシブルなEVであるプラグインEVといった棲み分けがなされている。排ガスが水のみで究極のエコカーと言われるFCVは、水素を燃料として供給し、空気中の酸素と化学反応させることで発電する。ドイツではダイムラークライスラーやフォルクスワーゲン、北米ではゼネラルモーターズやフォード、日本ではトヨタ、ホンダ、日産を始めとする各メーカーが技術開発にしのぎを削っている。ほとんどのメーカーが、欧州のCUTE、日本のJHFC、北米のCaFCPといった実証試験に参加したり、リース契約で貸し出す段階まで到達している。またバッテリーやキャパシタといった蓄電装置の高容量化も進んでいる。現在、最大の課題はコストであり、特に数千万円と言われる燃料電池スタックの低価格化が実用化の鍵を握っている。
(注3)自動車の安全性や利便性を高める、AVSやITSといった技術に関しては、日本が進んでいる。交通事故の50%以上が誤認にあるという事実から、事故パターンの解析やドライバーへの注意を促すシステムの構築などが進められている。逆に、日本がまだまだこれからなのは、交通システムや都市計画といった分野だ。効率のよい移動を目指す前に、しっかりした都市計画があれば、交通を最小限に抑えられるのは当たり前だが、先進国では自動車の普及と共に郊外化が進み、オーストラリアでは通勤距離が100kmという人も少なくないという。まず交通環境じたいを見直すことと、クルマに飛び乗る前に、どの交通を使ったら効率がいいか考えるための情報システムが必要なのかもしれない。
(注4)現在市販されている比較的転がり抵抗の低い「グリーンタイヤ」と比べて、20%軽量で、転がり抵抗は25%低い6.5t/kgとなる。
(注5)通常のサスペンションは、車体とタイアの間を、ばねとダンパーで機械的に結んでいるだけ。一方アクティブサスペンションは、ばねとダンパーの動きを電子制御しており、乗り心地と運動性能を高いレベルで両立できる。
(注6)普通の自動車では、エンジンやモーターで作り出した動力をタイアに伝えるために、クラッチやギアボックス、ドライブシャフトなどの部品が必要になってくる。タイアの中に動力源を収めたActive
Wheelの場合、動力伝達装置がいらない。
(注7)インホイールモーター車では、一般にばね下加重の増加による乗り心地の悪化が問題となる。ミシュランでは、路面の起伏をミリ秒周期で捉え、モータ駆動によってシャシを水平に保つアクティブサスペンションを採用し、乗り心地を向上させた。アクティブサスペンションでは、ロール/ピッチ角度の制御と車高の変更が4輪それぞれにコントロールできる。
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川端 由美 (カワバタ ユミ)
1971年生まれ。大学院でセルロースや炭素などの天然高分子を専攻(材料工学修士)。エンジニアとして就職するも、子供のころからのクルマ好きが高じて自動車雑誌の編集部に転職。エンジニア時代に電気自動車用の部品を設計した経験を買われ、次世代自動車の企画を担当する。3年前に長男を出産してからは、自動車の安全対策、環境やエネルギー問題といった次世代に与える影響を総合的に見られるようになったと感じている。母親、技術者、そして自動車ジャーナリストというハイブリッドな目線を活かしたリポートを展開する。 |
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ミシュランの社主、エドワール・ミシュランも参加していた。

「洋服を着るのは人間。人間には快適な環境がなくてはいけない」と考えて、マダム・クレージュはEVを作ったという。写真は、最高速度180km/hが可能な「クレージュEXE」。


ヴェンチュリ・フェティッシュは、4.5秒で100km/hまで達する。最高時速170km/h、一回の充電で350km走行できる。

ミシュランのスタディモデル「Concept」は、空冷水平対向2気筒エンジンで発電機を駆動するシリーズ・ハイブリッド方式。4輪にモーターを内蔵した「Active
Wheel」を採用。

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