| Ecology on Wheels 〜クルマにまつわる環境学〜
vol.13
エコカー艦隊、京都〜愛知万博を突っ走る!
〜その2〜
1998年、タイアメーカーのミシュランの呼びかけで世界中からエコカーが集まり、南仏の小さな町からパリまで走り抜けたのが、エコカーの祭典「チャレンジ・ビバンダム」の始まりだ。「ビバンダム・フォーラム&ラリー」となった今年は、京都国際会館をスタートして万博会場まで50台のエコカーが日本の道を走り抜けた。
翌朝、ホテルで朝食を摂っていたら、「いや〜、今日やっと乗れるんだよね」と、先輩の自動車ジャーナリストから声をかけられた。朝から晩までみっちりとエコカーの座学を受けた昨日とうって変わって、今日は京都を出発して、滋賀を抜けて目的の万博会場まで177kmを走破するという日程だ。そもそも自動車ジャーナリストという人種は、クルマに乗ることが好きな人が多いから、昨日のお話だけでは「タマラナカッタ」という気持ちもわかる。
スタート会場の京都国際会議場には、前回紹介したクレージュやヴェンチュリといった個性的なEV軍団を先頭に、燃料電池車やハイブリッド、クリーンなディーゼル車……と、それぞれに最新の環境技術を纏ったエコカーたちが誇らしげに並んでいる。
最初に乗ったのは、ハイブリッド車としてお馴染みのトヨタ・プリウス。比叡山の上り坂では、モーターが力強く引っ張りあげてくれる。運転していた人のウデもあって、気持ちいいくらいスイスイと山坂道を登っていく。助手席に乗り込んだ私は、ナビ画面に出るモーターとエンジンの切り替え表示に目を凝らして、「お、回収してます」「電池なくなりそうですよ」とはしゃいでしまった。途中の駐車場で、トヨタの燃料電池車「FCHV」(注1)に乗り換える。ベースのクルーガーと比べると、100kgほど重くなっており、パワーの源である燃料電池は90kW(122ps)に過ぎない。大丈夫かなと思ったけれど、動力源のモーターは走り出しこそ力を発揮する仕組みなので、見せ掛けの値より断然力強い走りっぷりを披露してくれた。
琵琶湖大橋を渡り、今度はホンダ・アコード・ディーゼルのステアリングを握る。睨みの利いたフロントランプからリアエンドまで続くサイドのラインのおかげで、グッとお尻が締まって見える。日本でディーゼルというと、空気を汚す悪玉というイメージだが、ちゃんと欧州で最も厳しい規制「ユーロ4」(注2)をクリアし、燃費はリッターあたり18.5kmを達成している。ホンダ自社製の2.2リッター・ディーゼル・エンジンは140psと34.7kgmを発揮し、マニュアルでキビキビと運転すればかなりスポーティに走れる。
午前中の最後は、お隣韓国の高級車、ヒュンダイXGのLPG(※3)仕様だ。韓国は経済危機からまだ立ち直っておらず、国際的に価格の安いLPGが自動車の燃料としても人気だ。最新のLPG車を走らせてみると、走り出しに若干の力不足を感じる程度で、スピードが乗ってしまえばガソリンエンジンと比べて見劣りはしない。
彦根城の堀を望むレストランで昼食後、今度はガソリンとLPGのどちらでも走るボルボ・バイフューエルに試乗する(※4)。万が一、LPGスタンドが見つからない場合は、ガソリンを使って走れるのがメリットだ。走り出しはガソリン車なので、ヒュンダイで感じた物足りなさはない。そして高速道路でLPGに切り替えば、四角四面なボディのサイドに「CO2
12%カット」と書かれていたのを思い出して、いい気分になれる。
次なる試乗車は、トヨタが鳴り物入りで発表したハイパワーのハイブリッドシステムを積むクルーガー・ハイブリッドだ。静かで、パワフルな加速感もあり、高級車然としている。ちょっとエンジンがラフな部分があったり、重量増加に伴う不安定さを少し感じるけれど、無闇に飛ばしたり、ステアリングを急に切ったりせずに、普通に運転すればなんの違和感もない。
高速のパーキングエリアで待っていたのは、小さなボディに大きなメルセデス・ベンツのマークをつけた燃料電池車「F-Cell」だ。トヨタの燃料電池車と同じく、水素と空気中の酸素を元に発電しながら走り、排気ガスは水だけという究極のパワートレーンだ。トヨタFCHVでは遮音が良くて気づかなかったが、アクセルを踏み込むと、シューンという酸素を送り込むポンプの音がする。ジェット機の加速音みたいで、気分がいいなぁなんて思ってしまう。
そしてエコカーの艦隊は、名古屋で高速を降りて一路万博会場へ。試乗を終えたジャーナリスト集団がクルマを降りて、レセプション会場で待っていると、ビバンダムが待つゴールに各メーカーの広報部員やエンジニアが誇らしそうにドライブするエコカーが続々と入場してきた。ここでハタと気がついた。普段、試乗会といえば、自動車メーカーの人は裏方に回っていることが多いけれど、ミシュランが考えるこのイベントの主役は、エコカーとそれを支える自動車メーカーの人たちなのだ。だからってジャーナリスト連中がぶうぶう言っていたかというと、いつもの試乗会よりも断然楽しそうにしている。
それはたぶん開催者のミシュラン自身が損得抜きで、モビリティの将来を考えるために開催しているイベントだからなんだと思う。社主のエドワール・ミシュランさんが言っていたように、「今日はタイアを売るためには来ていません。モビリティの未来を考えに来ました」という言葉は、掛け値なしで立派なセリフだったと思う。

(注1)
トヨタの第4世代になる燃料電池車「FCHV-4」。従来トヨタは、水素吸蔵合金によって水素を貯蔵してきたが、このモデルから高圧タンクに350気圧の気体水素を蓄える方式をとる。全長×全幅×全高=4735×1815×1685mmのSUVボディに、出力90kWの自社製燃料電池スタックが生み出す電力で、交流同期式モーターを回転させ、80kWの出力を生む。満タン給水素での航続距離は300km。
(注2)
EUで適用されるディーゼル車の排出ガス規制の基準値を指す。1996年にユーロ2、2000年にはユーロ3、そして2005年からユーロ4へと漸次的に規制が強まってくるなかで、ユーロ2では、PM=0.15g/kWhとNOx=7.0g/kWhだったものが、ユーロ4ではPM=0.02とNOx=3.5g/kWhまで強化されてきている。2008年にはさらに厳しいユーロ5への移行が予定されている。同様に、CO2の排出を規制する燃費規制も2008年から始まる予定だ。具体的には、自動車メーカーごとに全モデルの燃費の平均を取り、その値が140g/km以下に規制される。
(注3)
日本でLPGといえば、タクシーという印象だが、新製品が開発されずにガソリン車への移行が進んできている。そこでLPGの販売を手がける伊藤忠エネックスが数種類のLPG仕様車を輸入する予定でテストをしている。今回参加したLPGの隊列のなかでも、ヒュンダイXGはLPGを液体のまま噴射して、高効率で燃焼させることができる最新システムを積んでいる。
(注4)
その名のとおり、ガソリンとLPGのどちらも燃料として使える。LPGは液体で噴射したほうが効率が高いが、始動性が悪いという問題があった。そこで、始動は必ずガソリンで行なって、その後の必要に応じてLPGと切り替えることができるシステムだ。
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川端 由美 (カワバタ ユミ)
1971年生まれ。大学院でセルロースや炭素などの天然高分子を専攻(材料工学修士)。エンジニアとして就職するも、子供のころからのクルマ好きが高じて自動車雑誌の編集部に転職。エンジニア時代に電気自動車用の部品を設計した経験を買われ、次世代自動車の企画を担当する。3年前に長男を出産してからは、自動車の安全対策、環境やエネルギー問題といった次世代に与える影響を総合的に見られるようになったと感じている。母親、技術者、そして自動車ジャーナリストというハイブリッドな目線を活かしたリポートを展開する。 |
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