エコロジーオンライン 
エコピープル 環境ニュース エコ・コラム
 top >>> eco-column >>>フライブルクレポート

EOLフライブルクレポート
緑の街と緑の人びと
第十二回

フライブルク市は大変ユニークな歴史を持っていると書きました。それを今回は紹介しましょう。

今から35年ほど前のことです。フライブルク市から約20キロ離れたライン川沿いの小さな農村、「ヴィール村」を舞台にしたお話です。
ワイン作りが盛んなこの地域では珍しく、農村といってもこのヴィール村には、専業で農業に従事している人はそれほどいません。近郊の他の自治体で職を得ている人が多かったのです。またこの村は財政面でも力がなく、そこに目を付けた電力事業者、そして州政府はここに原発建設の話を持ちかけます。補助金をちらつかせながらの力押しという日本のどこかの村でも聞くようなお話です。

そういったお上からの一方的な意見(電力不足→夢の電力源→原発)に疑問を感じ立ち上がったのは、当事者のこの村の住民ではなく近隣の農家でした。彼らは「原発は本当に農作物に危害を加えないのか?」という疑問を出発点にしています。でも彼らでは、原発の安全性に関する専門意見の判断がつきません。役人や電力会社が言うように原発は本当に安全なのか? それを自分では判断できないのです。

そこで彼らが取った行動が、この地方の未来を変えたといっても過言ではないでしょう。トラクターによるデモ行進をするだけでは意味がないことに気がついた彼らは、それまで縁のなかったフライブルク大学の門を叩いたのです。
当時は学生運動が盛んな時勢です。大学の専門家がヴィール村近隣の農家の人びとに原発に関するレクチャーを行う動きは、すぐに学生にも飛び火しました。長髪、パンタロン姿の学生と農家との交流がはじまり、誰でも主役になれる市民大学「フォルクスホッホシューレ」が原発予定地に無許可で作られます。授業料は、授業の終わりに回ってくる籠に、参加者がお金を入れるという気軽なもので、そこでは様々な知識が、文化が、そして人が交流を重ねてゆきました。

一九七五年には建設予定地での座り込みデモが行われ、機動隊による排除活動も激しさを増してゆきます。こういった強硬手段をしのげたのは、学生の若さが農民の頑固さと上手く融合した成果でしょう。それまで保守党支持であったこの地方の農民は、何度も州都へ陳情を行い、陳情する度に保守政権政党への不信感を募らせてゆきました。中でも印象的だったのが、当時の州知事が行った停電事件です。サッカーの試合途中にフライブルク周辺地域が強制的に一斉停電させられ、原発に逆らうものには電気を与えないという脅しまで行われたのです。

この頃に、環境は最初は農家、そして大学と巻き込んできた原発反対の動きは、フライブルク市民にまで深く浸透しています。そこで芽生えたのは、デモや座り込みなどの反対行動ばかりではありません。市民が持つ権利、法的手段で原発の安全性を問うことと平行して、これまでのエネルギー消費行動へ疑問を投げかけた結果から省エネ運動がはじまるのです。

さらにこの省エネ運動が、最終的には自然保護・環境保護運動へと加速してゆきます。結局フライブルク市には多くの環境保護団体の本部や、環境に関する研究所、調査機関の本部が置かれるようになりました。環境保護に目覚めた「市民」は選挙行動でもその力を余すことなく発揮します。フライブルク市で立候補する政治家・政党は保護政策を第一に訴えねばならなくなったのです。

そんな歴史を経て、今ではフライブルク市の市長は緑の党出身ですし、市議会の第一政党も緑の党です。前回行われた総選挙で環境保護・反原発・反戦争を三大原則とする緑の党は、連邦全体で八・五%の支持を得ました。しかしフライブルク市においては、二八%の支持を集めているのです。

結局、チェルノブイリの原発事故でドイツの原発推進政策にはブレーキがかけられます。現在のヴィール村の旧原発予定地は散策できる森のまま残され、「わいらが、あかんってゆうたんや」という(標準のドイツ語を勉強した人には読めない)石碑が静かに横たわっています。


つづく

 




<<フライブルクレポート一覧に戻る


村上 敦  (ムラカミ アツシ)

1971年生まれ。岐阜高専土木工学課を卒業後、ゼネコンに入社。東京湾埋立工事 などにおいての環境破壊の惨状に疑問を感じ、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク大学独文科に在籍しつつ、ドイツの環境政治・行政を学ぶ。途中ドイツ人女性と結婚し、休学。その後、フライブルク地方市役所・建設局に勤務し、 現在は日本の環境機器メーカーのアドバイザー、兼主夫。HP(www.geocities.jp/freiburg2004report/)でフライブルクの行政についての分析を行う。」


フライブルク基本情報

■市名/Freiburg im Breisgau

■位置/ドイツの南西部。フランス、スイスの国境に近い。

■気候/平地は乾燥して暖かいシュヴァルツヴァルトでは風が強く寒い。

■人口/約20万人

■面積/約103平方キロメートル(うち3分の1が森)

■特徴/ドイツ南西部「黒い森」のふもとに位置する中世の趣を残した大学都市。

1972年に隣接した地域に原子力発電所の建設が予定され、町をあげての反対運動で阻止。
これをきっかけに、市民と行政の両者が積極的に環境保護に取り組むようになり、1992年に「環境首都」(=自然と環境の保全に最も貢献した自治体)の称号を与えられた。



 

 



 top >>> eco-column >>>フライブルクレポート

エコロジーオンラインとは?

(C) Ecology Online / All right Reserved.