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なんこーふらくのウチ探し
第1話
ああ。ふつうのおうちに住んでみたい

ある朝目をさますと、視線の向こうにボンヤリとみえる物体、白く細い茎のようなもの、の上にちょこんとのっているカワイイお帽子。
「んーなんだろなあ」
次第にはっきりしてくる視界にうつるその物体はひとつではない。
「んんっ?きのこお?」そう、えのきだけよりも少し大きめのかさをもつキノコが3本、鎮座ましましていた。

そこは社宅、いわゆる団地である。南に面した日当たりのとてもよい部屋がある反面、追いやられ、しいたげられた部屋が北側に集まっていた、その部屋はこう呼ばれた・・「シベリア」と。

「シベリア」は極寒、日はまったく入らない、その部屋にいるということはまさに無実の罪で流刑された囚人がごとく、遠い春を待ち望むだけが希望の部屋なのだ。しかし、きのこまでが生息してしまうとは、しかも畳の上に!ああミスマッチ。

にしてもなんにしても六畳の部屋の中にキノコが生えたなんて恥ずかしくって人様には言えませんと思っていたら、築40年あまりのこの社宅、(はっきりした年数を誰も知らない、もしかしたら相当古い)特に一階の住民宅には同じようなキノコが、しかも異種キノコが生息しているというではないか?!
いったい何種類のキノコが生息しているのか、菌類ノートでも作ろうかしらんとも思ったが「そこまで協力するのはカンベンして」とのご様子だったため却下。
やはりキノコが部屋に生えたという事実は同志以外には知られたくなかったようだ。同じ傷を持つものにだけひっそりと教えてくれた、いわば密室のタブーであった。

社宅には、ある年齢に達すると家賃倍額支払を言い渡され、いかにも早くでていきんさいとの闇の掟がある。
家賃が倍でも賃貸に住むより十分安いのだが、何せ家のシステムがあまりに悲惨なため「もういやっ。ここ出たいっ」と思わされるのである。

シベリアもきついが一番こたえたのはお風呂場であった。
「御風呂」そこはリラックスの場、安らぎのゆけむりの里、ああ湯布院いきてえなああ、と思うところなのだ。が、しかし、この社宅のふろ場は「御風呂」の風上にも置けないものだった。
ひと〜つ、なぜゆえに風呂桶は正方形?よっこいしょと湯船に入り、よっこらせと体育座りのポーズ。
まるで小学生の頃見た「科学のなぞ、ふしぎ」という本の「桶の中に入れられてそのままミイラになっちゃった」という絵に描かれた修行僧のようにキュウクツなのである。(不気味なたとえですまぬ)
ふつう風呂は長方形でしょう?!広けりゃ正方形だってなんだっていいっすよ、でも狭くて正方形はなかとでしょう?おいどんば何かまちがっとるとですか?おかしなことばいうとりますか?
さらにこの風呂の決定的にダメなところは「排水溝が風呂桶の下にある」という点である。
意味がお分かりか?
あまりにも不条理なことゆえ、ふつうの人は理解できぬかもしれないが、つまりその正方形の桶の下に排水溝があり、風呂桶をよいしょと持ち上げずらさないと排水溝は見えてこないのだ。
排水溝といえばいろいろゴミがたまる場所だ。掃除をしないとすぐにつまってしまう。なのに桶をどかさないと掃除できないなんて。
どういう考えでこのふろ場の設計をしたのか、胸ぐらをつかんで問いただしたい。

そして!さらに!水はけの悪さから蒸し暑い時期に入ると、あの小バエさまが多発するのだ。たはは、む、むなしい・・。
わたしは生まれてから今に至るまで家を14回かわっている。転勤が多い家だったため、まるで旅芸人一座のように各地を移動した。
そのせいなのか定住意欲があまりない。気分は流浪の民である。
なので、家を買ってひとつところにずーっと住むということにかなり抵抗を感じる。
ついふらりとどこかに旅立って、インドの山奥にでもいってしまうのではなかろうかとの不安がある。(しかしインドに山奥ってあるのかね?)
しかし、この社宅暮しにもうんざりしていた。その立地にもずいぶん悩まされた。

傾斜45度(ちょっと誇張)の坂の上に立ち、「行きはよいよい〜」の唄の如く帰りは壮絶な自分との戦いである。あれは修行である。
時は夏真っ盛り、わたしは自転車を押して坂を上がっていた。と、とつぜんの立ちくらみ、まずいっ、すわ貧血?
しかし、こんなところで朝礼の女子のようによろめいている場合ではない。へたすれば自転車ごと落下だ。ここはなんとしてもおのが持てる力をすべて出し切るつもりで頂上まで、死守だ死守なのダアア、んんがあああああ。
ことなきを得たが、あまり繰り返したくない体験であった。
なんど坂の下に自転車をぐわっしゃーんと放り投げたくなったことか。
狂気一歩手前ではあはあと幻想が浮かぶ。もうすぐこの坂がベルトコンベアーになって歩く歩道になるんだ、そうすれば片手でひょいひょいだ(何を?)。

このような日々が5年経過した。
もういいだろ、もう平地に、小バエの出ないキノコの生えない家に住んでもばちは当たらんだろ、との思いから家探しをすることにした。

つづく


鞍作トリ/プロフィール
「業界新聞記者勤務、のち劇団員、ナノニまたまた業界誌帰還。紆余曲折を繰り返す人生つつうらうら。流れ流れてエコロジ−オンライン、の人物なり」

 
 

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