夏の暑い日。沖山さんは、待ち合わせ場所に淡いグリーンのTシャツを身につけて現れた。胸には力強く書かれた「三宅島」の文字。沖山さんは、このTシャツを「ナチュラルダイTシャツ」と呼んだ。
ナチュラルダイ=自然染め。なんとも言えないやさしい風合いのその生地は、三宅島に自生する明日葉の葉を使って染め上げてある。「今日摘んでも明日には芽を出すほど生命力が強い」という明日葉。その名の由来にちなんで、三宅島の一日も早い復興を願う想いが込められている。
三宅のすべてを受け入れ、ともに生きる
沖山さんの家は、祖父の代に三宅島で商売を始め、今年で創業78年。3代にわたって三宅島を見てきたことになる。
「三宅島といえば豊富な自然。天然記念物のアカコッコやカンムリウミスズメをはじめ、貴重な動植物がたくさんいます。ちょっと潜るとイルカやウミガメ、クジラなんかにも出会えるんですよ。僕は下宿して新宿高校に通ったので、その時以来島を出てしまったんですが、だからこそ余計にその良さがわかります。三宅は本当にいいところです」と、うれしそうに話す沖山さん。今でも時間をつくっては島に戻り、ゆっくり流れる時と自然を満喫しているのだそうだ。
そんな愛すべき三宅島の景色が、2000年6月、激変した。雄山が噴火したのだ。ニュースの映像には、噴煙が天に届くほど吹きあがり、三宅島全体を火山灰と泥流が覆いつくした映像が映し出された。
「噴火なんて大変なことだと思いますよね? でも、三宅は噴火が定期的にあるんです。不謹慎かもしれませんが、噴火で島が大きくなればいいね、なんて思ったり…。噴火と友達くらいの意識じゃないと!親父なんて4回も噴火を経験してるんですから」と、驚くようなことを言う。さすがは三宅っ子。
しかし、今回は少し様子が違った。噴火の規模が大きかったことなどが影響して、島外への避難が4年にも及んでしまったからだ。長すぎた時間は島民たちの時を止めてしまった。
三宅島と島の人たちを元気にしなければ…沖山さんの心は揺れ動いていた。
三宅島のために。 想いが呼び寄せた縁
沖山さんが当時勤めていたのは、広告などを扱う大手の会社。朝早く出勤し、夜遅く帰宅する毎日だ。空気のような品物と一緒に、何億というカネが右から左に動く。「これでいいのだろうか?」という意識が常につきまとい、「カタチあるモノを売りたい」「自分が納得できる何か、次世代のための何かをしたい」、そう思いながら時間だけが過ぎていった。
そんな折り、2005年2月に非難勧告が解除された。三宅島に戻る両親の背中を見て、今こそ三宅島のために、自分のために生きようと覚悟を決めた。15年間の会社勤めに自らピリオドを打ったのだ。
「最初は、単純に復興Tシャツをつくろうと思って、学生時代からお世話になっているデザイン会社に相談したんです。そうしたら、そのデザイン会社が知り合ったばかりだという染め屋さんを紹介してくれて。実はその染め屋さん、ものすごい技術を持っていて、世界的にもとても有名なところだということで驚きました。ずっと憧れていたイラストレーターの方にも、三宅のためにと快くイラストを描いてもらうことができたし。このTシャツは、皆さんのおかげでできたようなものです」。そう言って沖山さんは、愛おしそうにTシャツをなでる。
世界へ、次世代へ届けたい。
明日葉のナチュラルダイは、見事なまでの色のグラデーションを生み出す。岩のりもしかり。地球上に存在する自然なものには全てに色があり、溶岩や火山灰、サンゴでさえすべて染めることができるのだと沖山さんは言う。それら素材のもつエネルギーはそのまま生地に染め込まれ、やさしい色合いは力強いパワーをくれる。
「化学染料はダイレクトに人の目に入ってきますが、ナチュラルダイは緩やかな波形を描きながら届くので、人それぞれ微妙に見える色が違うらしいんです。抗菌・脱臭・鎮静作用がある染材ならその作用が生地にも移りますし、アルカリ性で染めたものを身につけると肌触りがしっとりしてきます。自然ってホントおもしろいですよね」
数十回洗濯したというTシャツを見せてくれたが、シンプルにナチュラルな風合いだけを増しているその姿に正直驚いた。
「おみやげTシャツなのに何でこんなに高いんですか?って聞かれることもあります。仕事でいろんな販促物を扱ってきましたが、もらってもすぐごみ箱に捨てられてしまうようなものは本来作る前に躊躇すべきなんです。だから、自分たちは最初からそういうものは絶対につくらないと決めていました。三宅島を復興させながら、一方でごみを出していたら意味がないですから。それに、ナチュラルダイで染めた後の排水は透明に近くて、大地への負荷もすごく低いんです。そういうことも、未来を担う僕らの仕事じゃないかって思っています」。
沖山さんのモノづくりに対するポリシーと、三宅島を元気にしたいという本気の想いは、各方面でのコラボレーションや新商品の開発などへと広がりはじめている。
「できれば三宅島の物産ナチュラルダイを世界に広げたいんです。溶岩染めとか珊瑚染めとか、世界中のどこにもないような染め。日本の小さな島でもこんなことができるんだ!って知らしめることができたらすごいですよね。それで、世界中で同じように復興で頑張っているところや、次の世代の若者たちが、自分たちも何かやってみようかなって思ってもらえたらうれしいなと思います」。
目を輝かせて語る沖山さんの夢は、あくまでもグローバル。世界の三宅島と言われる日も、そう遠くないのかもしれない。
※三宅島のナチュラルダイは、売上げの1%を三宅島のために利用することを誓約しています。
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