エコロジーオンライン 
エコピープル 環境ニュース エコ・コラム
 top >>> REPORT

 



 10月31日、経団連会館において、「サステナビリティの科学的基礎に関する調査2006」シンポジウムが開催されました。内容は、プロジェクトの趣旨と、約半年の短期間でまとめられた報告書の内容の簡単な説明でした。時間は1時間半と短く、詳しい内容については、当日配布された報告書に記載されていますが、ここに趣旨と内容を抜粋します。

 地球温暖化問題など、最近の環境問題は、科学だけでは解決できない、社会と密接に結びついた問題が増えています。こうした環境問題の解決には、「社会的合理性」の確立が必要ですが、この「社会的合理性」の確立には、まず「科学的合理性」が確立されている必要があります。そこで、中立的な立場から、サステナビリティの科学的基礎に関して調査を行い、報告書を公表することを目的に、今回のプロジェクトが発足されました。今回のプロジェクトでは、内容を自然科学的側面に絞ってまとめられています。

 第1部「サステナビリティとは何か」に始まり、第2部「サステナビリティの5つの側面」、第3部「人間活動を支える環境サービス」、第4部「環境影響の評価手法」、第5部「「地球の環境収容力」をどうとらえるか」の5部から構成され、個々の部はさらにいくつかの章から構成されています。特に、第2部の5つの側面は、第1章「気候システム」、第2章「エネルギー」、第3章「資源と廃棄物」、第4章「食料・土壌・水・森林」、第5章「生物多様性」から成っています。

 シンポジウムでは、プロジェクトの共同座長である、東京大学生産技術研究所の山本良一氏、早稲田大学大学院公共経営研究科の北川正恭の両氏により、プロジェクトの趣旨と重要性についての話がありました。
 両氏ともに共通して、「今後は、科学と政治・経済の同軸化が重要な課題である」ことを主張していました。私も研究者の端くれとして、山本教授の話には、共感を覚えるところも多くありました。山本教授が主張していたように、この報告書は半年という大変短い期間でまとめられていますが、半年という短い時間を感じさせないほどに、質・量ともに充実した内容にまとめられていることには大変感心しました。様々な分野の著名な方々によるヒアリングが行われ、実に200人以上の方の協力のもとに作成された報告書です。

 山本教授は、「現在は、科学が細分化した結果、個々の分野の研究者の知識が、自己の分野の専門に偏り、ともすれば、科学者の科学全般に関する知識は、一般の方に比べて乏しくなりがちであり、こうした現状を見つめ、科学者は社会に対する責任として、科学者コミュニティにおける情報循環を進めるとともに、社会への科学的知見を提供し、政策決定への科学的助言等の役割を果たしていく必要がある」と訴えました。
  この山本氏の強い思いが、今回のプロジェクトの発足に通じたことは、私も科学者の端くれとして、大変うれしく思いました。

 しかし、現状では、山本教授の声が、どれだけの研究者に届いているかは不安なところです。私は、数年前よりすでに、山本氏と同じ思いをもって、研究の道を進んできましたが、科学者の社会に対する責任意識の根本的な改革には、研究者が社会の中でどのような位置づけにあるかを認識することが必要であり、このことを理解していない人が多くいるように思います。
  意識ある一部の研究者が努力しても、研究者コミュニティの根本的な部分が改善されなければ、社会、経済と科学との同軸化は、研究者全体に浸透させるのは難しいだろう、と思います。

 また、今回のように、科学的知識を領域横断的に整理し、社会に役立つ形で還元しよう、との動きは、最近では各省庁で多く見られています。こうした動きは、京都議定書の発行により、科学と政治・経済の融合が必須の問題になっていることが理由の1つです。

 とはいえ、研究者の中から、社会に対してこうした動きがされたことは、大変な前進であり、今後、科学者の社会に対する意識の変革が起こることが期待されます。
今回のシンポジウムには、大変多くの方が集まり、300人を収容できる会場は、8割近くが埋まっておりました。このことは、大変多くの方が今回の報告書に対して関心を寄せられている、ということを示すものです。

 最後に、事務局長である、ピーター・D・ピーダーゼン氏から、本報告書の利用に関する説明がありました。今回のシンポジウムで配布された報告者は、すべてインターネット上(http://www.sos2006.jp/)からダウンロード可能であり、本プロジェクトでまとめられた内容は、すべて自由に活用することが可能であるということです。また、12月には、summary reports が完成予定とのことでした。



レポーター:杉浦 琴(すぎうら こと)

2005年東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻博士後期課程修了(理学博士)。現在、東京大学海洋研究所研究員。これまでの研究は、外洋域の炭素循環、沿岸域の窒素循環に関する研究など。専門は、地球化学、海洋化学。


<<第1回 「温暖化の目撃者たち」( WWFジャパン主催)

 


 top >>> REPORT

(C) Ecology Online / All right Reserved.