現在、デンマークは2050年までに化石燃料をゼロにするという野心的な目標を掲げている。そして、それを実現するために大きなキーになるのが風況に恵まれた地形を生かした風力発電だ。現在、デンマークでは風力発電でおよそ4000メガワット/hを発電し国民1人当たりとしての発電量は世界一を誇る。さらにデンマーク政府は電力消費における風力発電の割合を現在の28%から、2020年までに50%にまで増やすことを明言している。
そしてこの「電力の半分を風力発電でまかなう」という目標は決して荒唐無稽な夢を言っているのではなさそうだ。デンマークでは、政府から独立した組織による綿密な分析に基づいて、実現可能としている。
その分析をした企業「Energy Analyses」(Ea)は、デンマーク国内だけではなく、世界各国のエネルギープロジェクトに関する分析をする中立で独立した機関だ。需要予測、発電予測はもちろん、技術、コスト、政策、法律、環境への負荷などさまざまな要素を包括的に分析して結果を出す。
「分析によれば実現可能性はYESだ。でもそれを実現するための課題は3つある」
Eaの共同経営者のひとり、Mikael Togeby氏は言う。
「ひとつは風がない時にどうするか。風が強い時には何に使うのか、そして風量予測の正確性についてだ」
マーケットが風力発電の価格を決める
現在、デンマークをはじめノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧4国ではノルドプール(Nord pool)と呼ばれる電力取引市場に参加し、電力の安定供給に大きな役割を果たしている。
たとえば、デンマークで風が弱い時は、ノルウェーやスウェーデンの水力発電による電力を購入できる。また、余力がある時には他国に売ることができる。そのために、各国は送電線でつながり、電力需給に応じて電力を売り買いする。電力価格は、この電力需要という競争原理により決定する。つまり、需要が多い時は価格が高くなり、少ない時は安くなるわけだ。市場が広がることにより、電力供給も安定し、需要も価格によってコントロールできるようになる。
1999年にデンマーク政府は送電網を発電網と切り離すことを決定し、風力発電の優先的接続を義務付けている。企業が発送電を独占していると、系統への接続が広がらないことを懸念したためだ。この政策も、風力発電が広がる後押しとなった。
日本でも卸売電力市場は存在するが、全取引量の1%にも満たない。また10の電力会社が地域で独占的に発電、送電を行っているために、同じ国内でありながら北海道の風力で発電した電力を東京で使うということもままならない。さらに、風力発電会社による系統接続も電力会社によっては上限が決められているのが現実だ。
Mikael Togeby氏の言う課題のいくつかは、このような電力市場の自由化と発送電分離、送電網の幅広い整備によりクリアしていることがわかる。グリッドによりマーケットが広がり、電力需給を柔軟に受け止められる土壌ができたことで、風力という自然エネルギーを無駄なく、効果的に使える仕組みが作られたのだ。
「日本の場合も、まずはエネルギーに関する正確な分析を行うことが重要だ。その根拠を共有して議論する。そして現在ある法律や仕組みの中で何が障害になっているかを考え、最適なエネルギーミックスの形を計画する」
Mikaelが指摘するように、日本が新たなエネルギープランを実現するには正確な分析とボトルネックの検証が重要となりそうだ。
風力発電を普及させていく過程では、補助金などの政府の支援策も欠かせない。
デンマークのおよそ250社の風力発電関連会社をたばねるDanish WindのチーフエコノミストSune Strøm氏に現在の風力発電に関する補助金などについて説明を受けた。
「現在、洋上風力発電に関しては、固定価格による買取制度があり、陸上の風力発電にも補助金(0.25クローネ/kWh)が上乗せされる。しかし、このインセンティブについても2019年くらいまでだろう」
デンマークにおいても、現在は火力発電よりコスト的に高いため補助金が必要とされているが、風力による発電効率が高まり、化石燃料のコストが上昇した際にはコスト差がそれほどなくなるだろうという予測によるものである。Strøm氏は「市場から得るお金を増やすことで補助金なしでもやっていけるようになる」と説明する。
現在日本では風力発電についても固定価格買取制度がスタートしたばかりだが、30年の風力発電における歴史を持つデンマークでは市場取引だけで自然エネルギーのマーケットが成り立つことを予想している。
地域に利益を還元する風力発電
デンマークの風力発電の広がりを見るには、首都コペンハーゲンから離れて郊外に行くとよくわかる。コペンハーゲンから南西150kmにあるロラン島には460基もの風車が立ち並んでいる。ロラン島では風力発電をはじめとする自然エネルギーを90年代から率先して開発し、今や島で消費するエネルギーの5倍を発電し、その電力はコペンハーゲンなどの都市で使われている。そしてそれらの多くがロランに住む住民が所有する市民風車だ。このようにデンマークでは国内にある陸上風力の87%は市民、もしくは市民グループの所有だという。
「デンマークでは風力発電を地域の財産とするために、法律によって風力発電所の所有権の20%をコミュニティで所有することを定めている」
Strøm氏は、風力発電においても地元の人がオーナーになること、地元の意見が反映されることが大事だと強調する。投資としての還元率は10~15%に達し(Strøm氏談)、自治体を含め地域にそれらのお金が還元されることで、デンマークの風力発電は広がっていったのだ。
さらに、日本で風力発電の障害として必ずあげられるバードストライクや騒音の問題についてもStrøm氏に聞いてみた。
「環境の影響については自然保護団体を巻き込んで計画をたてている。また、騒音や健康への被害は、国際健康局の調査によっても人や生態系への影響はないと結論づけられている。火力発電所よりリスクはずっと低いよ」と説明する。
洋上風力では、発電機の土台が新たな漁礁となる例も実際にあるなど、風力発電の歴史をもつデンマークではほとんどネガティブ情報は聞かれない。
現在、デンマークでは近隣諸国と合同で大型の洋上ソーラーファームの建設が進んでいる。そして海上で発電されたエネルギーは送電線でつながり需給に伴う価格で売り買いされる。地域独占の電力会社による現在の寡占的な日本の電力事情と比べると隔世の感があるが、風力発電のポテンシャルは日本も決して小さくはない。ひとつひとつ障害をとりのぞいていけば、グリーンな未来が見えてくるはずだ。
取材・文/箕輪弥生
◆デンマークの環境政策・風力発電について
State of Green http://www.stateofgreen.com/
デンマーク大使館 http://japan.um.dk/ja/
Energy Analyses http://www.ea-energianalyse.dk/uk/
Danish Wind http://www.windpower.org/en/
PROFILE
箕輪弥生 (みのわやよい)
環境ライター・マーケティングプランナー、NPO法人そらべあ基金理事。新聞、雑誌、webなど幅広いメディアで、環境と暮らしをテーマにした情報発信や、環境に配慮した商品の企画・開発などにかかわる。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニー・マガジンズ)などがある。自身も自然エネルギーや雨水を活用したエコハウスに住む。
オフィシャルサイト http://gogreen.petit.cc/
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Yoko Lewis (火曜日, 06 11月 2012 00:43)
アメリカも日本と同じ電力会社が各州によりそのビジネスモデルは独占企業となっています。私の知り得る限りでは、サンフランシスコ湾上や外海にまだ洋上発電の風車の勇姿は見れないようですが、内陸部に行くと、20年程前から風車が丘陵地帯に並んでいるエリアがあります。実際的にスマートメーターは各家に付けられていて、電力消費の盛んな夏場はシステムをスイッチできるようになっていますが、北欧のような全体を上げてのシステムの姿とその成果は見えてきません。独立した期間がエネルギーの調査をし、それを具体的な成果に結びつけていることのすばらしい政治的、ビジネス的に存在する美意識と国民的な民度の高い価値観は、やはり北欧DNAとでもいうべき、根本的な感性の問題ではないかと思わざるをえません。日本でも箕輪さんのいうひとつひとつの絡みを解きほぐして地道に声を上げて行動していくことで、未来が開拓されていくことを期待します。