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この春から本格化する国民運動のひとつに、食品ロスを減らす「食品ロス削減国民運動NO-FOODLOSS PROJECT」がある。6省庁が連携する同プロジェクトの中心である農林水産省に勤めること20年。数々の政策に携わり、現在は、バイオマス循環資源課 食品産業環境対策室 室長としてNO-FOODLOSS PROJECTを牽引する長野麻子さんに、プロジェクトにかける意気込みを伺った。
取材・文/中島まゆみ
撮影/黒須一彦
長野麻子(ながのあさこ)さん
愛知県出身。東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業。1994年入省。10以上の部署でリサイクル、国際交渉、バイオマス利用、食の安全などに関する政策立案・推進・調整に携わったほか、フランス留学、広告代理店への出向などを経て現職。明るく元気な人柄に、周囲では笑いが絶えない。
食品ロスを減らす国民運動がスタート
食品ロス。食べられるのに捨てられてしまう食品のことをそう呼ぶ。賞味期限が切れてしまった食材、不要に厚く剥きすぎてしまった野菜や果物の皮、レストランでの食べ残しやスーパーでの売れ残りなどが含まれ、その量は、日本だけで年間500~800万トンともいわれている。食料自給率が40%しかないなか、年間約5000万トンもの食材を世界各国から輸入する一方で大量の廃棄を出すという、大きな矛盾を抱えているのが現状だ。
「本当に矛盾だらけなんですよね。ライフスタイルから見直さないといけないんですけど、食は1日3回の身近なことだし、みんなが少しずつ気をつければ変えられると思うんです。楽しく取り組めたらいいですね」
満面の笑顔で語る長野麻子さんは、バイオマス循環資源課 食品産業環境対策室 室長という要職に就きながら、威圧感を全く感じさせない明るくおおらかな人柄で知られる存在だ。省内はもとよりかつての出向先企業や関係各所でも、かわいがられ、慕われてここまできたことが容易に想像できる。
その長野さんが現在、10人の部下たちと取り組んでいるのが「食品ロス削減国民運動NO-FOODLOSS PROJECT」だ。この春から本格化するという同プロジェクトだが、具体的にはどのような展開をしていくのだろうか。
涙を流す新キャラ「ろすのん」誕生
「日本の食品ロスの半分は家庭から、もう半分は事業系からです。そのため、両方同時のアプローチが必要なんですが、事業系では3分の1ルールという商慣習があって、それがひとつの要因と言われています。今回は手始めにそこから着手しました」
3分の1ルールというのは、製造日から賞味期限までの3分の1の期間内にメーカーや卸売が小売に納品し、残りの3分の2の期間を小売の販売と消費者の消費で分け合うという、食品業界に伝わる商慣習だ。この慣習に則ると、製造から3分の1の期間内に小売に納品できなかった商品は、賞味期限に関係なく廃棄・返品されることになり、この部分で大きな食品ロスが出ていた。今回、農水省を中心に主要なメーカーや小売業、卸売業でワーキングチームをつくり、小売に納品するまでの期間を2分の1に延長することが廃棄の削減につながるかどうかの検証を、飲料と菓子に限って行っている。
「実際に行ってみたところ、約4万トンの食品ロスを減らすことができ、大きな効果があることがわかりました。今後、多くの企業で取り組んでいただければと思っています。レストランでは、食べきり運動のほか、小盛サービスや食べ残しを持ち帰ることができるドギーバッグを推奨したりもしていきます。ただ、家庭が難しいんですよね。今、消費者庁と一緒に、どうすれば消費者に伝わりやすいか意見交換しているところなんですが、こんなものもつくっちゃいました」
そう言って見せてくれたのは、トナカイのような赤鼻をもつキャラクターだ。愛嬌のある表情だが、よく見ると涙を流している。
「名前は公募で決まりました。『ろすのん』と言います。かわいいでしょう? この涙を見て“もったいないな”って思ってもらえればうれしいです。私たちも自ら率先してやらないと、ということで、まずは農水省の食堂で食べきり運動をしています。もちろん、私が幹事の飲み会でも食べ残させませんよ(笑)」
実は、食品ロス問題は日本に限ったことではない。世界全体で、全生産量の3分の1にあたる約13億トンもの食料が毎年廃棄されているのが現状だ。特に先進国では消費段階での食品廃棄が顕著で、欧州では2020年までに食品廃棄物を半減させる方策をとることをEU加盟国に義務付け取り組みはじめている。
「環境問題と同じで、食品ロスに関しても先進国は肩身の狭い状況です。日本は“もったいない”という言葉の発祥地ですから、多くの方を巻き込んで成果を出していきたいですね。2014年度は国民運動を本格化し、少ない予算ではありますが、知恵と汗を出しながら各所の取り組みを目一杯応援していきます」
食品ロスに向き合い、くらしも変化
事業者が商慣習を大きく改革するのと同時に、私たち家庭でも食習慣の見直しを迫られる食品ロス削減。長野さんも、プロジェクトに携わるようになって自身の食生活に変化が出てきたという。
「料理はするにはするんですが、あまりうまくなくて。味がワンパターン。愛知出身ですから全部味噌味とかね。それでも最近は、ニンジンやダイコンも皮まで食べるようになりましたよ。ダイコンを皮まで食べるなんて言うと驚かれますけど、うまく薄くむけないので、ごしごし洗って食べてます。全然大丈夫。買い物でも、賞味期限ギリギリのものを前から買うようになりました。すぐ食べるんだからいいんですよ。20円引きなんてシールが貼ってあったら必ず(笑)。余った料理も捨てずに、次の日に別の料理にアレンジします。カレーが残ったらカレーうどんにする程度のレベルなんですけどね」
笑いを交えながら自分に起きた日常の変化を挙げる長野さんだが、「ささいなアクションこそ、積み重ねることで大きな変化になる」と確信している。それは、かつて取り組んだ「バイオマス・ニッポン総合戦略」での経験に基づいている。
「10年ほど前、家畜の排泄物や生ゴミ、木くずなどのバイオマス資源を活用するプロジェクトの立ち上げに携わったのですが、当時はたこ部屋と呼ばれる小さな部屋からスタートしたんです。でも、コツコツと続けてきたおかげで今では社会での認知も進んで、課の名前にまでなって感慨深いなって。
今回のNO-FOODLOSS PROJECTについても、みんなが気づいてやってもらえるような楽しい仕掛けをいかにつくれるかがカギだと思っています。以前お邪魔したパーティーで、参加者全員が1人1個、冷蔵庫に眠っている食品を持ち寄り、それをシェフがその場でおいしい料理にアレンジしてみんなで食べるというイベントがあったんですが、とても新鮮で良かったです。サルベージパーティーって呼んでいましたね。こういう企画はなかなか私たちには思いつかない。民間の方々にもぜひたくさんのアイデアをいただき、一緒に進めていきたいと思っています」
現場に足を運んでこそわかる、食のこと。自然のこと。
長野さんはよく現場に顔を出す。食品リサイクル工場や養豚業者、フードバンクの現場など、気がつくと足を運んでいるという。
「うちの局の管理職で一番出張が多いって言われてます。織田裕二タイプです(笑)。仕事柄講演などに呼ばれることも多いんですが、机上で得た知識だけで話をするのと現場を見て知って話をするのとでは聞く人の懐への落ち具合が絶対に違うと思うので、なるべくたくさんのことを経験したいと思っています。幸い職場も雰囲気がよくて、気兼ねせずに出張させてもらっています。農水省はおおらかな人が多いんですよ。農林業を相手にしていると、人間のチカラでできることとどうにもならないこともあるんだって、みんな悟っているんじゃないでしょうか。それが伝播している気がします」
職場のメンバーの話をそれまで以上にほころんだ表情で話す長野さんだが、最後は室長らしく、プロジェクトへの意気込みを語って締めくくってくれた。
「愉快で心優しい部下と一緒に食品ロス削減、頑張っていきます。期限内に食べる、食べ残さないなど、みんなが少しずつ気をつけるようになったら、食品ロスもきっと激減します。ろすのん共々、NO-FOODLOSSへのご協力よろしくお願いします」
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平岡愛 (月曜日, 12 5月 2014 11:14)
初めまして。東京女子大学で
国際関係を専攻しております、
平岡愛と申します。
いきなりのコメント失礼致します。
私も同じ考えをずっと持っていて、
イベントをしようと考えておりました。
よろしければ今度お話するお時間を
いただけたら非常に嬉しいです。
特定非営利活動法人エコロジーオンライン (水曜日, 14 5月 2014 09:06)
平岡さま
コメントありがとうございます。
エコロジーオンライン編集長の中島まゆみです。
エコピープル、長野麻子さんの記事にご興味をもっていただき
大変うれしく思います。
お時間があるときにでもお会いして、意見交換などいたしましょう。
下のお問い合わせから改めてご連絡ください~。
http://www.eco-online.org/%E3%81%8A%E5%95%8F%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B/