ポイント・グリーン。それは、みんなの脳の中にある"小さな環境意識"

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心療内科医でもある、環境大臣・鴨下一郎さんに

お話を伺いました。

 

取材・文:温野 まき 撮影:織田 紘

鴨下一郎 (かもした いちろう)さん

1949年東京都足立区生まれ。医学博士。心療内科医として医療現場で心の病の診療にあたる。93年の総選挙で初当選し政界へ。翌年に環境政務次官に就任。2002年には厚生労働副大臣に就任するなどし、07年から環境大臣に就任。06年からポイント・グリーン キャンペーンを展開し、全国各地で音楽フェスやエコ・イベントを開催している。今年もG8サミット記念ライブ、七夕ブラックイルミネーションなどを開催。

 

環境問題の解決にリーダーは要らない

 政界に入って15年。昨年、安倍内閣に引き続き、福田内閣でも環境大臣に任命された鴨下一郎さんは、環境大臣になる以前から環境問題に向き合って行動を起こしてきた人だ。かといって、その方法は政治家にありがちなトップダウンではない。

「私は環境問題の解決にリーダーは要らないと思っています。上から"やれ!"と言われたら、かえってみんなの意識はしぼんでしまうかもしれない。いままでにもすごく熱心な人は何人もいたけれど、その人たちだけでは世の中は動かない。1人が一生懸命に旗を振るよりも、みんながちょっとずつ意識することが大切です」

 そこで鴨下さんが広めているのが "ポイント・グリーン" という考え方。ポイント・グリーン? これって、環境に優しい物を買うと貯まるポイント!? と思いきや、"頭の中にある小さな環境意識"のことなのだそう。

 

「頭の中をCTスキャンなどでスライスして見ると、ちょっとグリーンの部分がある... そんなイメージですね」

 もともと心療内科医でもある鴨下さんは、人の "意識" がどのように"行動"につながるかをこんなふうに説明してくれた。

「私たちは行動する前に、頭の中に何らかの考えが "芽" としてないと、行動には至らないわけです。逆に言うと、頭の中で強くイメージしたものは必ず実現すると言ってもいい。環境問題について行動している人は頭の中はほとんどグリーンな状態。一方で、環境は大事だと思っていても、寒いところでダウンジャケットを着て我慢するってわけにはいかないし、10分くらいだったら歩いて行けばいいのに、つい車に乗ってしまう...というように、わかっているけれど行動できない人も多い。でも、そういう人の頭の中にもちょっとずつは環境のことを考える気持ち、つまりポイント・グリーンがある。みんなの頭の中にあるポイント・グリーンは、1人だと小さいけれど、みんなで表現して発信し合うと行動に結びつきやすくなってくるんです」

 頭の中にあるポイント・グリーン=環境意識を発信する方法はいたって簡単。緑色のアイテムを身につければいいのだ。携帯のストラップでも、アクセサリーでも、手帳でも、ハンカチでも何でもOK。自分が普段身につけているアイテムでさり気なく表現できてしまう。

「あの人も、この人もグリーンなものを身につけている。みんな環境のことを意識しているのか。そうか...って心強い気持ちになって、だったら自分も行動してみようと。たとえば、1人だったら早起きして会社に行くのは辛いけれど、みんなが電車に乗って行くと当たり前になるでしょ。それと同じように、まず環境について意識してもらって、意識をしている人たちがワンポイントのグリーンで表現する。それがネットワークでつながって、だんだんみんなの環境意識が高まってきて、閾値を超えると、ある瞬間に行動へと変わるんです。その行動は三日坊主で終わるかもしれないけれど、自分が三日坊主、隣りの人が三日坊主、その隣りの人が三日坊主...ってやれば9日間誰かがやっていることになる。自分は3日で飽きてしまったけれど、誰かがやっているのを見て、じゃあまた自分もやろうか、という相乗効果が生まれる。そのためには、まずは、環境のことを意識している仲間を増やしていかなくては」

 みんなの中に芽生えた小さなポイント・グリーンが、いつか大きな変化を生み出すと鴨下さんは信じている。

 

一人ひとりがグリーンのアイテムで表現して欲しい

「かつては、100年くらいかかって変化したパラダイムが、情報社会によって10年くらいで変わる可能性があります。環境を意識した価値観が次のパラダイムになっていけば、まだ間に合う」

 

 "まだ間に合う"という言葉に、鴨下さんが大きな危機感を持って、ポイント・グリーン運動に取り組んでいることがわかる。その危機感の源は、環境大臣という職務に就く遥かむかし、中学生時代にまでさかのぼるのだった。

「私が中学生の頃は、日本は高度成長期で、東西冷戦が始まって、また核戦争が起こるんじゃないかっていう時でした。当時、恐怖の対象は核戦争だったけれど、その後に公害問題が出てきたり、乱開発が行われたりするのを知るにつけ、このまま人類は滅びるのかな...と考えた。昆虫や植物が好きな少年だったこともあって、サスティナブルな生き方ってどういうことなんだろうなって、悩みに悩んで夜も眠れず死にそうになったほど。いま考えてみると、あの年頃にありがちな"生への執着"であり"死への恐怖"だったんじゃないでしょうか。それが私のポイント・グリーンの芽生えで、いま、政治家をやるうえで世の中を変えるのにはどうしたらいいか、ということにつながっているんだと思います」

 間に合わなくなる前に、より多くの人にポイント・グリーンを広めるために鴨下さんが行っているのが音楽フェスなどの開催だ。そこには、思い思いのグリーンのアイテムを身につけた人たちが集まって来るという。
「私のいまの到達目標は、出身の足立区の荒川河川敷で100万人のエコライブをやることなんです。人間って情緒の部分が大きくて、何を言われるんだろうかって、理性で思っているときは、なかなか脳の中に考え方が染み込まない。でも、感動しているとき...つまり心が動いている状態なら、警戒心というドアがポンッと開いている。そういうときに、まわりの人も自分と同じ思いで、アーティストもメッセージをくれたら、そうだ!って思えるんですよ」

 なるほど、エコ、エコって声高に叫ばなくても、グリーンのアイテムを身につけて表現(=発信)するだけでいいんだ。それならやってみようかな、という気持ちになってくる。
「私は、変化までにはそんなに時間はかからないと思っています。"まりも羊羹" って知ってる? ゴムで包まれた丸い羊羹で、爪楊枝で刺すとツルンと剥ける。みんなの環境に対する意識が中身の羊羹だとすると、もう、ぱんぱんになっている状態に近いと思う。あとは、いつ楊枝が刺さるか。まだ捨てたものじゃない。みんなでがんばりましょう」
 今年は、7月に北海道の洞爺湖でG8サミットが開催される。しかし、政治の力だけでは何も変えられないということを、鴨下さんは改めて教えてくれたのだった。

 

サイト

ポイント・グリーン オフィシャルWEBサイト

URL: http://www.pointgreen.jp/

 

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