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J-WAVE編成局編成部長の
久保野永靖さんにお話を伺いました。
取材・文:温野 まき 撮影:織田 紘
久保野永靖 (くぼのながやす)さん
神奈川県出身。J-WAVE(81・3FM)の編成局編成部長。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店に入社し、1994年にJ-WAVEに入社。渋谷プラネタリウムイベント「SLOW LIFE GALLERY」、「Are you UNIQUE?」、「THINK !TOMORROW」、「UNIVERSAL LOVE」など話題のキャンペーンを企画し、今年は「GROW GREEN PROJECT」を展開、7月からはエコアクションでプレゼントがもらえる「グリーン・アクション・マイレージ」を実施中。
"グリーン"は世界的な合言葉
この春、"東京にグリーンな気持ちを広げよう!"ということでスタートした J-WAVEの「GROW GREEN PROJECT」。その試みのひとつとして6月まで配布されていたのが、ゴーヤの種だった。入手して蒔いた人は、ゴーヤの成長を日々楽しみにしていることだろう。
自分の家や会社の壁面にゴーヤのグリーンカーテンを育ててみたいという思いは、どんどん広がり、当初の予定3万袋を大幅に超える4万袋を配りつくした。このプロジェクトの中心人物が、同局編成部長の久保野永靖さんだ。
「なぜゴーヤだったかというと、まず、グリーンカーテンで涼んでほしいっていうのがありました。それに、食べられる楽しみもあるから、自分の生活に取り入れやすい。GROW GREEN PROJECTは、街の緑化推進というだけじゃなく、そこから生まれる気持ちが大事なんです」
なるほど、芽が出る喜びを感じたり、実がなるのを待ち遠しく思ったり、いままで素通りしていた街の植物に視線がいったりと、種を蒔くという小さな出来事は新鮮な"気持ち"をもたらしてくれそうだ。
そんな清々しいプロジェクトの呼びかけには、一般の人たちだけでなく、IDEE SHOP、adidas、ソトコト、planted、TOHOシネマズ、DEAN&DELUCA、JR東海、東京トヨタ、大塚製薬、Earth Day Tokyo、earth day moneyほか、多くの企業やNPOが参加し、垣根を超えたムーブメントとなった。
「今年は、エコロジーや、やさしさという意味合いで、世界的に"グリーン"が合言葉になっているような気がする」という久保野さんは、いままでも、「Are you UNIQUE?」、「THINK!TOMORROW」、「UNIVERSAL LOVE」といった、みんながちょっと気になるコミュニケーション・ワードを提案してきた人だ。
「僕は、ぼんやりだし、気が利かないんだけど、これ面白いなぁ、いま必要なのはこんなことかもしれないなぁっていうのが常にあって、わりとその勘は大切にしています」
聴いているだけで気持ちいいラジオ・ステーションに
「ラジオは、ふと耳に入ったときに頭の中でイメージできるから、知的な理解をしやすい。聴覚しか使わないけれど、五感をフルに使っている以上に感覚的だと思います。それに加えて無目的というか、目的をはっきりさせて聴いてはいないから、リスナーが予想していないことが起こる。ある曲がかったときに、え?この曲なに?って知りたくなる刺激もそう。人間の好奇心や本能的欲求が体験できるメディアなんです」
そうしたラジオというメディアのなかでJ-WAVEが担う役割とは?
「みんなが好きな音楽だけを放送するんだったら、iPodと同じですよね。ラジオにはそれにプラスワンした機能が必要だと思うんです。J-WAVEは東京のローカル局なので、東京のアイコンとしてのステーションは、どんなメッセージを発信したらいいのか、どんな機能があるのかを考えながら、街を歩いています」
今年開局20周年を迎えるJ-WAVEは、実は、とても早い時期から、エコバッグつくり、フリーマーケットを開催するといった、エコロジー的な発信をしてきたラジオ・ステーションでもある。
「都市生活と環境問題は表裏一体です。便利な暮らしがあるからこそ、同時にエコロジーについて考えていく必要がある。J-WAVEでは2005年から『グリーン・キャスティング・デイ』と名づけて毎月1日と祝日に風力発電や水力、バイオマスといったグリーン電力 * による放送を開始しました。自然エネルギーを使うことで、"聞いているだけで気持ちいい"っていう感覚を伝えたかった。結果的に、エネルギーソースの選択は、従来型の発電システムだけでなく、まだほかにもたくさんあるんですよっていうプレゼンテーションにもなりました。自然エネルギーについては、かなりの宣伝ができたんじゃないでしょうか」
やさしさ"と"多様"、そして"つながり"
久保野さんの思いは、温暖化の解決やCO2を減らそうということだけでもない。
「この先、100年、200年と人類が生きていくとして、自分の利益ばかりを考えて、子どもや子孫のことを考えずに地球の資源を喰いつくしてしまうのか、それとも、未来のことを考えることができる種なのか問われているんだと思います。僕は、エコという考えの先に"やさしさ"という、大きな視野を持てたらいいなと。それから、"多様"も大事なキーワード。それぞれの違いを認め合うことですね」
やさしくなれること、違いを認め合うことで、人は利己主義から解き放たれて、つながり合えるのかもしれない。防災士 * の資格を持つ久保野さんは、これからの時代は、特に地域やコミュニティとのつながりが重要だと感じている。
「2004年くらいに、国はもう面倒みることができませんから、みなさん自助努力してください!って、社会構造が変わった感じがしたんです。いろんなものが官から民へ移行して、気がつけばNPOもたくさん増えた。もし大規模災害が起きたら、国が動くまでは自分たち自身で地域を助けるしかないでしょ。その時に地域の人たちのつながりは大切だし、いろいろなNPOも活躍する。災害の時に限らず、普段からラジオはその地域コミュニティのハブになれるはずだと思うんです」
そして、今、何よりも面白いのが、地域やコミュニティ、NPOなどで出会う人たちなのだとか。
「保守で革新でもない第三世代層の志向っていうのがあって、それが東京の新しい潮流になる可能性を持っている。文化の感応力が高いニュータイプが出て来ていると感じます。そういう可能性をもった若者たちが今、NPOやコミュニティに集まっているように思うんです。ついつい"応援するよ"なんて言っちゃうんですよね」
「J-WAVEは、未知の世界とリスナーをつなぐ扉のようなもの」と、久保野さん。共感して、扉を開けて入って来た人たちが、それぞれ自由につながってほしいという。
「お互いに距離感がある東京だからこそ、つながっていくといいと思うんです」
地球温暖化は、もちろん止めなくてはいけない。でも、その前に、自分はやさしいだろうか、誰かとつながっているだろうか。インタビューを終えて、そんなふうに問いかけてみたくなった。
(※注)
グリーン電力...環境に負荷を与えない自然エネルギーによって発電された電力。風力、地熱、太陽光、バイオマスなどがこれに当る。
防災士...特定非営利活動法人日本防災士機構による資格。防災意識の啓発や災害時の避難誘導や救助などに当る。
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