暮らし×音楽×エコロジー その歌声はやさしくあたたかく

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ミュージシャン HARCOさん

Quinka, with a Yawnさんに

お話を伺いました。

 

取材・文:宮崎 伸勝 撮影:織田 紘

HARCO & Quinka, with a Yawn (はるこあんどきんかうぃずあよおん)さん

HARCO(はるこ)さん 青木慶則のソロ変名ユニット。'97年よりHARCO(ハルコ)名義で活動を開始。シンガーソングライターでありながら、キーボード全般、ドラム、マリンバなど多くの楽器が演奏できるマルチプレーヤーでもある。05年11月にリリースした「世界でいちばん頑張ってる君に」がスマッシュヒット。最新アルバムは07年12月リリースの「KI・CO・E・RU?」。 Quinka, with a Yawn(きんか、うぃずあよおん)さん 青木美智子によるソロユニット。 暮らしの中の何気ない気持ちを歌うことをテーマに、CMの作曲・歌唱、アーティスト仲間との様々な形でのコラボレーションなど多彩な音楽活動を繰り広げている。最新アルバムは08年1月リリースの「Field Recordings」。

 

暮らし×音楽×エコロジー その歌声はやさしくあたたかく

 東京・渋谷のライヴスペース。開場前、客席の列の間をHARCOさんは向こうへこっちへと走り回っていた。『きこえる・シンポジウム2008夏』...音楽とともに地球環境のことをゆったりと感じて欲しいという想いで企画されたイベントのプロデューサーとして、ステージスタッフ、出演ミュージシャン、ブース出展者との挨拶や打ち合わせがめまぐるしく続く。開演してからも、PAブース、楽屋、ステージサイドへと動き回る。「一生懸命」そう書いてあるような顔だった。そしてイベントのトリを取る形でステージに登場。この日のオープニングステージを飾った共同プロデューサーのQuinka, with a Yawnさんがキーボードとコーラスでサポート。歌声は、まるで解き放たれた香りが風にのっていくように会場を包んでいった。

 ともにミュージシャンであるHARCOさんとQuinka, with a Yawnさんはご夫婦でもある。2人が「環境のために何か行動しないと」と明確に思い始めたのは、わずか1年前のことだという。
「ゴミ出しに行った時に思ったんです。なんでこんなにゴミが出るんだろう?...って」と語るHARCOさんは、趣味で山登りをするようになって以来、そこで見る現実が本やテレビで見てきたものと違うことに違和感を感じていた。Quinkaさんは、ちょうど去年の夏に全曲を長野の古民家でレコーディングしたというアルバム「Field Recordings」の制作が転機になった。子供の頃から自然に囲まれた場所で遊び、野菜も栽培していたという家庭に育った彼女は「緑の気持ち良さを伝えたい」と強く思うようになった。そして出会った映画『不都合な真実』。その最後にこんな言葉が出て来る。"この問題について声をあげましょう"...2人は揃ってこの言葉に動かされた。

 

 HARCOさんとQuinkaさんの活動はこうして家庭発で始まった。だから2人からのメッセージはすんなりと私達の心に溶け込む。会議室から始まった話ではないというのは大事なポイントかもしれない。ぜひ一度CDを聞いて確かめてみて欲しい。

「ミュージシャンという視点だけでなく、家族の視点でやってる部分ってあると思います。だから『きこえる・シンポジウム』では"生活感"っていうテーマが自分の中にありました。これ用に作った特設サイトは、イベントが終わった後も僕たちのホームページに残してあって、環境のためにみんながどんなことをやっているか...今も意見交換が続いているんですよ」

 エコとは "企画"ではなく"生き方"なんだという姿勢がHARCOさんのこの言葉から伝わって来る。だからといって何が正しいのか、仕事にエコを絡めても本当にいいのか...真剣に悩んでノイローゼになりそうになったこともあったらしい。そもそも音楽の作風として「生活感」や「暮らし」の要素が多い2人である。家庭から始まった小さな変化は、それぞれの考え方にもさらにフィードバックを起こす。Quinkaさんはこんな風に説明してくれた。

「自分の周りのものをちゃんと見ることが大切だという想いは、今まで以上に強くなってきました。世界でどういうことが起きているかを知れば知るほど、まず自分の所をちゃんとしないと!って思うし。家族とか、使う水の量とか、一番近くを逆に気にするようになりますよね」

 そんな2人のエコに対する微妙な考え方の違いが、家庭っぽくてまた面白い。HARCOさんによると、「僕はちゃんと節約できているか結果が数字で実感できないとだめなタイプ。例えば電気。使っていない部屋はブレーカーごと切っちゃったりもするんですが、後で電気代の領収書を見てその成果に満足するタイプ。でも彼女は"やることに意義がある"っていうプロセス重視型」

 一方、2人は自宅の庭で野菜も育てている。たい肥作りから手掛ける本格派だ。「生ゴミ、落ち葉、米ぬかなどを混ぜて作ってます。毎朝虫との戦いですけどね。でもそのおかげで色々な虫を発見します。土を掘れば何かの幼虫とかミミズとか。もちろんカマキリやバッタなんかもいるし...昔は虫が苦手だったはずなんですけどね」と、子供時代はインドア派だったHARCOさん。

 そして仕事の場面でも、2人はこの1年間で次々とエコ化を実践中だ。冒頭で紹介したイベント『きこえる・シンポジウム』では会場内のドリンク容器にリユースカップを使用。使用電力はもちろん自然エネルギー。その申請も自らが行うだけでなく、実際に各地の風力発電施設へ足を運んだ。里山にも行った。その様子をオーディエンスに映像で紹介。また、ここ最近2人が取組んでいるのが、ステージ上で喉を潤すために飲むドリンクを水筒に入れることだ。これは「My Stage Bottle」と名付けて音楽業界に広く提唱を続けている。

「ミュージシャンの中でもエコに対する姿勢は様々で、そういうことやってるんですよ〜って話しても、"ふ〜ん"って言ったっきり会話が終わっちゃうことも珍しくないんです。だから人に話すのも意外と勇気がいるんですよね」

 そんなQuinkaさんの話を聞くと、音楽業界も私達の周りの社会も同じようなものだと感じる。ミュージシャンだから特別な状況にいる訳ではないのかもしれない。

「自分の得意なやり方が何かを見つけると楽ですよね。あと頑張り過ぎないことも結構大切かも知れません。例えば6%減らせてるかも...って思ったら、あとはそれを持続させることに集中した方が、"もっともっと"って思って息切れしちゃうよりいいですよね」とHARCOさん。今回の『きこえる・シンポジウム』は前回(2007年12月に開催)よりも大きな会場でできたので、今後は規模に関係なく、このイベントを続けることを重視したいと考えているそうだ。

 

 「自分の暮らし」「自分の仕事」...等身大の自分自身を見つめた1年間。

だからこそ、HARCOさん・Quinkaさんが口にするメッセージには、私達の背中をやさしくあたたかく押してくれる力があるのかもしれない。

 

 取材の後、近くの駅までHARCOさんが車で送ってくれた。

 やめるかどうするかの夫婦会議の末、「楽器を運ぶ時くらいにする」...ということで手元に残した普通のワゴン車だ。車で1km走るとビニール袋10枚分のCO2を排出するという話を聞いて以来、「走っていると、フロントガラスの向こうでビニール袋が飛んで行くのが見えるようになってしまった(笑)」というHARCOさんは、赤信号でそっとアイドリングを停めながら、「次の夢はエコツアーに参加してみたいんです」と話を続けた。

 

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