自然の力、おひさまからの恵みの価値を広めたい

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パッシブソーラーハウスの第一人者

石原信也さんにお話を伺いました。

 

取材・写真:岩間敏彦

石原信也 (いしはら のぶや)さん

1954年生まれ。浜松市内の工務店に勤めた後、1987年4 月、株式会社オーエムソーラー協会に入社。取締役などを経て、2004年4月から代表取締役を務める。現在はOMソーラー株式会社会長

 

太陽の熱エネルギーを活用した家づくり

 もうすぐ暖房が活躍する季節。暖房温度を控えめにするとしても、電気や灯油の消費に抵抗感がある人が多いのではないだろうか。家庭で消費するエネルギーのうち、約60%を暖房や給湯が占めるというデータもある。冬のエネルギー節約は大きなテーマだ。

「でも、暖房やお湯をわかすのに、それほどエネルギーはいらないんです」と、OMソーラー株式会社の代表取締役、石原信也さんは断言する。

「熱は、手を擦り合わせると温かくなるぐらいのエネルギーです。暖房で必要な温度は20~23℃ぐらいで、お湯で必要な温度もせいぜい40℃ぐらい。それをつくるのにわざわざ電気を使う必要はあるのだろうか。太陽のエネルギーを熱としてダイレクトに利用できるのではないだろうかと考えたんです。そして生まれたのがOMソーラーでした」

 OMソーラーの家では、冬は太陽の熱で温めた空気を、基礎部分に送って熱を蓄えておき、夕方以降に放熱して建物全体を暖める。夏は屋根の熱を利用してお湯を採り、余った熱を屋外に排出する。このように説明すると複雑そうだが、石原さんたちの考えはとてもシンプルだ。

「昼間に干した布団は夜も温かいし、洗濯物は太陽と風で乾きます。どちらも電気を使う必要はありませんよね。そんな仕組みを家の単位で活用したのがOMソーラーの家なんです」

 

ぬくもりと安全が両立した家

 太陽の力で暖房をするので、地域によっては補助の暖房が必要だが、太陽さえ出ていれば留守の時でも家を温めておいてくれる。だから夕方、家に帰ると、まるで誰かが留守番していたかのようなぬくもりで出迎えてくれるのが特長の一つだ。OMソーラーの家に住む多くの人は、その瞬間に「OMソーラーのありがたさを感じる」と語っている。木の床でも裸足で歩ける、室内に置いた観葉植物の育ちがいい、子どものぜんそくが良くなったといった話もよく耳にするという。

「すべてがOMソーラーによる効果というわけではなく、生活スタイルが変わったことも大きいと思いますが、吹き抜けの大空間にしたこと、全館暖房にしたことなど、家づくりに与えた影響も大きいと思います」

 全館暖房は、実はとても大切なこと。家の中に温度差があると、ヒートショック(*1)が起こる可能性が高まるからだ。実際にヒートショックによる事故例が全国で一番少ないのは、全館暖房が当たり前の北海道というデータがある。そんな事故が起きにくいことも、OMソーラーが選ばれる理由の一つになっているようだ。

 

一棟ずつ実績を築き、進化し続けるOMソーラー

 OMソーラーの家が生まれたのは1987年。パッシブソーラーを(*2)研究してきた建築家、奥村昭雄氏と、石原さんが勤めていた浜松の工務店が共同で、総合展示場にOMソーラーの家を展示することになった。その際に空気の力で床暖房できるという小さな記事が業界新聞に載ったところ、ノウハウを教えて欲しいという声が全国の工務店から寄せられた。そこでOMソーラー協会を設立することになり、石原さんも加わった。

やがて石原さんらはワゴン車にコンピュータや資料を積み込み、全国の主要24都市での説明会を開始する。しかし、100名ぐらい入る会場に1社しか来ず、「あなたのために来ましたと」言ったこともあるという。それでも冬にマイナス数十℃になる釧路で、しっかりと暖かい家が建つなど、次第に効果が実証されるようになった。

 以来、約20年たった今も普及への試行錯誤が続いている。現在の課題は得た熱エネルギー量を数値化して表現することだ。メーターで測定できる太陽光発電と異なり、太陽熱、とりわけ暖房効果の測定は難しい。そのため、"太陽熱市場の再生"に取り組んでいる東京都とともに、取得したエネルギーを数値化する方法を検討しているという。

「東京都では、来年の4月に熱エネルギー証書を発行することになっています。これによってますます熱エネルギーの価値が注目されてくるはずです。そして東京都が動くことで全国の自治体にもこういった制度が広がっていくと思います」と、石原さんは期待する。

 次世代エネルギーとの融合にも取り組んでいる。

「僕らは太陽エネルギーのうち、太陽熱の活用を一生懸命やってきましたが、太陽光発電や、燃料電池などの次世代エネルギーとの融合も考える必要があると思っています。OMソーラーの家づくりは、あくまで太陽熱利用と、それを有効利用できる建物の性能、設計手法がベースですが、その上で、次世代エネルギーとの最適な融合を目指しています。すでに太陽熱を取り込むファンや、お湯を採るためのポンプを太陽電池で動かしているんですよ」

 

太陽エネルギーの利用はますます広がっていく

 増改築やリフォームへの進出も考え、試行段階にある。現在は狭小地域や増改築、別荘などでも活用できるようなシステムにも取り組んでいるところだ。さらに最近では農業関係から、「作物の温室や、養鶏場、養豚場などにOMソーラーを導入できる可能性はないか」との問い合わせも増えてきているという。

「燃料代の高騰が大きな引き金になっていると思いますが、燃料の問題だけではなく、これからの農業のあり方、食に対する人々の意識の変化などもかかわることですから、他業界の話だからと見過ごせないと感じています。こういった分野でも太陽エネルギーの有効利用が進むことが、改善のための一つの手段になるのではないかと考えています」

 取材中に見せていただいたOMソーラーのCM(サイトで視聴可能)の中では、次のような言葉が使われていた。「夏は夏らしく、冬は冬らしく。自然の力とともに暮らしを楽しみたい。古い民家が夏涼しいように、干した布団が夜もあたたかいように。そんな家づくりができないだろうか」。OMソーラー株式会社は、これからも太陽熱の有効活用と、自然と共生する暮らしの価値を発信し続けてくれるに違いない。

脚注

*1 ヒートショック  

急激な温度の変化により、血管が急激に収縮し、身体に異変を及ぼすこと。心臓や脳内血管にダメージを受ける例が多い。

*2 パッシブソーラー

建築的な方法や工夫によって太陽や風などの自然エネルギーを利用する方法。それに対して集熱器のような特別な装置で太陽熱を濃縮したり、電力に変換したりするのはアクティブソーラーと言う。

サイト

OMソーラー株式会社

URL: http://omsolar.jp/

 

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