こんにちは。
ここ数日、連日28℃を記録し夏らしい日が続くロラン島ですが、畑では小麦、大麦、ライ麦などの収穫が始まって、秋の気配もちらほら、といった感じです。庭にはりんごやすもも、ブラックベリー、洋梨がたくさん実って、そろそろ食べ頃となってきました。我が家にはりんごの木が11本あるのですが、古くからある木で種類も様々、時間差で熟すので、これから冬にかけては、ほとんど果物を買いにいく必要がないほどです。というより、我が家では当然食べきれないので、ご近所に配ったり、学校や森の幼稚園、施設などにお裾分けをしたりして、おいしいうちに食べてもらうようにしているんですよ。息子は、この時期になると、毎日カゴやボウルを持ってせっせと庭に出て、おいしそうに色づいた色とりどりの果物をとって来ては、おやつに食べています。私と夫は、暇を見つけては、ジャムを作ったり、ジュースにしたり、保存食作りにいそしみます。手間と時間がかかりますが、今これをやっておくと、冬の間やクリスマスのケーキやおやつ、料理に大活躍するので、やっぱり楽しんで作っちゃいます。今年もどうやら大豊作なので、お義母さんにも手伝ってもらわなくちゃ、ですね。
ところで、先日、神奈川県の私立の幼稚園の園長先生や教諭の方々11名が、ロラン島にある森の幼稚園2園に視察を訪ねてくださったんですよ!私は、コーディネーター兼通訳として同行させて頂きました。森の幼稚園は、1970年代にデンマークで始まった、自然とのふれあい、環境を意識した教育を通して、健康な子供を育むことを目指した、ユニークな保育システムです。ロラン島の森の幼稚園では、一年中、毎日朝8〜9時頃から午後4〜5時頃まで、子供たちはどんな天気でも森の中で過ごしているんですよ。
まずは、ロラン市立の森の幼稚園「Troldkrogen(北欧神話に出てくる、森の小人トロルの住処、の意)」から視察を開始。先生方は、まず茅葺き屋根の園舎にびっくり!うっそうとした森の中に入ると、木で作られた大きなテント小屋があり、またまたびっくりです。この日はまだ夏休みを取っている家族が多いこともあり、園児は10人ほどでしたが、普段は30人前後の園児を、園長先生と2人の保育士さんで見ています。
この森の幼稚園では、毎週テーマが決まっていて、例えば「魚」というテーマの週は、先生と子供たちとで、「魚はどこにいるのだろう」という話し合いをすることから始まります。そして近くの湖まで魚釣りに行って、釣って来た魚を観察し、それをさばいて、料理し、ありがたく頂く、という流れです。「穀物」というテーマでも同様に、例えば小麦はどこにあるのかを話し合い、園内で小麦を栽培したり、もしくは小麦栽培農家を訪ねて収穫を手伝い、その小麦をもらってきて石臼で粉に挽いて、それに水と酵母などを加えて手作りのかまどでパンを焼くという、電動や自動の器具などは使わないシンプルな工程を体験します。そうすることで、子供たちが自然、食、暮らし、社会の全体像をとらえられるよう手助けをするのだ、と園長先生は話していて、日本の幼稚園の先生の皆さんは、それを熱心に聞いていらっしゃいました。
森の中の、8000㎡強の広い敷地内では、「のこぎり工房」「トンカチ工房」「ナイフ工房」「穴掘り工房」「音楽工房」「料理工房」「お話コーナー」など、テーマに合わせて柳の枝をカゴのように編んで作ったエリアが点在しています。大人は、子供たちができるだけ興味を持ってやり始めた遊びをやりとげられるよう、極力そっと見守ることになっているので、子供たちは思う存分、イマジネーションを駆使して、遊びの世界に没頭できます。木のベンチやテーブル、柳細工、木の枝で作った人形、木の切り株や枝、いらなくなった鍋などで作った楽器などはすべて森の幼稚園の園長先生や保育士さん、それにここに通う子供たちのお父さん、お母さんたちの手作り。デンマークの森の幼稚園では、親が共働きの家庭が多いせいか、日本の幼稚園の運動会などのように、あまり親御さんが参観できるような行事はありません。その代わりに、年に2回ほど、金曜日の午後や土曜日に親も子供も一緒に集まって、森の幼稚園をもっとよくするためにはどうしたらいいか知恵を出し合い、先生たちも一緒に森の幼稚園の設備の補修をしたり、木や縄で新しい遊具を作ったりしながら、先生や園児の親たちとの交流を深め、子供たちが森でどんな風に過ごしているかを知る機会としています。この森の幼稚園は、開園してもう17年が経ちますが、今でも長い入園待ちリストができているという人気の園です。「文化、感覚能力、身体能力という基本的な事柄に加え、自然との共存、社会性、民主主義などを、子供なりにトータルにバランスよく身に付けることが大事」。園長先生のラウネはそう教えてくれました。
お昼をはさんで、今度は、私立の森の幼稚園「Den Blå Anemone(青いアネモネ)」へ。この園のあるブランストロップの町では、学校や保育所の閉鎖を受けて、過疎化が進みかけていた地域に活気を取り戻すべく、地域住民が一致団結。子供を持つ親や地域から要望の多かった森の幼稚園を、本当に作ってしまったのです。私も運営・サポート委員として立ち上げに参加し、息子もこの森の幼稚園のお世話になりました。今では、平均して35人の園児を、園長先生を含む6人の保育士が見ています。この園は、私立ということで、園の運営は父兄からなる運営委員会が行い、園の経済支援活動はサポート委員会が実施。今では、3年先まで入園の予約でいっぱいという人気の幼稚園に成長しています。
ここは、10月で設立4年目を迎えるという若い園ということもあり、約1ヘクタールの森の敷地内はとてもシンプルです。この園ではまかないさんが月〜木曜日までは毎日、子供たちと先生たちのためにお昼ご飯を作ってくれるので、そのための小屋と、あとは大きなインディアン・ティピーがひとつあるのみ。あとは、あちこちに丸太が置かれていたり、大きなネットが木と木の間にハンモックのように取り付けられていたり、木の太い枝に縄をくくり付けただけのブランコのような遊具が、木の枝からぶら下がっていたりするだけです。先生は、例えば「このハンモックには、3人まで一緒に乗っていいよ。それ以上だと危ないからね」と子供たちに教えます。あとは子供たち同士で、どうしたら上手い具合に、順番に3人ずつ乗ることができるかを考えながら遊ぶのです。先生は、子供たちの自主性に任せ、事の成り行きを見守っています。こうしたやり方が、日本の先生方には新鮮に映ったようで「森の幼稚園の先生は、ギリギリまで子供に声をかけるのを待つ。本当に辛抱強く子供たちを見守ることができるんですね」と感想をおっしゃっていました。
「青いアネモネ」では、毎週金曜日に先生と子供たちが、ティピーの中のたき火でお昼ご飯を作るのですが、この日は、特別に子供たちがにんじんの皮をむき、細かく刻んで、それを混ぜ込んで焼いた自然な甘さのおいしい自家製パンをごちそうしてくれました。子供たちが歌ってくれる「ごはんの歌」や「海賊の歌」を聴いたり、森の幼稚園の先生が「たき火では、スープを作ったり、パンケーキを焼いたり、ポップコーンを作ったりもするんですよ」という説明を、長い木の枝にザルを2つくっつけたシンプルな「ポップコーン製造機」に見入りつつ聞いたりしながら、森の幼稚園と普通の幼稚園との違い、公立と私立の幼稚園の違いは何かなど、日本の先生方が熱心に質問されているのがとても印象的でした。今回の視察グループの代表を務められた、学校法人文伸学園 綾南幼稚園の田中伸宜園長は、デンマークの森の幼稚園が、共働きの両親に合わせて朝6時半から夕方5時まで子供たちを預かるなど、日本の保育園と幼稚園の両方の機能を兼ねていること、そして、こうした保育施設、保育システムに対してデンマークという国や自治体が、制度的にも経済的にも積極的な支援を行っていることを感じる、とおっしゃっていました。確かに、デンマークでは、「国民一人一人は国にとって大切な財産」ととらえ、子供時代を自然の中で健やかに過ごすことは、将来大人になってバランスの取れた社会活動をし、国を支えていくためには重要である、と考えてられていることが、こうした保育システムのスムーズなバックアップの背景となっていると考えられます。今回は、視察の受け入れ側となったロラン島の森の幼稚園の先生たちも、日本の幼稚園や保育システムについて興味津々で、「近い将来、ぜひ私たちも日本の幼稚園を視察したいね」と口々に話していました。これからも、日本とデンマーク、双方の幼稚園で交流を深めて、子供たちにとっての理想の保育スタイルを見つけることができれば素晴らしいですね。デンマークの森の幼稚園については、まだまだお伝えしたいことがたくさんあるので、ぼちぼちご紹介していければと思っています。
そういえば、先日、7月20日(月)の海の日14:55〜16:20に日本テレビ系列28局ネットで放送された、「トヨタECOスペシャル 地球不思議大紀行 生命の海の謎を追え!」、ご覧になって頂けましたか?おかげさまで、4つのミッションの中でも、ロラン島はとても評判がよかったそうで、とてもうれしく思っています。これをきっかけに、より多くの方がロラン島のエココンシャスな取り組みや、人々の暮らしぶりに興味を持ってくださって、実際にこの地を訪ねてくださったら、こんなにうれしいことはありません!有限会社リボーン エコツーリズムネットワークでは、ロラン島の再生可能エネルギー・プロジェクトや森の幼稚園を訪ねるエコツアーも実施されますので、興味のある方は、ぜひお問い合わせくださいね。有限会社リボーン エコツーリズムネットワークへのリンクはこちらhttp://reborn-japan.com/
では、また!
PROFILE
ニールセン 北村 朋子(にーるせんきたむらともこ)
デンマーク・ロラン島在住のライター、ジャーナリスト、コーディネーター。再生可能エネルギーの利用などの環境や食など、地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。森の幼稚園の運営委員、ロラン市地域活性化委員、デンマーク・インターナショナル・プレスセンター・メディア代表メンバー。
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