マーガリンや洗剤、さまざまな加工食品の原料となるパーム油増産の影響で減少が続くマレーシア・ボルネオ島の熱帯雨林。森は伐採によって分断され、ゾウやサル、その他さまざまな動物たちが、住みかを失い、生存が脅かされている。この分断された森をつなげ、動物たちが行き来できる「緑の回廊」を作ろうと、2006年10月、石けん・洗剤メーカーのサラヤらが中心となり、マレーシア・サバ州にBCT(ボルネオ保全トラスト)事務局を設立。その後、2008年12月には「BCTジャパン」として、NPO法人としての活動をスタートさせている。
しかし、土地を買い取り、もとの森に戻すには莫大な資金と長い時間が必要だ。なかでも、川を渡れず木と木を伝ってしか移動できないオランウータンは、行動範囲が狭まり、繁殖の機会を失いつつある。オランウータンを絶滅の危機から救うためには、緑の回廊の完成を待っていては間に合わないかもしれない。
そこで2008年春から始まったのが、オランウータンが川を渡って別の森へ移動できるようにする「吊り橋プロジェクト」だ。本社を大阪市に構えるサラヤは、地元の東住吉消防署に使用済みの消防ホースの寄贈を依頼。鴻池運輸の協力のもと、ボルネオへと輸送した。現地では、同社の現地調査員、BCTジャパンスタッフ、地元の村人、オランウータン専門家の黒鳥英俊さん、水品繁和さんたちの手によって、ホースで編んだ吊り橋が架けられた。現在までに2本の橋が架けられ、今年秋には3本目の架橋が予定されている。
これまで現地での目撃情報は寄せられていたが、吊り橋の有効性を評価・検証するためには、その証拠が必要だった。去る2010年6月27日、監視カメラの画像を確認したところ、吊り橋を渡るオランウータンの姿が写されていた。
警戒心の強い野生のオランウータンが、人工の吊り橋を渡ったことは大きな一歩といえる。だが本当のゴールは、吊り橋を必要としない、豊かな熱帯雨林を取り戻すことだろう。今や私たちの生活に欠かすことのできない原料、パーム油。しかし、その生活の裏では悲しい現実が起きているということを知っておいてほしい。
文:加藤 聡
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