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サッカー日本代表監督 岡田武史さんに
お話を伺いました。
取材:吉野裕昭 写真:毎日新聞 山田茂雄
岡田武史 (おかだたけし)さん
1956年生まれ、大阪府出身。1980年早稲田大学卒業。 日本サッカーリーグ 古河電工で頭脳派のディフェンダーとして活躍。 Jリーグ ジェフユナイテッド市原でコーチを務めたのち、日本代表コーチになる。 1997年ワールドカップフランス大会最終予選の途中から代表監督に就任し、 日本を初の本大会へ導く。 その後コンサドーレ札幌、横浜Fマリノスの監督を経て、日本サッカー協会特任理事と なり環境プロジェクトに取り組む。 2007年12月急病で倒れたイビチャ・オシム氏に代わって日本代表監督に就任。
スポーツが未来の子どもにできること
スポーツをする人は環境の変化に敏感である。きれいな空気や水・緑などがなくなると、できなくなってしまうから。
岡田監督は学生時代から環境問題に関心を持っていた。「大学生のとき『成長の限界』という、環境破壊や地球資源の枯渇についてのレポートを読んで衝撃を受けた」
15年ほど前、ドイツにサッカーを学ぶため家族とともに滞在した際、たくさんのエコな体験をしたと言う。「ある冬、車で旅行をしてアルプスを越えるために、車ごと列車に乗る順番を待っていた。すぐに後ろの車の人が降りてきて『環境に悪いからエンジンを切ってくれ』と注意された。他の車を見たらみんなエンジンを切り暖房をせずに、ダウンジャケットに帽子をかぶって震えながら待っている。これはすごい国だなと思った」
帰国後もサッカーに軸足を置きつつ、さらに多くの環境に関する本を読んだり、環境のNPOの活動に参加しながら勉強を重ねた。
サッカーはボールひとつでできるシンプルなスポーツ。しかしJリーグの試合を開催すると、環境負荷の大きいイベントになってしまう。そこで日本サッカー協会として環境プロジェクトをやりましょうと川渕会長に持ちかけた。「まず試合をやることで発生するCO2をオフセット(※)する。次にサッカー選手の影響力を活かした環境についての啓蒙活動。さらにFIFA(国際サッカー連盟)に日本発の環境保全に関する提案をし、それを世界各国へ伝えたい」
Jリーグが目指す地域に根ざしたスポーツクラブを作ることで、人々のライフスタイルを変ることができると考えている。「日本では子どもだけでゲームセンターに行ったり、デパートで買物することがレジャーになっているでしょ。でも全国各地にスポーツクラブができれば、休日に家族で地元のクラブに出かけていろいろなスポーツを楽しむことができる。モノを消費しなくても、自分の体を使うことで新しい豊かさや喜びが生まれて来るんじゃないかな」
長年にわたり環境問題に関わってきた監督も、ここ数年の環境に関する活動の盛り上がりには驚くとともにチャンスだと考えている。このタイミングを活かし、再生可能エネルギーを主体とする持続可能な社会の実現のため、発起人として「地球環境イニシアティブ」という政策提言グループを発足させた。「地球の46億年という長い歴史の中で、人類の存在はほんの一瞬にすぎない。その一瞬に人類が地球環境にしたことのしっぺ返しを受けようとしている。そのしっぺ返しをうけるのはだれか? ぼくらの時代は大丈夫かもしれない。子供の時代はどうか? 孫の時代は? インディアンの格言に『自然は子孫からの借りもの』というのがある。いろいろな環境活動に対して『そんなことしても』とか『どうせやったって』と言われますよね。でもぼくらには、地球の未来に対する『希望の光』を子どもたちにつないでいく義務があるんじゃないかと思うんです。そのために多くの人に向けて、力を合わせて一緒に踏み出そうと呼びかけています」
最後に代表監督に就任した決意について尋ねた。「夢みたいなことかもしれないけど、日本人の発想力を活かして世界をあっと言わせるチームを作りたい。そういう大きな夢がなかったら、代表監督なんて引き受けられない」
サッカーの日本代表監督としてはもちろん、環境問題についての夢の実現にも期待したい。
※CO2のオフセット:日常生活で発生するCO2を吸収するための木を育てたり、クリーンエネルギー事業を支援することで、CO2(=カーボン)を埋め合わせ(=オフセット)しようとすること。
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