土壌を汚す化学繊維素材
オーガニックコットン布団を作るための縫い糸、これがオーガニック糸でなければオーガニックコットン布団にはならないのではないか?
――と言うのが発売当初から抱いた疑問でした。現在は国産オーガニックコットン糸が出回っていますので解決された問題ですが、縫製糸にこだわったのは地球環境への強い思いがあったからです。
それは衣類であっても布団であっても、コットンは自然界から生まれたものですから使い続けた上で最後には自然界で分解され、生まれてきた土壌に還っていくものです。これが自然界の循環です。ところがコットンに他の化学繊維素材を混合することによって、コットン以外の部分は自然分解が及びません。この化学繊維の部分だけがいつまでも土壌に残留してしまい、土壌汚染の原因になっています。
かつて有機農業を実践している農場を見せていただいたとき、芳しい(?)香りの堆肥むろを覗いてみると、捨てられた古畳の藁が熟成して黒く崩れ、堆肥化している中に、真っ白なビニール糸だけが畳の原形のまま突っ張って残っているのを見てしまったのです。「この糸は一本ずつ気長に抜き取るしかないんです」と笑って語っていた農家の方のご苦労を思い出してしまうのです。
コットンによく混綿されるポリエステル系繊維の場合、捨てられた土壌の中でコットン部分は分解され消えていきますがポリエステル繊維の部分は半永久的に土壌に留まり、一度汚染された土壌は半永久的に分解することはないのです。最近は還元性プラスティック素材などの開発も進んでおりますがまだ一般化されていません。
オーガニック布団発売前から制作していた「純綿布団」であっても、その縫製糸をコットン100%糸にこだわって作り続けてきたのは、すべてが大地に還元される自然界の循環の流れを守りたい思いからでした。
それがオーガニックであれば尚更です。オーガニックコットン製品の縫い糸にはオーガニックコットン糸でなければならないという思いは、オーガニックの純粋性のことばかりでなく、残留化学繊維による環境汚染の問題を見過ごすことが出来なかったからです。
オーガニックは地球を汚さない象徴!
オーガニックコットンの普及が原点回帰を目指したものだと言うのは、環境汚染の問題から考えるとより明確になります。
自然の中から生まれ、自然の中に還っていくという循環の破綻が現代のゴミ問題です。
私どもの布団で言えば、使い続けて傷んできた布団は「打ち直し」というリサイクルシステムで古くなったわたをリフレッシュし、繊維の特性を何度も再活用されながら使い続け、そして最後には廃棄されましたが、本来自然物ですから土壌に還元されていきました。(「打ち直し」については後述します)
ところが分解しない化学物質で作られた製品ではいつまでも残留物となって土壌にとどまってしまいます。コットン布団であっても繊維の中に自然物以外のものが混入されることによってその部分はいつまでも残留することになります。
それなのに近年は、そのまま廃棄される「使い捨て布団」が大量に生産され、それが何年か使用後に古布団となって捨てられています。一枚の布団であっても布団は大型ゴミです。東京都では捨てられる布団が粗大ゴミのトップとなって、ゴミ増加の大きな要因になっています。
しかもその廃棄布団のほとんどはコットン以外の素材のものです。それがそのまま捨てられるか、焼却灰となって埋め立てられるかは別として、莫大な処理経費を要するとともに、土壌を汚染させ続けていることを見過ごすことはできません。
原点回帰というのは自然なままのものを繰り返し使い続けてきた伝統を引き継いでいこうと言うことです。オーガニックコットン布団であれば、打ち直して使い続けられますし、廃棄されても土壌が汚れるようなことはありません。オーガニックは地球を汚さない象徴とも言えます。今流に言えば「地球にやさしい布団」です。
~地球に還れないものは作らない!、売らない!、買わない!~
これは1998年お店を「エコふとんショップ」にリニューアルした時からのポリシーです。当時はまだオーガニックコットン布団は作っていませんでしたが、昔から作り続けて来たコットン布団でも側の生地はもちろん、中に入れるわた、縫製糸ともコットン100%で作ってきました。オーガニックコットン布団発売後も今日までこの原則を守り続けております。
オーガニックであれ、普通のコットン布団であれ、自然に還れないものは作らない、売らない、そしてそのようなものを自分も買わない、これがこれからのライフスタイルの必須条件になるのではないかと思っております。
環境配慮布団シリーズの発売
オーガニックコットン布団の特性をまとめてみると
- 化学物質過敏症の方々にご使用いただくための不純物を排除した純粋性
- 肌触りの柔らかさや通気性、吸汗性、などコットン固有の特性
- 環境を汚さない再利用システムと自然循環による無残留性
この3つが上げられます。
この内(1)はオーガニックコットン固有の条件ですが、(2)と(3)はコットンの普遍的な特性ですからオーガニックに限定されません。
この3つは、地球に還れないものは作らない、売らない、買わない、という、これからのライフスタイルの条件にピッタリです。
オーガニックコットン布団としては化学物質過敏症の方々にご使用いただくために、これまで述べてきたように妥協できないところをひとつずつクリヤーにしてきました。しかしオーガニックコットンのもう一面の特性である肌触りの柔らかさや、自然のままで作られている環境負荷の少なさも大きな特徴です。化学物質過敏症以外の方々にとってはこのコットン固有の特性を十分お伝えしなければならない意味を持っています。
近年さまざまの化学肥料や農薬の使用による人体や環境への弊害からオーガニックが生まれましたが、コットンとオーガニックコットンは本来同質のものです。98年エコふとんショップに生まれ変わったのを機に発表した「環境配慮ふとんシリーズ」は自分の職業の中で環境を守る気持ちを込めたものです。
環境配慮布団はオーガニックコットン布団と普通栽培の綿100%布団の総称です。オーガニックコットン布団はこのシリーズの一分野になります。
これはオーガニック布団では徹底的に純粋性に特化するとともに、コットンの特性を楽しみたい方々には綿100%の特性を十分に味わていただこうというものです。
昔から続けてきた綿100%の高級布団の生地だけをオーガニックにしたものでもオーガニックの感触は同じですから、特別な敏感質の方以外の人には問題ないのです。
また、一般的にオーガニックコットン原綿は繊維が細くて長い米綿系のコットンが主流になっていましたので、布団ワタとして求められるクッション性、弾性回復力の面では、物足りないところがあります。
最近はインド産オーガニックコットンも輸入され始めてきましたが、昔からの木綿布団の、あの太陽に干してフカフカになった布団の心地よさも捨てがたいものです。
「環境配慮布団シリーズ」は自然素材であるコットンのすべてを包括する環境に負荷をかけない布団の総称なのです。(つづく)
PROFILE
親松 徳二(おやまつ とくじ)
1936年東京生まれ、親松寝具店3代目、1998年エコふとんショップに転換、自然素材寝具の制作、1999年同業者とふとんリサイクル推進協議会設立、布団リサイクルを発信
2000年インターネットショップecofutonオープン
2001年オーガニックコットンふとん、和綿「弓ヶ浜」布団など発売
2008年2月店舗閉店、現在ネットショップで営業中
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