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俳優、クリエイター、リバース・プロジェクト代表でもある伊勢谷友介さんにお話を伺いました。
伊勢谷友介さんと言えば、一般には、ストイックなまでに役作り挑む俳優として知られているのではないだろうか。NHKドラマペシャル『白洲次郎』の主演や、昨年の大河ドラマ『龍馬伝』で演じた、幕末の革命児、高杉晋作。また、現在公開中の映画『あしたのジョー』では、過酷な減量で臨んだ力石徹役が話題だ・・・
取材・文:温野 まき
撮影:黒須 一彦
伊勢谷友介(いせや ゆうすけ)さん
1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部 修士課程修了。俳優、クリエイターとして活躍する一方、株式会社リバース・プロジェクト代表として、映画制作、アートワーク、プロダクト企画、地域支援など、“再生”をキーワードに、さまざまなプロジェクトを展開中。テレビでは、『白洲次郎』(2009年/NHK)で主演したほか、『龍馬伝』で高杉晋作役を演じた。映画では、『ワンダフルライフ』(1998年)以降、数々の作品に出演し、現在公開中の『あしたのジョー』で、力石徹を好演。映画監督作品に『カクト』(2003年)。坂本龍一監修DVD『にほんのうた』では、『椰子の実』(小池光子[ビューティフルハミングバード]/神田朋樹)のショートムービーを監督。
『にほんのうた』
唱歌・童謡を歌い継ぐことを通じて、日本の未来を担う子どもたちの心身を健やかに育みたい。そんな思いに共感した音楽家が参加して、commmons(坂本龍一主宰)から、アルバム『にほんのうた第一集~四集』がリリースされる。
2010年(株)ADKアーツが主幹となり『にほんのうた実行委員会』が設立。18人の映像作家が、収録された歌をモチーフにオムニバス式ショートムービーを制作し『にほんのうたフィルム』赤盤・青盤のDVDをリリース。また、同時に「にほんのうたキャラバン」として、全国各地の小学校などで移動上映会を行っている。DVDは朝日新聞および紀伊国屋にて好評発売中。
『にほんのうた実行員会』公式サイト http://nihonnouta-caravan.com
©にほんのうた実行委員会・(株)ADKアーツ
映像作家として参加した『にほんのうた』
伊勢谷友介さんと言えば、一般には、ストイックなまでに役作り挑む俳優として知られているのではないだろうか。NHKドラマペシャル『白洲次郎』の主演や、昨年の大河ドラマ『龍馬伝』で演じた、幕末の革命児、高杉晋作。また、現在公開中の映画『あしたのジョー』では、過酷な減量で臨んだ力石徹役が話題だ。
一方で、クリエイターとしても精力的な活動を展開している。
『にほんのうた』というプロジェクトがある。日本に昔からある唱歌や童謡に、現代の音楽家と映像作家たちが新たに息を吹き込んで生まれたDVDが、全国各地の小学校などで移動上映されているのだが、このなかで伊勢谷さんは、18人の映像作家の1人として、『椰子の実』のショートムービーを監督した。
「“日本人の心から生まれた歌を子どもたちに引き継いでいきたい”というプロジェクトに共感して、参加させていただきました。『椰子の実』を選んだのは、編曲や音に奥行きが感じられて、哀愁もあって、その空気感が気持ちよかったからです。音から映像のイメージをつくる作業が初めてだったので、刺激になりました」
伊勢谷さんのショートムービーには、幼い少女と少年が抱く淡い想いと、移ろいゆく時の流れが、いくつもの旅先の写真で描かれている。この作品が、小学校高学年の女の子たちに、とても人気があることを伝えると、照れくさそうに笑った。
「女の子が、去っていった男の子を待っているなんて、そうそうないわけです。僕のなかの、ふわふわした憧れですよ(笑)。子どもが観るということを考えたので、彼らと気持ちを共有しつつ、未来には、そんなこともあるのかも…みたいなことがテーマになっています」
登場する旅の写真は、20歳から28歳くらいまでの間に、自身で見て回って撮った地球上のあらゆる場所だ。
「みんな、日本の外に行ってみるべきです。物心が付いたら旅をしろ、って言いたい。以前、インドは呼ばれないと行っちゃいけないんだよ、って言った人がいて、ふざけんな!って思って行ってきましたよ。日本人は、昔から海外を美化しますが、インドだって、ぜんぜん普通です。日本では見えていないものが露呈しているだけです。結局、旅の発見って、どんな国でも人がいて、愛情を与えれば返ってくるし、助けてもらったことが自分のエネルギ—になるということだと思います」
“善意の会社”リバース・プロジェクト
藝大在学中は、映像作品をつくることに夢中になり、25歳のときに初めて撮った映画『カクト』が劇場公開された。それまで、自分の内側を探求し続けてきた伊勢谷さんに、転機が訪れる。
「映画が公開された翌年、27歳のときにポカーンと時間ができたんです。自分にとってアートはどうあるべきか、これからどう生きるのかを考えているうちに、外側との関わりでアイデンティティが培われてきたことに気がつきました。そして、何が一番重要かと考えたときに、“現時点で僕らがどういう生活をしているかによって、未来が決まる”ことだと思った。だったら、破壊する方向ではなく、社会と関ることでプラスのエネルギ—を伝えていきたい。当時書いていた脚本に、山積している地球上の問題を解決するために、“善意ある会社”、自分の理想とする架空の会社を登場させたんです。その脚本を昨年監督したので、来年(2012年)1月には公開されます。是非、楽しみにしていてください」
現実世界にも“善意の会社”の構想を持ち込んだ。まず、2008年に、自分と社会の “REBIRTH=再生・復活”という思いを込めて、「リバース・プロジェクト」を立ち上げる。翌年には、企業として社会と関っていくために、伊勢谷さん自ら代表になって法人化した。
最初は、周囲に反対されたが、デザイナーやプロデューサーなどに呼びかけるうちに賛同の輪が広がった。
第一弾のプロジェクト「THE SPIKE SHOW」では、木下工務店とのコラボにより、取り壊される家の廃材で、家具や作品をつくり、過程もアートパフォーマンスとして見せた。さらに、長年住んだ思い出ある家の廃材で、新しく建てる家にマッチした家具をデザイン・製作する「思い出残すプロジェクト」も展開している。
「実際のプロジェクトを通して、少しずつヴィジョンを現実に組み立てられるようになってきました。時代は、エコロジーに向かっているし、行動している人もたくさんいるけれど、世の中にある“安くていいもの”に勝つためには、ストーリーやデザイン性が必要です」
日本人としてのアイデンティティとイニシアチブ
衣食住すべてにプロジェクトを進めている。新潟県魚沼市では、農家とお米の価値を高めようと頑張っている地元の若者たちと「RICE475」をコラボ。オーガニックコットン栽培への転換を計る綿農家を支援するkurkkuによる「プレオーガニックコットンプログラム」とのコラボ、ジーンズメーカーLeeとデッドストックとなったジーンズに新たな価値を付加して商品化するプロジェクトなど、どれもユニークだ。
「ものづくりを考えたときに、日本人はとてもクオリティが高いものをつくれる。値段が高くても、日本にそこを任せておけば大丈夫という国にするべきだと思う。人口が減少していくからこそ、日本人としてのアイデンティティとイニシアチブが必要です」
日本がクオリティを保ち、イニシアチブをとるためには、お金を循環させることが大事だという。
「お金を使うというのは“投票”だと思うんです。良いと思うから投票する。その時に、とても難しいことなのですが、“今の幸せ”だけに投票するんじゃなくて、100年後生きている自分たちの子孫がどういう状況であるのかということをイメージして投票したい。未来を考えて今の自分の行動を決めていく。そのプリンシプルを持つことが、100年後にイニシアチブを持てる国へとつながると思う。だから、日本の経営陣には、お金を独占しないでシェアして欲しいです。お金が社会に循環すれば、我々一般の人もお金を貯め込まない生活がきるはずなんですよ。本来は、税金がそういうものだったはずなんですけどね」
村の構想は、いちばん小さな社会のケーススタディ
リバース・プロジェクトには、将来に向けてのヴィジョンがある。それは、“村”をつくることだ。
「資本主義から拝金主義になってしまった今の社会で、見えなくなっていることに気づいてもらえたら、というのがそもそもの発想です。村の構想は、地域の個性を際立たせることを理念とした、いちばん小さな社会のケーススタディ。そのためにも、社会的信用も含めてビジネスをかたちづくろうとしています。僕らだけでなく、いいアイデアを持った人がたくさん関れるようにしたい」
実際に、地域との交流も今年は活発になりそうだ。『龍馬伝』で、伊勢谷さんが演じた高杉晋作の縁の地、山口県萩市では、「論(ろん)」というトークプログラムが行われることになっている。
「いままでも、いろんなところで講演会をやらせていただいたりしているのですが、今年は、地域の未来はどういうものか、そこに住んでいる人たちはどんな社会性をもって進んでいこうとしているのかを聞いて、一緒に考えながら、ヴィジョンを具体的につくっていこうと思っています。一過性のもので終わってしまうと、ただ“箱”をつくるのと同じことになってしまうので、そこに根付かせるためには、時間をかけないといけません。地元と信頼関係を築くこと、みなさんが納得できる理念、多くの人に知っていただく情報戦略、それらを含めた地域の利益になるシステムづくりが、リバース・プロジェクトの役割りになると思います」
8年前に書かれた“リバース・プロジェクト”の青写真とも言える脚本が、映画作品となって、来年早々に公開されるのが今から待ち遠しい。
「映像という虚構と同時に、現実も同じ方向性に走っていったら、パフォーマンスとして強く伝わるのではないかと思っています。資本主義社会の歯車のひとつとして“善意の歯車が回っている”というのが、僕にとっての現代アート。最もクリエイティブなことは、社会システムを再考して、創り直すことですよ」
伊勢谷友介は、俳優、映画監督、社会的企業の代表…という、いつくもの役割り担って、いまこの瞬間にも創造し続けている。
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