6月1日、デンマーク・ロラン島で「日本大使館とのワークショップ」が開催されました! 2

【ロランCTFと被災地復興への提案】

 これを受けて、ロラン市のレオ・クリステンセン氏が、ロランの環境エネルギープロジェクトの要である、CTF(コミュニティ・テスト・ファシリティーズ)について解説したものを以下に記します。

 

 ロランCTFの背景として、かつて基幹産業のひとつであった造船業とその関連産業の衰退により、方向転換を余儀なくされたことがあり、その際、20%を超える失業率を伴う経済危機から復興を遂げるには地域にすでにある資源を最大限に活用することが不可欠との結論に達し、そのひとつが、90年代後半、ほとんどの人にあまり知られていなかった再生可能エネルギーという、先を見越した取り組みとなりました。

 ロランのエネルギーソースの中心は風力発電であり、現在、2500GWhの電力を、コペンハーゲンを含むシェラン島に送っています。将来的には、こうした『輸出』エネルギーの割合を減らし、例えば、もうひとつのロランの重要な経済基盤である農業とバイオマス生産に余剰エネルギーを組み合わせることで、ハイバリュー成分を生み出す産業を創出するなど、エネルギーの地産地消を目指しています。ロラン島は、島の中心に高速道路が通っており、2020年にはドイツとの間に海底トンネルが開通することになっていることや、ロラン島での生産は、100%グリーンエネルギーを利用できるというメリットがあるため、産業の要所として多くの企業の関心を集めています。ロラン市とその隣のグルボースン市は、今後3年間で10億デンマーク・クローネ(約157億円)をクリーンテックに投資する予定で、この分野での成長はしばらく続くと思われます。

『水素コミュニティ』


 再生可能エネルギーの地産地消を目指すプロジェクトの一例。余剰電力で水を電気分解し、水素として貯めておくことで、バイオマス生産にも、住宅地にも有効活用ができます。世界初の試みなのでいろいろとハードルはありますが、自治体がこれに取り組むメリットは、新しい技術に取り組みたい大学や研究所、その技術を活かして産業を起こしたい企業に門戸を開くことで、地域に労働市場を創出できる部分にあります。今後は、電気自動車の普及や化石燃料ベースの空調設備が姿を消していくと考えられることから、ますます電力が必要になります。そこで、日中、エネルギーが必要な産業へ、個々の家庭で生産されたエネルギーも活用できるようなシステムづくり、つまりインテリジェントなスマートグリッド構築が重要になります。

 

 バイオマスについては、5年前まではバイオマスを使ってのエネルギーづくりがCO2ニュートラルであると非常にもてはやされていました。しかし、たった5年の間に、世界ではその優先性が大きく変わってきています。現在は、まず食料としての利用が第一、続いて、ハイバリュー成分を抽出すること、そして、その2つから残ったものをエネルギーとして使う。さらに、その残りかすを肥料として農家に還元し、再びまたバイオマス生産に利用するという循環性に焦点が置かれています。『グリーン』になることは簡単ですが、『グリーンで持続可能』になるには、更なる工夫が必要なのです。

 

『オンセヴィ気候パーク』

 

 バイオマス、中でも『ブルーバイオマス』に関わってくるのが、ここでのプロジェクトです。ロラン島北西部の小さな港町、オンセヴィは2006年に大洪水に見舞われ、町の全ての家が床上浸水に見舞われました。そこで、沿岸防護の必要性が浮上したのですが、コストのかかる堤防を作るにあたり、堤防事態がブルーバイオマス=藻の培養工場になれば、経済を生み出すことができると考えました。そこで、ロラン島にある農産業、環境テクノロジーの研究所であるグリーン・センターや国内外の大学と共同で、いかに堤防のそばで藻を培養できるかを研究しています。将来的には、この堤防は地域を水害から守り、堤防が藻の工場として機能し、排水を浄化すると同時に経済を生み出し、それによって地方自治体からの人口流出を防ぐことが期待されています。陸上で藻を培養するよりも、既にある水辺で藻を培養する方が効率もよく、確実に経済に好影響を与えることができる。今ある条件を最大限に、多岐に有効活用するというホリスティックな視点が、ますます求められます。同じような取り組みが世界のどこでできるのか調査するため、アメリカのNASAの協力も得ています。また、EUの協力も得ながら、海上風力発電パーク内での海水藻の培養についても研究を進めています。

 

『フローティング・パワー・プラント=波力+風力発電』


 日本大使からのプレゼンテーションで、日本における海上風力発電機設置の難しさについて話がありました。それを解決する技術のひとつになりうるのが、波力と風力を組み合わせた発電です。この実証実験も、ロランで行なわれています。詳細は、後に記します。

 

『(復興後の)地域づくり、町づくりに不可欠な合理的な施設設置プラン』

 

 ロラン市の下水処理場は、生物学的な方法で浄水していますが、この処理場の隣には、地域暖房施設があり、この隣接性が実は今後、重要となってきます。この地域暖房施設から出る排煙は、これまでの研究が最大限に活かされているので、おそらくヨーロッパで最もクリーンな排煙ですが、CO2を含み、54℃の熱を帯びています。これを、下水処理場に利用することで、自治体最大のバイオ原料である排水をエネルギー源に変えることができると考えられています。つまり、将来的には下水処理場が、市民に使ってもらう地域暖房のおかげで浄水でき、エネルギーも生み出せる発電所になる可能性があるのです。そういう意味で、ライフライン関連の施設は、計画的に近くに建設するプランづくりが、地域を効率よく利用し、付加価値ビジネスを生み出す上でのカギとなります。

 

『環境プロジェクトを、教育の現場にも』

 

 ロラン市で実証実験や環境プロジェクトを行なう場合は、それに関わる企業や大学、研究所などが、学校や地域で特別授業や講義を行なうなど、必ず教育にもフィードバックを行なっています。そうすることで、将来実際にこうしたクリーンテックを利用した生活を営むことになる次世代の子どもたちへ、再生可能エネルギーと持続可能な社会づくりの考え方を伝えていくことができるのです。

 

『被災地がロランCTFやデンマークのクリーンテックを活かした復興を遂げるためには』

 

● リアルライフに即した実証実験を兼ねたクリーンテックの導入。

● そのための必要事項や可能性を洗い出すために、大学など専門機関と協力する。デンマークの各大学は、すでに日本とも共同研究などを進めている分野も多く、ロラン市も多くのプロジェクトで関わっていることから、恊働もスムーズにいくであろうと思われる。

 

【出展企業からのプレゼンテーション】

 次に、今回の「グリーン・テクノロジー・ツアー2011」出展企業から、日本のこれからに役立ちそうなテクノロジーについてのプレゼンテーションが行なわれたので、その中からいくつかご紹介します。

 

『フローティング・パワー・プラント』

http://www.floatingpowerplant.com/

 

ロランCTFのプレゼンテーションの中でも触れられていた、波力と風力を組み合わせた発電設備に取り組む企業です。ロラン島のオンセヴィ沖で実証実験を行なっています。この「ポセイドン」と呼ばれる発電装置は世界で初めて、水深35mを超える地域での発電を可能にしました。幅240mのプラットフォームの場合、年間50GWh以上の発電が可能と試算されていて、これだけでおよそ12,500〜15,000世帯への電力供給が可能です。すでに日本や韓国からも問い合わせが来ているとのことで、海上風力発電機の設置が難しい場所での発電に力を発揮しそうです。

 

『バイオキューブ』

http://www.biokube.com/

 

自然発生の細菌を使って排水を浄化し、その水はそのまま川や海、湖に流せるほどの水浄化システム。ロラン島で5年前に起業した小さな会社ですが、水質汚染問題は世界各国に共通の問題であることから、すでに43カ国への導入実績を持っています。その中には、アフリカのジブチ共和国の日本の自衛隊の海外基地も含まれます。一般家庭から集合住宅、工場、商業施設など、様々なスケールでの導入が可能で、騒音も臭いも出さずに排水を再利用できる状態まで浄化することから、被災地で水道が完全復旧していない場所などでの一時的な利用も考えられます。

 

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PROFILE

ニールセン 北村 朋子(にーるせんきたむらともこ)

デンマーク・ロラン島在住のライター、ジャーナリスト、コーディネーター。再生可能エネルギーの利用などの環境や食など、地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。森の幼稚園の運営委員、ロラン市地域活性化委員、デンマーク・インターナショナル・プレスセンター・メディア代表メンバー。

 

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