菅首相が執心する「再生可能エネルギー法案」は本当に有効なのか?

 再生可能エネルギーの発電を推進するための法律、これまで日本には「RPS法」と呼ばれる電力事業者に自らの販売する電力中に一定量の新エネルギー電力を混入することを義務付けた法律が存在しました。加えて、家庭用、産業用の太陽光発電では余剰電力を買取る制度や、各種の補助金などで、日本は再生可能エネルギーの推進を行ってきたわけです。

http://www.rps.go.jp/RPS/new-contents/top/main.html

 

 

 ただし、RPS法の導入義務+目標量が、経済産業省の意向や電力ロビーなどの影響でごく僅かなものに留まっていること、同時に財政難の折に無尽蔵に補助金を支給することができないことで、国際的に見ても、日本の再生エネルギー分野は推進されてきたとは言いがたい状況です。とりわけ国際比較では、以下の再生可能エネルギー分野への国別の投資額の比較を見ると、日本の現状がありありと伝わってきます。G20におけるクリーンエネルギー投資では、日本は11位と世界に対する影響力は見るべくもなく、いわゆる先進諸国に大きな遅れを取っています。

http://www.pewenvironment.org/uploadedFiles/PEG/Publications/Report/G-20Report-LOWRes-FINAL.pdf

 

 こうした現状は何も今にはじまったことではなく、2000年代前半から停滞を続けはじめた自民党政権時代にも、環境省が作成した「緑の雇用と社会の変革(2009年4月)」においても、また民主党が政権を奪取した際のマニフェスト43項にも、そうした事情が十分に憂慮されていました。

 

 そこで出てきたのが各国で成功遂げている方式「全量買取り制度(以下はフィードインタリフ:FITと省略)」という制度を日本でも導入をという流れです。政権が民主党に移行し、奇しくも東日本を襲った大震災の当日に、この法案は閣議決定されています。これまでの導入の議論、制度の概要と、現国会で審議にかけられる法案についての詳細は以下のサイトで情報を得られます。

http://www.enecho.meti.go.jp/kaitori/whole.html

http://www.meti.go.jp/press/20110311003/20110311003.html

 

 このFIT法案について、現在、いくつかの団体が超党派で議員の署名を集めたり、国民運動を起こしたり、メディアもこぞってこのFIT法案の行く末を報道したりしています。今国会での成立について、すさまじい応酬が水面下で行われているとの噂も漏れてきます。では、そのFIT法案自体、つまり中身についての議論は、といえばなかなか良い情報がないのも現実です。ですから、このブログでは、FIT法案の中身について、世界の模範法とされているドイツのFIT法と対比しながら、問題点を整理してみたいと思います。

 

問題点1 価格と買取り期間について


 法案には、各種の再生可能エネルギーによる発電源からの電力を、どのぐらいの期間、いくらで買取りするのか、ということについては明言がありません。ドイツのFIT法は、2~4年毎に改正され、それぞれの発電源からの電力買取りの「期間と金額」も法文に明記されていますので、それとは大きな違いです。

 日本のFIT法案では、「総合資源エネルギー調査会」の意見を聞き、最終的には「経済産業大臣」が定めるとあります(第三条)。今のところ、これらの方針では:

1.太陽光発電(以下PVと略)以外の再生可能エネルギー発電:全量買取りで、買取り期間は15~20年、15円~20円/kWhというかなり曖昧なものです。

2.住宅用PV:これまでの余剰電力買取り制度の延長で、余剰電力を10年42円程度の条件からはじめるらしい。

3.事業用PV:全量買取りで、買取り期間は15~20年で、価格については不明。

 

 ということで、一番のこの制度の「肝」である、「価格と買取り期間」が明示された上で議論がはじまっていません。まさに雲をつかむような話なので、批判や分析のできようもありません。今後、政令・省令などによっても、策定が進むとは思いますが、まずはここを明らかにしないことには、本当にこの法律が再生可能エネルギーの推進を成し遂げるものなのかどうかは一切不明ですから、注意が必要でしょう。とりわけ、日本はRPS法において過ちを犯しています。本来、高いハードルさえ電力事業者に課すことができれば、再生可能エネルギーを量的に推進できたはずのRPS法が、その義務値を引き上げることができず、ほとんど効力を発揮せず、ときには風力発電などのこれまでの推進の障害になってしまったという苦い経験が日本にはあります。ですから、もし再生可能エネルギーの推進を本気でお考えの方々には、メガソーラーの推進など「目立つもの」だけではなく、各種の再生可能エネルギーについて、価格と買取り期間、そして普及と低価格化の速度など、きわめて高度な注意力でこれを注視してゆく必要があるでしょう。

 

 さらにドイツの経験で分かっていることは、もしこの「期間と価格」が法案改正前から十分にアナウンスされておらず、法案決議ではじめて明るみになるような事態となると、法案改正の手前では投資は停滞したり(買い控えのようなもの)、あるいは駆け込み的にバブルになったりすることです。ですから、初期の価格をどのレベルで策定し、今後平均的には毎年どれぐらいで低下させてゆくのか、そうした議論をできるだけ早い時期に進めないことには、まさに再生可能エネルギー発電施設の設置がストップ&ゴーで行われることになり、資本体力を持たない地域の中小企業にとっては手の出せない、安定した地域の雇用効果を生み出さない可能性もあります。ですから、まずは初期設定の期間と価格、そして毎年、どの発電源は平均してどれぐらいの割合で買取り価格を減少させてゆくのかを一刻も早く市場に対して告知する必要があるでしょう。

 

問題点2 接続について


 ドイツなど多くの国々のFIT法では、法文に再生可能エネルギーからの電力を「全量、優先的に、期限を区切らないで」電力系統事業者に買取りすることの義務が明記されています。固定価格と期限とは別に、そうした永久的な「接続の義務」が電力系統事業者に課されているわけです。ただし、日本のFIT法案では、第五条に、接続義務について記されていますが、「買取り期間が終了した後」のことが示されていません。つまり、15~20年後、もしくは住宅用PVの場合10年を経過した後に、そこからの電力がどのように、どうなるのかが不明です。もちろん、買取り期間が経過した後の買取り価格は、電力事業者の言い値で買い叩かれる可能性もあります。しかし、買取りを拒否されるおそれのないことを保障しなければ、長期間に投資を行うものは、あるいは銀行は融資をなかなか行えないのが実情でもありましょう。また、多くの再生可能エネルギー発電施設は、20年、もしくはそれ以上の稼動を前提として設置されますから(とりわけ水力では50年以上も)、上記の問題点で取り上げた「買取り期間と価格」を定める際には、その後への配慮がないと推進は不可能になるでしょう。

 

 ちなみにドイツも含めた各国のFIT法では、20年を基本としていますが、やはり施設の耐久性や稼動期間を考慮して取り決められたものであることにも注意したいです。日本では短いことが、最終的に上乗せされる買取り価格分の電力価格への影響を最低限にできるという理由で、15年という数字が(当初は10年という案もあった)出てきたようですが、電力価格への上乗せ分への影響に気を取られすぎて、再生可能エネルギーの推進がなされなかったという本末転倒な法律を策定するべきではないでしょう。

 

 さらに接続については、以下のような取り決めであることが日本FIT法案(第五条)には記されていますが、一抹の不安が頭をよぎります:

1.接続にかかる費用は、再生可能エネ発電者の負担。どこまで、どれだけの明記がない。

2.安定供給支障のおそれがある場合は、接続義務の免除。つまり「おそれ」とは何かの定義がないため、電力事業者にこの条文を利用される「おそれ」あり。

3.「正当な理由」というのが繰り返されていますが、そもそも正当な理由とは何かの定義も分かりません。

 

問題点3 法律施行前に発電を開始している施設の取り扱いについて


 法文の附則第五条には、PVについては、既存の設置されているものの取り扱いを明記していますが、その他の発電施設については、どのような取り扱いになるのか、RPS法との兼ね合いなど、常人には理解不能の文面です。ただし、要約すると、それまでに設置されてきたいわゆるパイオニアの施設については、全量買取りの保障が適用されないようです。ちなみにドイツにおいてFIT法が2000年全面改正されたときには、それまでに設置されたすべての施設は、2000年に設置されたものと同等とみなすことが明記されています。

 

 これまでは、それほど利益を享受できなくとも、市民や企業、あるいは電力事業者の善意で、再生可能エネルギーの設置が細々と行われてきました。そうした努力に対して、このFIT法案では報いるのではなく、逆にRPS法との兼ね合いで罰するケースも出てくる可能性があります。それでは、社会に正義があまりにもないのではないでしょうか? どちらかといえば、これまで利益なし、あるいは損益覚悟ではじめた施設ほど、優先的に報いてあげるのが本筋だと個人的には思います。ですから、こうしたパイオニア施設の取り扱いについても、もう少し議論する必要があるように思います。

 

 残念ながら、民主党政権に移行後、助成金は削られたが新制度は出てこない、という空白の2年間があり、とりわけ風力発電などの分野では、資本体力のないこれまで推進してきた事業者が弱っているという事実もあります。ですから、新制度を今国会で決議し、早く空白を埋めなければならない、という危機感は私も共有できます。ただし、RPS法の成立で見られたような悪夢が再来する可能性も、今の段階では排除することができないのが、このFIT法案を眺めた私の個人的な感想です。法文に関しては、未熟な私が解読した上での問題点の提議ですから、もし、誤りがありましたらご指摘いただけると幸いです。

 

ジャーナリスト 村上敦

www.murakamiatsushi.net

 

 

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コメント: 4
  • #1

    村上 敦 (土曜日, 18 6月 2011 23:27)

    大切なことを忘れていました!

    ドイツのFIT法の冒頭には、法律の目的として、総消費電力中にどれだけの割合の再生可能エネルギーにするのか、数値目標が入っています。つまり、この法律は、国のエネルギー戦略とリンクし、これが大儀となっているわけです。

    日本のFIT法案には、もちろんこうした記述はありません。国家のエネ戦略自体がないに等しく(どの紙、発言を信じる?)、数値目標が出ていない状況ですから、今は仕方がないのかもしれませんが、FITの価格と買取り期間は、本来、国のエネ戦略が到達できるように誘導するのが筋です。主従逆の状態になっていることも、日本の抱える問題だと追加で指摘しておきましょう。

  • #2

    村上 敦 (土曜日, 18 6月 2011 23:34)

    それからもう一点。このコラムで買取り価格が高きゃ良いというようなニュアンスに取られると困るので。

    あくまで「適正価格(期間)」というものを策定する必要があります。

    ドイツは各種、各規模、各設置場所に応じて、利回り(IRR)で6%というのが適正価格だと考えられています(詳しくはアーヘンモデルでご検索ください)。学術的な調査でこれを割り出し、政治に提案をして、その後、経済・産業の状態や政治的な綱引きによって微調整されます。

    日本はデフレで、銀行の利子もほとんどつかない状態ですから、利回りが6%である必要はなく、もっと低い数字でよいかと思いますが、審議会などで議論されている「PVを除き一括価格・期間」というのは、なんとも乱暴であり、同時に特定のものだけバブルで、特定のものは推進されないことにならないか、一抹の危惧もしています。

  • #3

    村上 敦 (月曜日, 25 7月 2011 15:47)

    さらに追伸です。最近では、FITの買取り価格の総額に天井を設けることを画策する議論が出てきているようです。国民負担に上限を決めておくことが必要との見地からです。しかし、国際的にも、学術的な見地では、FITに天井を設けると、効果はとたんに限定的になるようです。初期投資に決まった財源から助成金を支給する政策と効果は同じで、それならばFITにする意味がありません。助成金+RPS法の強化のほうが、推進の目標値がダイレクトに現れ、理解しやすいのでよりよい議論が期待できるでしょう(お金だと目標数値が間接的になる)。あくまでFITは再生可能エネルギー技術を素早く安価にする政策なので、天井ではなく、中期的に買取り価格を誘導することで、かつ上限を設けないことで、市場にダイナミックな投資を促すことが必要なのですが・・・とまあ、心配が尽きないFITを巡る議論です。

  • #4

    まこ (金曜日, 26 4月 2013 11:36)

    [半植民地状態の日本の電力市場]
    「他国が労せずして日本の電力消費者から大金をふんだくれる」
    結果これですかね?

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