再生可能エネルギー法案で日本は風車の墓場と化すのか!?

菅首相が辞任と引き換えに成立を目指している再生可能エネルギー法案(*1)だが、温暖化防止の切り札と言われる再生可能エネルギーに関わる法案だけに真っ向から反対する人は少ない。現在、聞こえてくる批判は、電気料金が高くなるということくらいだろう。

 

この法律は、再生可能エネルギーによって発電された電気を、一定の価格で、一定の期間にわたって電気事業者が買い取ることを義務づける。その結果、再生可能エネルギー発電設備への新規投資が進み、普及につながる。その分アップする電気料金は利用者に公平に負担してもらおうという考えだ。

実際のところ、この法案を導入しなくても、電気料金は確実にあがる。短期的には、原発の停止によって化石燃料の利用が増加し、余分に購入した分のコストが上乗せされる。中長期的にも、原油の枯渇が叫ばれているなかで、原油の価格が下がることは考えられない。発電単価が安いとされていた原子力も、放射能事故の被害者への補償、想定外の地震や津波への対策、事故が起きた時の住民への安全対策、廃棄物の処分の問題などを考えると、高くなることはあっても安くなることはない。

 

一方、この法律が成立することによって、化石燃料の購入という形で海外に流れていた資金が、国内の再生可能エネルギー施設に還流し、国内の関連産業を活性化することになる。その結果、発電単価が下がり、上乗せされる電気料金をコントロールすることができる。そうした状況を踏まえると、短期的に不利益を被る人たちに対するケアを丁寧に行えば、成立は時間の問題のように思える。

 

だが、ここに来て大きな問題があることがわかってきた。すでに稼働中の設備からの電気の買い取りがあるかがどうかが実に不明瞭なのだ。被災した岩手や福島も含む、全国48の市町村で構成する「風力発電推進市町村全国協議会」が6月21日に出した要望書を読んでみると、その実態がわかってくる。問題となるのは要望書中2項目となる「FIT制度の既設設備への適用」。文中には下記のように記してある。

 

『また現在、FIT法案が政府提案され、同法案における買取価格、買取期間はそれぞれ15~20円/kwh、15~20年とされておりますが、同法案においては、既設設備を買取対象としていないため、設備設置後の諸費用の増嵩等により疲弊した既設設備による発電は、今後事業継続することが難しくなると予想されます』

 

詳しく解説すると、この法案の成立とともに、RPS法(*2)という法律が廃止となる。RPS法は電力会社に新エネルギーによる電気を一定の割合で購入することを義務づけていた。この法律がなくなることで、すでに発電を行っている施設からの買い取り義務がなくなる。現在、風力発電の電気は概ね、10円で電力会社に買い取られている。そのうち6円がRPS法による価格だと言われ、電力自体は4円。10円の買い取り価格のうち、6円が消えてしまう可能性があるのだ。

 

ただでさえ、地方自治体の財政は逼迫している。そんななかで売電価格が現在の半分以下に減ったとしたら事業として成り立たない。その結果、全国に立っている風力発電の多くが無用の長物になってしまう可能性もある。これは自治体の風車だけに止まらない。市民や企業が所有する風車も、バイオマス発電施設も、同じような状況だ。再生可能エネルギーを普及するはずの法案が、すでに動いている全国の発電施設の息の根を止めるという皮肉な結果につながりかねない。

 

経済産業省が出した資料を読むと、「RPS法の廃止にともない、既存発電設備の運転が影響が出ないよう、必要な経過措置を講じる」とある。地球温暖化防止の観点からも、環境企業の活性化のためにも、再生可能エネルギーの導入は不可欠だ。ただ、既設に関する配慮を行わない限り、将来に大きな禍根を残すことになる。ただでさえ、この法案の成立を想定して再生エネルギーに対する補助金は、大きく削られてきた。少なくとも既存と新設は同等の買取条件として世の中のために先陣を切った先駆者たちに報いるべきではないのか。1階では新規参入者がすき焼きを食べているのに、必至に2階まで上がってきた地方自治体や中小ベンチャー企業がハシゴを外され、貧しさにあえぐというのは納得がいかない。彼らにこれ以上、待つ余裕はない。政府が高じる必要な経過措置が「too little. too late」にならないよう、ぜひ、国会での見直しを望みたい。

 

>>村上敦氏によるドイツのFIT政策との比較はこちらをご覧ください。

菅首相が執心する「再生可能エネルギー法案」は本当に有効なのか?

 

>>再生可能エネルギー法案について(経産省発表)

電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案について

 

*1 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案

*2 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法

 

風力発電推進市町村全国協議会による要望書
エコロジーオンラインが手に入れた要望書です。
要望書20110621.pdf
PDFファイル 186.0 KB

上岡 裕(かみおか ゆたか)

 

1983年、国際基督教大学卒業。株式会社ソニーミュージック・エンターテインメント(SME)退社後、フリーライターに。2000年3月、環境情報発信を中心とするNPO法人エコロジーオンラインを設立。環境省(Re-Style、環のくらし、エコアクションポイント)、林野庁(木づかい運動)などの政府系国民運動の委員を務め、クラブヴォーバン、音事協の森づくりなど、数多くの協働事業の立ち上げを手がけてきた。田中正造を生んだ栃木県佐野市に生まれ現在も在住。地元の地域活性化をはじめ、全国の事業をサポートしている。昨年末、環境大臣賞を受賞した「そらべあ基金」の立ち上げをプロデュース。3年にわたってライオン株式会社のCSR報告書の第三者委員を務めた。現在は地域活性化や被災地のためのウェブやソーシャルメディアの活用のサポートを精力的に行っている。

 

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コメント: 3
  • #1

    さとわのほかげ (日曜日, 14 8月 2011 02:44)

     風車は日本人の精神性を破壊する。昔はやまんばや雪女がいた山の中に人工的風車を作ることは、それを山で見た者の心に自然軽視の心を植え付ける。この人工物は作ってはいけないと思う。人間が作ってもよいもの作ってはいけないものはある。原子力は子孫に多大な迷惑をかける。子孫に少しでも迷惑をかけるものは作ってはいけない。これは地球の生物として当たり前のことだ

  • #2

    八木浩明・COMS・大熊出身・末永浩昭 (金曜日, 25 11月 2011 16:55)

     さとわのほかげさんに一言。アインシュタインが提示した、エネルギーと質量の同価値性を示す公式(E=mcc)、つまり核兵器や原発で用いられる理論を、未来の人間世界から消し去るか使わせない具体的な方法とは何なのか。双葉郡から避難し仮設暮らしを強いられる、物理学をなまかじりした私には、その答えはまだ見出せない。一体どうすればいいのか。

  • #3

    八木浩明・C-MOG・末永浩昭・大熊出身 (金曜日, 25 11月 2011 19:58)

     さとわのほかげさんにもう一言。「子孫に迷惑をかけるものは作ってはいけない」という御意見があったが、神(または道)以外にそんなものは存在しないと思う。硬直化した思考による伝統の固執は、かえって破滅への速度を原子力盲信と同様に加速化させる危険性が高いのではないか。「荘子」天地篇に出ている、わざわざ水甕を用いることに執着した老人が(なぜか孔子に)「(渾沌とした世界の)一面だけがわかっていても両面を知らない」と評されたという寓言も、視野に入れるべきではないか? 甚大な原発事故が発生した地の住民である私は、脱原発に賛成する。が、そのあとどうするかを、予想外れも発生するのを承知の上で決断・実行することが現代日本において難しく、尚かつ重要であることを、もう一度(私も含め)考えてみるべきである。

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