地球温暖化がアジアを大都市を襲う!あらかじめ警告されていたバンコクの洪水被害

9月に起きたタイの洪水の様子 Photo: anothersaab / CC
9月に起きたタイの洪水の様子 Photo: anothersaab / CC

 

「地球規模の気候変動が、タイ南部で起きているかつてない洪水被害に大きく関係することは確かなことです。こうした気候関連の災害をこれまであまり目にしたことがないのです」


 今年4月、タイで開催された2011年国連気候変動バンコク会議において、タイ政府の交渉担当者がこんな発言をしている。

 当時、タイ南部で起きていた洪水は、多くの家屋を飲み込み、土砂崩れを起こし、道路や橋を押し流した。その影響は100万人以上に及び、少なくとも50万の人が避難を余儀なくされた。その結果、50人以上の命が奪われるという大惨事に発展していたのだ。


 地球温暖化が異常気象と関係があることはよく言われることだ。だが、具体的にどんな影響が出てくるかについて明らかにすることは難しい。ただし、地球温暖化が大きな影響を与えるであろう地域はわかっている。アジアで言えば、海岸沿いに位置し、温暖化によって起こる海水面の上昇の影響をもろに受けるデルタ地域に位置する都市だ。


 世界自然保護基金は2009年、アジアの各都市を独自の手法によって分析し、気候変動によって大きな影響を受ける都市を「Mega-Stress for Mega-Cities」というレポートのなかでまとめている。具体的には、ダッカ(バングラデシュ)、ジャカルタ(インドネシア)、マニラ(フィリピン)の順に大きな影響が出る可能性が高いとし、バンコクの危険性を上海に次ぐ7位としている。


 タイ中部を襲っている洪水は、現地に進出した日本の自動車メーカーや、精密機械メーカーに大きな被害を与えたことで日本国内で話題になっている。だが実際には、今年6月から現地に降り続いている大雨による影響が濃いと言われているのだ。


 多くの報道があったように、世界遺産としても有名な旧王朝の遺跡があるアユタヤで近郊の工業団地が浸水による大きな被害を受けた。その影響はアユタヤの南に位置するバンコクにも及び、インラック首相は事実上の「非常事態宣言」を出している。この洪水の背景に急激な経済発展と引き換えに行われた森林破壊があることが指摘される。首都のバンコクは地下水のくみ上げ過ぎによる地盤沈下にも悩まされてきた。そこに、地球温暖化による海面上昇、さらに大潮による海面上昇が加わり、ダブル、トリプルパンチとして襲ってくるわけだ。


 今年の夏、日本でも異常な台風の動きによって、和歌山や三重県に土砂崩れなどの大きな被害を出した。その背景に戦後の拡大造林によって生まれたスギ・ヒノキの人工林の問題があることも指摘されている。地球温暖化という人間が生み出したグローバルな環境問題と、地盤沈下や森の荒廃といったローカルな環境問題が積み重なった時、自然によって大きな災害がもたらされる。


 6重苦と言われる日本経済。海外への生産のシフトを検討する企業も多いだろう。だが、成長センターと言われるアジアの大都市の多くが気候変動による大きなリスクを抱え込んでいる。タイに進出した日本メーカーの苦境に見られるように、もはや我々に地球温暖化から逃げ切れる場はない。地球温暖化の「抑制」と「適応」、この問題にしっかりと取り組むべき時なのだ。

 

<参照>

WWFレポート

Dhaka, Manila and Jakarta top list of Asian cities facing brutal climate future

 

文:上岡 裕

 

«一つ前のページへ戻る