地元主導の再生可能エネルギー事業で、福島の復興に懸ける

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伊達太陽光発電所企業組合 森茂雄理事長にお話をうかがいました。

 

森さん出演のテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」はこちら

2012年1月27日放送 【特集】被災地企業が結集し挑戦

 

取材・文/上岡 裕

撮影/小林伸司 (神永写真館)

森 茂雄  (もり しげお)さん

福島市を中心に住宅関連事業を手がける有限会社森設備代表取締役。県内で活動するNPO法人ほっと空間森の工房、NPO法人県北総合メンテナンスの設立に関わり、現在も理事長を務めている。その幅広いネットワークを生かし、太陽光発電所企業組合の立ち上げに奔走。先駆けといえる伊達太陽光発電所企業組合の理事長にも就任した。

 

被ばくした被災地、福島に生きる

 東日本大震災の発生から1年。エコロジーオンラインも様々な仲間の協力を得て、ささやかな被災地支援を行ってきた。そのなかで自分を中心とする栃木のスタッフが行なったのは、飯舘村にガイガーカウンターを届ける等の福島支援だった。

 

 私たちが飯舘村を訪れたのは5月初旬。ぽかぽかした春の陽気のなかに広がるおだやかな里山世界。いつもならのんびり楽しめるドライブが一転。ガイガーカウンターの警告音が鳴り始める。目の前には被災地に向かう自衛隊のトラック。そこはチェルノブイリにも匹敵する放射能汚染エリアだった。

 

 飯舘村にガイガーカウンターを届け、隣接する伊達市の民家で福島のみなさんと意見交換をすることになった。そのなかの1人が今回の主役、森茂雄さんだった。福島を襲った先行きの見えない不安のなか、一生懸命に立ち上がろうとする彼らの姿に心が熱くなったことを覚えている。

 

 エコロジーオンラインが最初に相談を受けたのは国産材を使った仮設住宅の建設だ。長く現地で住宅設備に関わる仕事をしてきた森さんは、プレハブによる仮設住宅が、厳しい冬を持つ東北の気候に向かないばかりか、地元に大きな雇用を生まないと感じていた。そこで「まるごと地元」というプロジェクトを手がけることにした。被災者自身の手で建てられる、地域の木材を活用した、断熱性能の高い仮設住宅の提案だ。だが、緊急性を要する仮設住宅の建築の自由度は低い。結局、この案は採用されることなく、ごく一般的な仮設住宅の建設が行われることになった。その結果、テレビなどでの報道のとおり、温まらない仮設住宅に困惑する被災者を増やしてしまっている。

 

自分たち県民の手でメガソーラーをつくりたい!

「まるごと地元」の仮設住宅の取り組みとともに、森さんから相談されたものにメガソーラーがあった。

 

「ずっと福島に住んでいて、あんな風に原発が爆発するなんて全く想定していませんでした。おまけにこんなにひどい放射能汚染に見舞われるなんてね……。こんな状態では、若い人がこの地を出ていくのを止めることはできないですよ。でも、ここで事業をやっている自分らは無責任に避難できない。この地に残る自分たちには何ができるかを考えたわけです。そこで仲間とメガソーラーをつくりたいと考えたんです。放射能の問題が解決して、この地に若い人が帰ってきたいと思っても、働く場がなければ戻れませんからね」

 

 悲しいことだが今の福島ではどんな商品をつくっても風評被害に翻弄される。現実的に考えると福島でつくられたものに「放射能汚染」というレッテルを貼る人は後を絶たないだろう。しかし電力の場合は状況が変わってくる。福島で発電した電力を電力網に流しても放射能汚染とは全く無縁。逆に福島から生み出された電力は、究極のブランド力を持つ。森さんたちはそこに着目したわけだ。


 そのメガソーラーをつくる主体となるのが太陽光発電所企業組合だ。福島県民自らが出資して組合を立ち上げ、各地に再生可能エネルギーの発電所をつくり、ホールボディカウンターなどを整備し、放射能汚染による健康被害への対策も図っていく。その方向性が決まったのが8月末。その後、森さんの暮らしは、組合の設立を中心に回り始め、昼も夜もなく県内を説得して回る日々が続く。

 

 その結果、1ヵ月で6地域、2ヵ月で10地域の立ち上げが決まり、半年を経過した現在ではその数が20にまで成長した。こうして、福島原発を取り囲むように地域住民が主体となる、地域に根ざしたエネルギーを開発する市民のネットワークが産声をあげた。

 

再生可能エネルギーの導入を地域再生の起爆剤に

 福島各地で太陽光発電所企業組合が立ち上がる状況になったのを受け、森さんが次に集中するのは具体的な再生可能エネルギー施設の建設だ。つい最近、そのための戦略づくりに励んでいた森さんのもとにうれしい報せが届いた。伊達市で計画した小水力発電事業に農水省の補助金が出ることが決まったのだ。この補助金申請は森さんたちだけで行われたわけではない。難しい書類申請をクリアするためには首都圏にいる支援者の手助けが必要だった。地域の人によって運営されることを目的とした太陽光発電所組合だが、現実的には福島に住む人たちだけでは力不足だ。これからも多くの支援が必要となる。

 

「今年は本格的な復興が始まる最初の年ですから、全国のみなさんに寄付や支援、税金をつかった補助をお願いしています。集まったお金は地域に投資し、全国のみなさんの未来にもつながるような事業を展開したいと思っています。この夏には再生可能エネルギーの全量買い取り制度が始まりますから、太陽光発電事業も良い事業になるはず。全国のみなさんに大きな出資をしていただく必要がありますが、私たち自らが発電所をつくれば、しっかりと地域に利益が回る仕組みがつくれるはずです」

 

 そう語る森さん。だが、いつまでも支援をしてもらうつもりはないという。

 

「ずっと支援に依存しているばかりではお荷物になってしまいます。全国のみなさんからいただいた善意をしっかりと地域住民が手がける発電所への投資に回し、そこから生まれた収益で地域が自立する運営を目指そうと思います」

 

福島から始まる日本再生

 太陽光発電所企業組合という名前だけを聞くと、太陽光発電所をつくることだけが目的のように感じる。だが、森さんたちのビジョンはそれだけにはとどまらない。


「福島を自然エネルギー100%の社会に変えたいと思っています。本当にできるの? と言う人もいますが、大丈夫だと言い切っています。私たちの住む地域は震災の前から少子高齢化が顕著でした。今回の原発事故がその流れに拍車をかけ、限界集落化する地域も増えるでしょう。放射能汚染の解消もあるけれど、お金が回らない地域に若者は戻ってきません。つまり、何もしなければ、私たちに未来はないのです」

 

 全国各地で原発が止まり、イランの核開発問題などで原油の輸入も不安定化する。どう考えても海外に依存しないエネルギーの開発は急務だ。

 

「太陽光、風力発電、小水力など、地域特性にあったエネルギーを、小さな集落から増やしていく。それで集落単位の小さな電力網を構成し、横につないだネットワークで電力を補完しあう。そうすれば地域にお金が回り始めます。そのためには速やかに実証実験をスタートさせたい。その後、各地の組合を中心に発電所をつくり、お金を生み出し、コミュニティを再生していく。それぞれの地域で競争を生み、切磋琢磨する。原発事故で仕事が奪われた高齢者のみなさんに仕事をお願いすればやりがいもでき健康にもなる。全国から視察に来てくれる人を増やし、宿泊、おみやげで地域の観光にも効果をもたらす。大変な状況にある福島が、自らの地域を、自らで面倒みる成功事例をつくれれば、同じような問題を抱える地域の自立モデルとしてみなさんに恩返しができると思うんです」

 

 いつの世も、先行きが不透明であまりに多くの問題を抱えると、人は後ろ向きになるし、ネガティブな声が大きくなる。だからなかなか動けない。今の福島もまさにそんな状態だ。だが森さんは、その状況にちょっとした変化が出てきたと話す。


「じゃ、今のままで良いんですか? と問いかけるんです。すると、5人のうち2人くらいは振り向いてくれるようになりました。私たちは原発にも恩恵も受けた世代です。国の責任ばかりを話題にしますが、自分たちにも責任があると思うんです。集まってくれた同世代の仲間に、原発があった時代が100だとしたら、それを倍の200にして残そうよと励まします。孫たちのためにがんばろう!と」

 

 森さんとともに立ち上がった人たちは60歳前後の人がほとんど。そろそろ現役を引退し、悠々自適で暮らすはずの人々だった。だが、福島第一原発の事故が起こった。働きづめの人生を終え、老後の夢としていた趣味三昧の暮らしもあきらめ、この組合に残りの人生をかける人もいる。

 

 民主党の野田総理は先の国会で「福島の再生なくして日本の再生無し」と発言した。その再生を担うのは誰か? それは福島に生きる森さんのような人たちだろう。そして他の被災地でも同じようなチャレンジをする人が出てきている。最悪の津波や放射能事故を経験し、それでも立ち上がろうとする彼らのような人たちこそ、今の日本が必要とする「希望」を照らす一筋の光だといえるだろう。

 

ワールドビジネスサテライト 【特集】被災地企業が結集し挑戦 [2012.01.27]

http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/feature/post_14652/

 

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コメント: 1
  • #1

    千住 真理子 (火曜日, 13 3月 2012 10:11)

    今朝の毎日新聞で、太陽光発電所企業組合記事の読みました。ぜひ、出資をしたいと思いました。今、福島県内のいろんな市で取り組まれつつありますね。もう少し詳しい情報(窓口はどこか、出資の方法、どうしたら申し込めるのか諸々)を教えていただければと思います。よろしくお願いします。メールでもよいですし、パンフレットを送っていただいても結構です。住所は 〒591-8046 堺市北区東三国ヶ丘町5-2-10 です。何かの形で、福島と関わりたいと思っていました。ぜひ、よろしくお願いします。

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