コットンの婚礼蒲団
ワタの実物見本を見ていただきにお伺いしたのは木の香染みる工務店さんでした。お持ちしたワタは特徴の異なる次の3種類のワタです。
☆オーガニックコットンわた
☆コットン100%ワタ
☆OyamatsuBlendコットンわた
メールをいただいたお嬢さんとお母さんにお迎えいただき、早速お部屋にお邪魔して、ワタをご覧いただきました。3種のワタはすべて綿100%ですが触っていただくと違いはすぐにわかるものです。
ワタに触っていただきながら各ワタの特徴を説明しました。オーガニックコットンのこと、長繊維綿と短繊維綿、和棉のことなどお話しすると、お嬢さんの結婚にあたり、新生活で使う上質のコットン布団を作りたいというご相談でした。
結婚で嫁ぎ先に持っていく布団は一昔前までは「婚礼蒲団」として特別な意味を持っていたものでした。それは他家へ嫁ぐ娘に持たせる家具や衣類、食器など、いろいろの婚礼道具の中で、布団は基本となるもので、はずすことのできないものだったからです。親許から飛び立つ娘の幸せを願う母の思いが、一番込められたものが布団だったからです。布団と座布団や枕など新婚生活のための寝具一式は「婚礼蒲団」として一生に一度の特別な布団だったのです。
お嬢さんから「和綿でも作れますかと」と聞かれました。聞けばこちらでも和綿を少し植えているとのことでした。和棉で作ることもできないわけではありませんが、敷布団と掛布団2組分の和棉ワタを集めるには時間がかかること、それに金額もかなり高額になってしまうことをお話ししました。
お嬢さんは間もなく、空き家になっている農家を改修した新居で、彼との新生活を始めるとのことでした。和棉ももっと植えてみたいと夢を聞かせていただきました。
昨年秋にも、奄美大島で新生活を始めるお嬢さんの布団を作らせていただきました。こうして未来をしっかり見つめて新しい旅立ちをなさる若い方々とのご縁が続いています。
母と娘の絆となって
昔、農家では娘が生まれるとワタの栽培を始めたといいます。そして成長してお嫁に行く時まで毎年収穫し、20年近くの歳月を経て蓄えたそのワタで、糸を紡ぎ、布を織り、そしてワタを打って「婚礼蒲団」を作り上げ、嫁ぐ娘に持たせたのです。
当時は家族の布団作りは母親の役目でしたから、婚礼の布団を作るときも、母はワタを広げながら「そっち側持って」とか「もっと引っ張って」とか言いながら布団の作り方を娘に教えたのです。ですから婚礼蒲団には母の思いがぎっしり詰まっていたのです。
現代では婚礼蒲団を家庭で作ることはほとんどなくなりましたが、それでも平成に入る前ごろまでは、寝具店に母娘で訪れて、ワタ選びのアドバイスをしながら注文していただいたものです。
今でも打ち直しワタをお預かりするときに「母がワタを選んで持たせてくれた布団だから捨てられないの」というお話をよく聞きます。また、生地がだいぶ傷んだ布団でも、ワタは打ち直して、生地の一部も座布団や赤ちゃんの布団などに縫い合わせて使いたいというご注文をよくいただきます。皆さんにとって婚礼蒲団が母と娘の絆の証となって使い続けられているのです。
コットンふとんは若い人たちには新商品
コットン布団は私どもにとっては本来の布団への回帰なのですが、大量生産で作られた化学合繊ワタの布団しか知らない若い方々には新発見になるようです。全部自然素材で出来ている布団なんて、まるで新鮮な新商品に出会ったように感動していただくこともしばしばです。
そして、打ち直しというリサイクルシステムがあることもお話しすると、もうコットン布団ファンになっていただけるのです。
コットン布団は打ち直して繰り返し使え、そして最後に捨てられても自然に還っていきますから「地球を汚さない布団」なのです。エコロジーライフにはコットンふとんがよく似合うのはこのところのことでもあります。
ベット生活の方にコットン布団は馴染みにくいところがあるかも知れません。一般にはホテルなどで使われている薄いキルテングのパッドを敷いている方がほとんどです。その方々はコットンの敷ふとんはぶ厚く重いイメージを持っていたようで、重そうに感じることがあるかも知れません。しかし一部の高級ベッド以外のほとんどはクッション部の中の巻き物が化学繊維や発泡ウレタンです。せめて上の敷パッドには自然由来のものをお使いいただきたいと思います。ベッドパッドには和風の敷ふとんの半分ぐらいの厚さのコットン布団をお勧めしています。
若い人たちばかりでなく、そうした新しい暮らしをすでに実践し、自然農やオーガニックな生活を満喫なさっている、まさに新しい暮らし方のトップランナーのお母さんたちもたくさん知っています。こんな素敵な人たちとの出会いも、コットンが取り持つご縁なのでしょう。こんな幸せな仕事をさせていただいているのです。
コットンふとんは寝具店の独占商品
今デパートやス―パーに行ってもコットン布団は売っていません。もうコットン布団は町の寝具店でしか買うことが出来ないものになってしまいました。ところが最近になって昔からのコットン布団の良さが見直されてきているのか、大量生産された合成繊維のふとんでは満足できない方々が増えてきているように感じます。このことはさすがに大手メーカーさんでも気づいたようで、友人の製綿工場に某大手有名メーカーさんからコットン布団を扱いたいという打診があったそうです。現在では正規のコットンふとんは大手メーカーさんの大工場では作ることが出来ない時代になっているのです。それはコットン布団が自然由来素材のため均質な流れ生産に馴染まないためです。
ですから、本物のコットンふとんは町のふとん店だけが作れる専売品になり、百貨店とも、大型スーパーとも競合することのない独占商品になりました。ようやく価格だけの安値競争の外にコットンふとんは残ることが出来るようになりました。
大型量販店との価格競争の中から抜け出した町の寝具店は、これからそれぞれお店独自のポリシーと技能を磨きながら、価格競争ではなく、品質競争で競う方向に向かうのではないでしょうか。この品質競争は素材や技能とともに、商品に込められた店主の思いが問われることになりそうです。
世の中のエコロジーへの大きな流れの中で、寝具店の役割を見つめ直した時、大きな役割があることが見えてきました。それはコットン布団を通して、町の寝具店が地産地消や循環型社会と密接に繋がっていることです。まさにサスティナブル社会に最も近いところに寝具店が存在していたのです。
そしてそのことは未来を見つめる若い方々と思いを共有することです。それが地域社会の中でお店の存在価値を高めていくことになり、なくてはならないお店と認められるようになっていくことです。そのことにいち早く気づいた元気な寝具店さんが全国で続々と増えてきています。(つづく)
*コットン布団のこと、打ち直しのことは、お近くの寝具店にお問い合わせください。
《参考》全国打ち直し取扱店の一部:http://www.ecofuton.com/re/frs.htm
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