コペンハーゲンでは98%のエリアで普及。デンマークで浸透する地域暖房

写真提供=©aTree
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 デンマークのエネルギー政策として忘れてならないものに地域暖房(地域熱供給)がある。

 

 言わずもがなだが、デンマークは日本より北にある。デンマークの首都、コペンハーゲンの緯度は55度。北海道の稚内よりさらに北にある。つまりデンマークの冬は長く寒い。そのため冬の暖房にかかるエネルギーを効率のよいものにすることは、国内のエネルギー消費を抑えることに直結する。そのひとつの解決方法としてデンマークでは地域暖房を40年前から取り入れている。

 


 これは、日本のように、各家庭や企業がそれぞれ独立した暖房・冷房システムを持つのではなく、地域内の住宅や企業に、蒸気または熱水(もしくは冷水)を、配管を通じて供給して冷暖房を行うという方法だ。熱の供給は、発電所で電気を作る際の熱を利用するコージェネレーション(CHP熱電供給)が中心となっている。電気を火力発電所で作る時には必ず熱が出る、その熱を無駄なく地域暖房として使う。

 

 日本の暖房では、エアコンや電気カーペットなど電気を使うものが多いが、これは決してエネルギー効率がいいとはいえない。大量の化石燃料を燃やして発電し、送電ロスをしながら届いた先の家庭で再び熱に変えて暖房している。発電所で作られた熱を無駄にせずにそのまま使った方がどれだけ効率がいいかは容易に想像できる。ちなみにデンマークでは、新築の家屋や地域暖房を利用できる既存の家庭での電気による暖房を禁止しているほどだ。

 

 デンマークの地域暖房の歴史では、1979年に施行された熱供給法の効果が大きいと言われている。この法律によって、各地方自治体が地域の実情に合った熱供給プランを立て、システムを作り上げることができた。もちろん、バイオマスや天然ガスを使った熱電供給には、補助金がプラスされている。

 

 このように地域主導で成熟した地域暖房は全国に広がり、図に見られるように80年代には大型火力発電所(赤い丸)による発電が中心だったが、現在は無数の小型コージェネ(図中右側オレンジ色の点)と、風力発電(右側緑色の点)による分散型発電に形態が変わった。

 

 コペンハーゲンではすでに98%の地域で地域暖房が使われているという。

 

IEA調査レポート「CHP/DHC Country Scorecard:Denmark」より (クリックで拡大します)
IEA調査レポート「CHP/DHC Country Scorecard:Denmark」より (クリックで拡大します)

広がるバイオマスを使った熱電供給システム

 デンマークのコージェネでは、燃料としてウッドチップやわら、ゴミなどのバイオマスを使うシステムが拡大している。このシステムで長年の業績のある企業BWSCを取材した。

 

 BWSCは、日本の三井造船の子会社であり、造船業で培ったディーゼルエンジンの技術をプラントに活用している。これまでに50ヵ国で160以上のプラントを手掛けており、プラントを作るだけでなく、運営、技術支援、メンテナンスと長年にわたってプロジェクトにかかわっている。現在計画中のイギリスのわらを原料とするプラントは送電出力38.5メガワットという大規模なものだ。

 

「日本のバイオマスは大きな潜在力を持つ」と話すBWSCのMartin Jensen氏
「日本のバイオマスは大きな潜在力を持つ」と話すBWSCのMartin Jensen氏

今後は、震災で大きな被害を受けた宮城県東松島市でのバイオマス熱電併給にも技術提供などの支援を行う可能性があるという。

 

「東松島市では、稲わらと、がれきの中の廃材からの発電、熱供給ができないかを検討している」

 

 BWSCのセールス&マーケティングディレクターMartin Jensen氏が日本でのプロジェクトについて話をしてくれた。

 


「バイオマスによる熱電供給では、素材をいかに安定して供給できるかが課題になる。その意味では稲わらは日本の場合、安定供給が見込める素材だ」

 

 Martin氏はまた39円(kwh当たり)という固定買取制度も魅力だという。復興をめざす東北で、バイオマスによる新しい発電と熱供給が始まるとしたら、固定買取制度が整備され、インフラを新たに整えられる今がまさに好機と言えるだろう。

 

アッシュフリーの世界へ

 さらに先をめざすバイオマスによる熱電供給システムが前回のレポートでも取り上げた自然エネルギーの島ロラン島において計画されている。

 

 ロラン島の西側にあるナクスコウ地域暖房センターではウッドチップやわらから電気と熱を作りだしているが、将来的には燃やしたけむり、つまりCO2も無駄にしないで利用しようという試みが進められている。そのひとつが、CO2を藻の光合成に使い、その藻によって下水処理を行い、CO2を吸収しながら下水も浄化するという方法だ。

 

「熱電供給の発電所を下水処理の設備と隣り合わせにし、熱供給と下水処理を統合していく」

 

ロラン市議会議員のレオ・クリステンセン氏
ロラン市議会議員のレオ・クリステンセン氏

 このシステムを考え、藻の研究プロジェクトの推進役であるのロラン市議会議員のレオ・クリステンセン氏は構想を説明する。ロラン島では藻からオイルや色素などの有効成分を取り出す研究がかねてから行われているが、下水処理に使われた藻からはそれらの有効成分を取り出し、その藻をバイオガスの原料として使い、さらに肥料になるリン成分を抽出するという循環型のシステムを考えている。

 

写真提供=©aTree
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 レオ氏は今後のプラントは「20年後にはバイオマスを燃やさずに使うアッシュフリー(灰がでない)の方法が中心になるだろう」と予想する。

 

 カーボンニュートラルといわれるバイオマスによる熱電供給だが、そこから出るCO2もさらに無駄なく使い、廃棄物をださないゼロ・エミッションの方法で熱と電気を得られるという仕組みがデンマークの小さな島、ロラン島で実現しつつある。

 


 今年の冬は北海道電力管内で、例年の冬に比べて7%以上の節電目標が言われているが、気候条件としてデンマークに類似するエリアでは、バイオマスによる地域暖房や風力発電の活用などデンマークの事例が非常に参考になると思われる。また、ロラン市の例に見られるように地域自治体がどれだけエネルギー政策の具体化にかかわれるかがポイントになりそうだ。

 

取材・文/箕輪弥生

 

◆デンマークの環境政策について

State of Green http://www.stateofgreen.com/

デンマーク大使館 http://japan.um.dk/ja/

◆バイオマス発電・熱供給について

BWSC  http://www.bwsc.com/

PROFILE

箕輪弥生 (みのわやよい)

 

環境ライター・マーケティングプランナー、NPO法人そらべあ基金理事。新聞、雑誌、webなど幅広いメディアで、環境と暮らしをテーマにした情報発信や、環境に配慮した商品の企画・開発などにかかわる。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニー・マガジンズ)などがある。自身も自然エネルギーや雨水を活用したエコハウスに住む。

 

オフィシャルサイト http://gogreen.petit.cc/

 

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