四国の南西部に位置し、豊かな自然と風土に恵まれた美しい宇和海に囲まれた愛媛県宇和島市。リアス式海岸の深く穏やかな入り江は、真珠養殖に適しており、ここで育まれるアコヤ貝の真珠は質・量ともに日本一を誇る。
しかしながら近年は、過疎化や少子高齢化による後継者不足、またアコヤ貝の大量死などにより、真珠産業を取り巻く環境は大変厳しいものとなっている。消費者ニーズの変化で、真珠そのものの需要が減っていることも大きい。
そんな宇和島の真珠産業に光を当てようと、東京の会社が1つの取り組みをスタートさせた。法人の創業支援や地域のまちおこしなどを手がける株式会社ココシマによる「真珠の里親」だ。
これは一口8,800円で真珠貝のオーナーとなり、世界で1つ、自分だけの一粒を育てていくプロジェクト。貝は養殖業者のサポートのもと育てられ、成長の様子は手紙やウェブを通じてオーナーに伝えられる。さらに希望者は、貝の中に真珠の元となる核を入れる「核入れ」や、貝から真珠を取り出す「浜揚げ」に参加することができる。手に入れた真珠は、ピアスやネックレス、カフスボタンといった、オリジナルのアクセサリーに加工することも可能だ。
自然の産物である真珠は、その色や形はすべて異なっており、1つとして同じものはない。そして、環境の悪化で赤潮や伝染病が発生すればたちまちアコヤ貝は死んでしまう。つまり、真珠養殖と自然環境は切っても切り離せない関係であり、真珠の里親になることは、宇和島の自然やまちに自ずと目を向けることになる。人と自然、地方と都市のつながりを強く意識させてくれる取り組みなのだ。
この事業の売り上げの一部は、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクに寄付される。ココシマの津田和泉代表は「それぞれが違う個性を持っていて、生きづらい時代にあるという部分で、現代人とアコヤ貝とが重なりました。真珠の里親を通じて、人にとってもアコヤ貝にとっても生きやすい社会をつくりたいという想いを込めています」と話す。
ちなみに6月の誕生石は真珠。美しい真珠を生み出す、宇和島の海や川、森を感じながら、自分だけの一粒、大切な人のための一粒を育ててみてはいかがだろう。
取材・文/加藤 聡
コメントをお書きください