東日本大震災以降、節電・節約対策として、電気の契約アンペア数を引き下げる「アンペアダウン」に取り組む人が増えています。3月5日に発売された『本気で5アンペア――電気の自産自消へ』(コモンズ)の著者で、朝日新聞の斎藤健一郎記者もその一人。同書は、福島で原発事故に直面した斎藤記者が、東京への転勤後に東京電力とのアンペア契約を最小に切り替えたことから始まった5アンペア生活、約1年5ヵ月の記録です。
そもそも東京電力の一般的な電気の契約は「従量電灯B」というメニューで、アンペア数に応じた基本料金に、電気の使用量に応じた料金が加算されます。1ヵ月の基本料金は10アンペアが280.8円、最大の60アンペアは1684.8円です(アンペア制を導入しているのは、北海道、東北、東京、北陸、中部、九州の6電力会社)。じゃあ5アンペアは?というと、これは「従量電灯A」という契約で、5アンペア(=500W相当)までしか使えないことから、通常は、アパートやマンションの共用部分の照明や、自動販売機の動力などに利用されています。気になる料金体系は、基本料金は0円、8kWhまでの電気使用量が230.86円、その後は1kWh使うごとに19.43円が加算されていきます。ところがこの「従量電灯A」、東京電力のホームページから見つけることさえ難しいのです。
本当に5アンペアで契約できるのだろうか……。半信半疑のまま、東電のカスタマーセンターに電話をかける斎藤記者。すると担当の女性オペレーターは、アンペアダウンを思いとどまらせようと、何度も同じ言葉を繰り返します。「5アンペアでは普通の生活はできなくなりますよ」と。
東電の説得を振りきって始まった5アンペア生活は、海図なき船出ではあったものの、驚きと発見に満ちていたと語られています。例えば、家電の消費電力をワットチェッカーで計ってみたところ、冷蔵庫はドアの開閉時が、洗濯機では脱水の行程が、最も電力を食うことが明らかとなります。また、熱を出す調理器具のほとんどを手放すことになりましたが、その代わりに、鍋でおいしいご飯を炊く技術を習得するのです。このほかにも、気象に気を配るようになったことで、二十四節季で季節の移ろいを感じられるようになるなど、5アンペア生活のコツや工夫を会得していくたびに、暮らしの質を上げていく斎藤記者。「普通の生活」とは何なのかを問いかけます。
その一方で、電気なしでは生きられない現代社会。疲れて帰宅した際のエレベーターやコンビニでの電子レンジの利用、オリンピックのテレビ観戦といった誘惑に勝てなかったというエピソードもつづられています。便利さに負けそうになる心の葛藤は、誰しもが共感できる部分ではないでしょうか。
同書は、5アンペア生活を礼賛したり、ましてや強要するものではありません。ただ一つ言えるのは、福島で原発事故を経験した筆者にとって、もはや5アンペア生活こそが「普通の生活」なのです。そして、完全な電気の自産自消を目指し、力強く宣言します。「ぼくは本気だ」と。
加藤 聡 編集者・ライター、エコロジーオンライン理事、太陽光発電所ネットワーク理事。大学卒業後、編集プロダクション、広告代理店勤務を経てフリーライターに。環境・サステナビリティをメインテーマに、雑誌からWEB、フリーペーパーまで幅広く執筆中。担当書籍に『地域力 渾身ニッポンローカルパワー』(講談社)等。
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