ママのチカラで社会を変える

ママによるママのためのイベント「ママまつり」を主催する、NPO法人チルドリン。活動開始から5年を経た今年は、全国25カ所以上で開催するまでに成長した。一度の動員数も、多いときには1万人を超えるという。そんな「ママまつり」の様子を「ママたちの文化祭」と形容し、見守る、チルドリン代表理事の蒲生美智代さんにお話を伺った。




取材・文/中島まゆみ

撮影/黒須一彦

蒲生 美智代(がもう みちよ)

徳島県出身。株式会社リバティ・ハート代表取締役としてママのインサイトマーケティングに携わるかたわら、NPO法人チルドリン代表理事として「ママのコミュニケーション&ママとのコミュニケーション」をテーマに、ママやママコミュニティ、子どものことを深く考える人・団体をつなぐさまざまな活動をしている。

NPO法人チルドリン http://www.child-rin.com/

強まる、ママたちの求心力


ーーNPO法人チルドリンの活動の主体、「ママまつり」について教えていただけますか?


蒲生美智代(以下・蒲生):「ママまつり」はチルドリンが定期的に開催するイベントで、毎回、参加するママたちの個性に合わせたいろいろな企画が盛り込まれています。「読み聞かせ」や「キッズヨガ」といった子どもと一緒に楽しめるブースのほか、「手作りアクセサリー」「ネイル」「マッサージ」などママのためのブースもあって、「ママたちの文化祭」という表現がぴったりのイベントなんです。毎回、ほんとうに大勢のママと子どもたちで賑わっています。

チルドリンにはいま、北海道から沖縄まで10のブランチがあるんですが、サポートしてくださる企業や自治体などと一緒に、それぞれのブランチの特色を活かした「ママまつり」が展開できていると思います。1万人を超える来場があるような大きなイベントでは、地域で活動する団体が80ほど集うこともあって、それが一気につながります。ものすごいパワーですよ。


ーーひとことで「ママ」といっても、それぞれ多様な趣向やスキルを持っているのではないかと思います。そんなママたちによって、ブランチを超えたコミュニティーも生まれているそうですね。


蒲生:手作り好きなママたちが集まる「ママクラフト倶楽部」や、エネルギーのことを勉強したいママが集う「エネママカフェ」などですね。3・11以降はとくにエネルギーについての関心が高く私も注目しているんですが、ママたちの考え方はとてもシンプルで現実的です。「使う電気を大幅に減らすと産業が衰退する。潤沢に使いたいけれど、クリーンな電気でないとイヤ。国にクリーンな電気をたくさんつくってもらうにはどうしたらいいのか」、そんなふうに考えているようです。「チルドリンで電気をつくってください」なんて言われることもあります。

こうしたコミュニティーでは、ネット上でコミュニケーションをとるほか、「ママまつり」でワークショップを開いたりもしているのですが、ありがたいことに、企業や行政から連携の話をたくさんいただきます。

先日は、オフィス用文具メーカーが「ママクラフト倶楽部」のママたちに文具を提供してくださって、キャーキャー大騒ぎでした。その文具でつくったママたちのクラフトはメーカーのサイトにアップするという流れで、とてもwin-winな関係が築けているのではないでしょうか。

妊娠・出産で一時的に仕事を辞めたママたちというのは、残念なことに、チカラを持て余しています。とても賢く思慮深い人たちが地域に眠ってしまっている。そういうママたちがチルドリンという場をとおしてつながると、コミュニティーが立ち上がるのも早いようですね。


ママという専門性をCSRに


ーー蒲生さん自身がチルドリンを立ち上げたのは、どういう理由からだったのですか?


蒲生:チルドリンは設立して5年ですが、インサイトマーケティングを行っているリバティ・ハートのほうが先で、13年目になります。会社でCSR(企業の社会的責任)に取り組もうとしたとき、何か専門性のあることで社会貢献したいと考えたのですが、自分たちにできるのはシステムをいじることくらいなんですよね。でも、少し考えてみたら、私を含めて社員全員がママで、「ママとしては専門性がありそうだ」ってことに気づいたんです。 最初は、ママ向けのフリーペーパーづくりから始めました。当時の女性誌によくある、どこかで聞いたような情報を焼き直ししたものとは違う、世の中で取り上げていないような情報を掲載するよう心がけていたら、「印刷代を出すからうちの広告を入れて」と企業から声がかかるようになりました。1万部からスタートしたフリーペーパーが、半年で12万部を発行するまでになっていたんです。


読者が切手を貼らずに感想などを送り返すことができる料金後納ハガキも付けました。当時は珍しかったようですが、マーケティングの視点で見るとすごく得な手法だったと思います。1号発刊するごとに1000枚ほどのハガキが戻ってくるんですから。

ハガキには、「子どもを連れて出かけられる場所がなくて困っている」「こんな活動をしたい」「こんなことをしている人を知りたい」「自分たちを紹介してほしい」など、ママたちの想いがびっしりと詰まっていました。


ーーそうした声が、「ママまつり」につながっていくわけですね。


蒲生:まず、ママのための児童館「アトリエ・チルドリン」を東京・大井町につくりました。チルドリンでは運営管理までの手が足りないので、ママたちでカギ当番を決めて順番に回してもらうようにしたら、次第に、ネイルやクラフトショップなど自分たちの得意なものでイベントをしたり、ワン・デイ・ショップを開いたりするようになって、「ママまつり」へと発展していきました。

女性の団結力は本当にすごい。とくにママたちのそれは独特です。PTAでもないし、趣味だけの仲間でも、同じマンションの住民というわけでもない。女子校の先輩と後輩みたいな。だから、「ママたちの文化祭」なんです。


残したいのは、自然を感じる国民性


ーー興味のあることに邁進する、ママたちのイキイキした姿が目に浮かぶようです。蒲生さんご自身はどのようなことに興味があるのでしょう?


蒲生:実は、チルドリンのコミュニティーのなかに「フォレストママ」というものがあるんですが、まさにそれ。森です。日本の森をママのチカラで元気にしたいというのが、いま一番興味のあることです。

「ママ、ママ」と言っていますが、私のなかのキーワードは「子ども」なんです。子どもは自分で商品を選んだりできないので、ママを啓発するほうが結局は早いんですよね。子どもたちには、日本の風景とか日本人としての気持ちとか、自然が育んでくれる大切なものを残したい。そのためにも、都市に住む大人が「自然や森とつながっている」と感じられるような国民性を取り戻さないとならないと思っているんです。


いま、「森と暮らす」「森と遊ぶ」「森とつながる」という3つのことに、林野庁と一緒に取り組んでいます。日本の森の現状や、間伐の必要性、間伐材を使うことの意味などをママたちに伝えて、ワークショップでは間伐材を使ったクラフトもします。森に木を拾いに行くツアーなんかも企画中です。 地方の森に行くと、森林組合の方々が前のめりで支援を待っている状況です。川の水かさも年々減っていて、森の人たちはとても心配しているんですね。これからの文明をどうするか、話し合う時期ですよ。チカラを合わせるときがいよいよ来たんじゃないかって、そう思います。 世の中のギアを変えるとき、すばらしくて大きなプランを考え実行するのもいいですが、やれるところから個別に取り組んでしまうほうが結果的に早かったりします。それぞれの見ている先が同じなら、遅かれ早かれ必ずつながると思うんです。うれしいことに、すでにその片鱗があらわれていて、西日本で森を介したつながりも生まれつつあります。 これまで、マーケティングと市民活動の両方を行ったり来たりしてきましたが、いまこそその経験を活かせるとき。ミッションなのかなって感じています。ママのチカラで、きっと、変えてみせますよ。

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