エコロジーオンラインが事務局を務める間伐・間伐材利用推進ネットワーク(間伐ネット)は10月14日、平成27年度間伐・間伐材利用コンクールの表彰式を東京・京橋のイトーキ東京イノベーションセンターSYNQAで開催した。間伐の実施と間伐材の積極的な活用を推進することを目指して平成12年度からスタートした同コンクール。間伐ネットが初めて主催した16回目の今回は、全国から80件の応募があり、CO2排出量削減という重要課題に取り組むものや、日常的に身近なものに間伐材を導入したもの、異業種連携等々、多様な製品・取り組みが入賞した。
審査委員長の木平 勇吉・東京農工大学名誉教授は、講評で「応募件数も多く内容も高いものがあった」と語り、コンクール事務局を中心に様々な場所へコンクール実施の広報努力したことに加え、「間伐の重要な役割が一般にまで理解されてきたことがその理由では」と語った。その上で、オーソドックスに普及・利用について本格的に取り組むもの、新しい技術・アイディアによるもの、異分野のコラボレーションによるものが高い評価を得たという。
例えば今回の受賞者と取り組み(別ページに掲載)のうち、【製品づくり・利用部門】で林野庁長官賞を受賞した飛島建設㈱の「丸太打設液状化対策&カーボンストック(LP-LiC)工法」は、砂がゆるく堆積し水が多い液状化が起きやすい地盤に、間伐材などの丸太を打ち込むことで丸太の体積分密度を高め、砂地盤の液状化を防ぐ工法。CO2を蓄積した間伐材を地下に貯蔵することで、間伐材利用、液状化対策、地球温暖化対策という基本的な課題の解決を目指した取り組みだ。
一方、間伐推進中央協議会会長賞を受賞したKEESプロジェクトの「組立式多用途ブロック『KEES』(キーズ)」は、信州の間伐材の幅90×長さ300×厚さ30㎜のブロックと、長さ450×角13㎜の角棒を基本に、様々に組み合わせるプロダクト。プランターやエアコン室外機のカバーにしたり、本棚やスツール等の家具、子ども用の積み木など、自由な発想で用途が広がっていく。積み木遊びをしていた子どもがご飯の時間になると、その遊んでいたKEESで自分のいすを組み立てるといった場面が思い浮かんでくる。
また、特別賞のセブン&アイ・ホールディングス「『セブンの森』の間伐材を活用した環境配慮型商品(容器活用)」は、セブン-イレブンなどで販売されているジュースやスープ等の紙容器に間伐材を利用するという取り組み。こうした新しい発想で日常的に身近なアイテムに浸透させていく実践が関心を集めた。
異分野によるコラボレーションとして注目されたのが、【間伐実践・環境教育部門】で、間伐ネット会長賞を受賞した広島県安芸太田町の太田川森林組合と広島県立加計高等学校の連携した取り組み。地域の古くからの産業である林業に着目し、地域に目を向ける中で生徒の育成を図っていこうと、約10年前にスタート。「総合的な学習の時間」で森林を考える講座を立ち上げ、生徒が間伐作業の見学や体験、間伐材の炭焼き、地域の木工所との製品開発などに取り組むことで、生徒の課題発見・課題解決能力の育成を目指している。
表彰式のあとはパネルディスカッションを開催。今回の受賞者から、飛島建設(株)土木事業本部の沼田淳紀・エンジニアリング部部長と広島県立加計高等学校の片岡巧教諭、平成25年度の同コンクールで製品づくり部門・間伐推進中央協議会会長賞を受賞した(株)アペックス環境部の田邉めぐみ課長、会場を御提供いただいた(株)イトーキEconifa開発推進室の小島勇氏、表彰式の司会を務めたミス日本みどりの女神の佐野加奈さんが、それぞれの立場から意見を交わした。
森林組合と連携した取り組みで受賞した広島県立加計高等学校は、全校生徒94人1学年1クラスの小規模高校。地元は、かつては林業で栄えたが、現在は高齢化率が県内で最も高く、10年で人口の3分の一が流失しているという。片岡教諭は地域には「学校が無くなれば人口が一気に減ってしまうという危機感があり、地域の支援がある」と語る。林業と学校を中心に地域の連携が進んでいる様子がうかがえた。
カップ式の自動販売機を全国に設置している(株)アペックスの田邉課長によると、自販機の紙コップは細かいところまで一律でなければ機械適性に合わないため、間伐材利用はどの企業もやっていなかったという。関係各所に反対にあいながらも何とか実現にこぎつけ、この春に全サイズ、取り扱うすべてのカップが間伐材カップに。一昨年に受賞したことで「社内の意識も変わった」と田邉課長。現在は自販機にその土地の間伐材のシートを貼った〝自動販売木〟の取り組みも進めている。
一方、(株)イトーキが5年前から展開しているのが地域材活用ソリューション「Econifa」。小島氏によると、仮に北海道の材を東京で使う場合に、例えば途中の宮城や栃木で加工することでロスを減らすような仕組みに取り組んでいるという。
間伐材丸太による液状化対策に取り組む飛島建設(株)の沼田部長は「地震対策は力づくでやってしまうことが多いがこれは自然の力を使いながら。地球温暖化対策を両立させながら安全性を確立しようと考えた」と、その狙いを語った。
その上で「間伐材は余っていてもタダではない。路網整備などを進めて安く大量に材を出せる体制が必要」と課題を提起。アペックス(株)の田邉課長も安定供給の重要性を指摘した。(株)イトーキの小島氏も「間伐が進んで使われるようになれば、主伐材も搬出が楽になり量も増える。そうすれば外材にも対抗できる価格で出せる」と提案した。
オブザーバーとして登壇した林野庁の吉村洋・造林間伐対策室長は、こうした実践や意見を受け「路網の整備と安定供給にしっかりと取り組んでいきたい」とし、「次世代を担う人材を育成するための情報提供などにも取り組んでいきたい」などと語った。
大学4年生でもある佐野加奈さんは、ミス日本みどりの女神の仕事を通じて、森林に対して「虫がいるから、汚れるから」というマイナスイメージが先に立ってしまう若い人たちを目のあたりにすることが多くなったという。だからこそ若い人が森に興味を持てるように、どういう観点で新しい発想であれば森林現場に入っていけるのか「私自身も発信していきたい」と話した。
表彰式のあとの交流会では、【間伐実践・環境教育部門】で林野庁長官賞を受賞したNPO法人吉里吉里国が取り組みを報告した。吉里吉里国は、東日本大震災のあと、岩手県大槌町で復興の取り組みとして瓦礫の木材を薪にして販売する活動を実践。そこから発展し、現在は漁業者の所有林が8割を占める里山を整備して山や海、流域等の環境回復につなげる活動を行っている。
このような多様な実践が集まった同コンクール。間伐ネットでは年1回の点で終わらないように、11月2日には大阪でForest Good交流セミナーを開催するなど、継続した取り組みを展開していく予定でいる。
取材 / 文:大川原通之
コメントをお書きください