音楽を辞めたからこそ音楽が出来る喜び
「色んな予定もずれて上京したい気持ちも萎んで。周りのミュージシャンは『みんなを元気にする歌を歌うんだ』って活動していたけれども、自分は何をしたらいいかが分からなくて」
とりあえず路上ライブをして募金を集めたりしたという。
「でも、『何で被災地なのに、被災している人から募金集めているんだろう』と思ってその活動にも違和感が生まれて。でもみんなが募金してくれるんですよね。みんなで頑張ろうよって言ってくれて。その時、福島の人間で良かったなって強く思いました」
同時に、「自分が歌って誰が元気づけられるんだろうってすごく思って。もっと力をつけて色んな人に力を与えられるミュージシャンになりたい。何が出来るんだろう」と、震災以降ずっと思っていたという。
上京したのは1年後。しかし、所属した事務所が考える方向性とMANAMIさんが思う方向性とが合わず、その事務所も3カ月で辞めてしまう。
「上京して事務所に入れば上手くいくって勝手に思っていたんですよね。でも全然そんなことはなくて。路上ライブをやればおまわりさんには怒られるし、罵声は浴びせられるし、怖い人はいるし、だんだんメンタルもやられてしまって」
さらに、同じ福島出身で同じ頃に音楽をはじめたミュージシャンがどんどん売れていく姿を見て、「あの子には勝てない」と、自分の世界にこもり音楽からも離れてしまい、東京のスーパーで2年間働いていた。
「あるとき、このまま東京に住んで結婚したりすると、ずっと東京で生活するんだなって思ったら、『それは嫌だな』って。これからずっとどこに住むか考えた時に、福島が良いなって思って」
福島に戻る決心をする。
しかし、福島に帰った当初は、盛大に送り出してもらっただけに、自分を知っている人と会うのが怖かったという。
「それが、自分が育ったライブハウスに1年半ぶりぐらいにふらっと立ち寄ったら暖かく迎えてくれて『音楽またやったらいいじゃん』って言ってくれて。ライブを見ていてやっぱりステージに立ちたいって思って。もう一回やりたいって思いました」
そして、それまで福島のために時間を使ってこなかった分、これからは福島のために使う時間にしようと考えたという。「今まで何もしなかったし何もできなかったけれど、これから何かするんだとしたら福島のためにできることをしたい」という思いの中から生まれたのが、飯坂電車の歌『Familiar Train』であり、『福島えがお』という曲たちだ。
「東京での2年間があったから音楽が出来る喜びを感じて、色んな人に感謝するようになりました。昔のお客さんも全然いなくて、再開からが本当のスタート。ゼロからやり直していく感じ。そのときから音楽をやるのがすごい楽しいと思えるようになって。辞める前はライブを楽しいって思える瞬間が無かったのに、再開してからはライブが楽しい。自由に歌えるようになりました」
福島にいるからこそ出来ること
音楽活動を再開してから、東日本大震災の被災地に歌いに行く機会も増えた。
「津波の被害の情報は聞いていたけれども、地元の人に『津波がここまで来たんだよ』って説明されて、実際に見た時に、自分は何も知らなかったんだなって思いました。
そんな状態でそこにライブしに行って私は何を伝えられるんだろう、何をしているんだろうと思った時に、『まず知ることから始めなければ』と思いました」
そこから震災と向き合う時間が増えていったという。そうして2015年に、やっと福島のことを歌にした『福島えがお』が完成した。聞いた人が少しでも笑顔になってくれたら、という気持ちを込めた。
「自分がやりたい音楽と目指したい場所が身近なところにあって、聞いてくれた福島の人たちにちょっとでも力を与えられたらいいし、福島以外の人たちにも福島の良さを感じてもらったり、福島に興味をもってくれたらいいなと。
自分に出来ることがちょっとずつ見つかって、次に何が出来るか考えられるようになって、ちょっとでも誰かの力になっていればいいなあと思うようになりました」
県外からMANAMIさんのライブを聞きに福島を訪れ、さらに飯坂電車に乗ってみようという人たちも増えているようだ。
「私が好きなものを歌にして、それを聞いた人が飯坂電車に乗ってみよう、酪王カフェオレ飲んでみようって、どんどん福島と繋がってくれるのが嬉しい」。
これは、MANAMIさんが福島にいるからこそ出来ること。東京でのライブで、福島の歌を歌って変に思われないか悩んだこともあったが、それによって興味を持ってくれることも多くなった。
「自分が福島の歌を作って福島以外の場所で歌うことにも意味があるんだと思うようになりました」。
震災から6年目の2017年3月11日に、福島市のホールでライブを開催する。
「その日は行きたくない」「どうしてその日にライブをやるの」と言う人もいる。
実際にはその日しかホールが空いていなかったために3月11日に決めたのだが、「みんながその日を避けているのなら私がやろうと」。まるで、その日にライブを開催するようにMANAMIさんが何かに導かれたかのようでもある。
「私は福島があっていて、福島にいると自由に生活できるし、自分らしくいられる。すぐに人に流されるので、福島以外では自分が無くなる。東京にいた時は全然曲が出来なくて言葉も出てこなかったのに、福島に帰ってきたらどんどん曲が出来て(笑)」
MANAMIさんは、福島で好きなものがもっとたくさんあるという。それを歌にすることによって、福島の良いモノを知ってもらえる機会をどんどん増やしていきたいそうだ。
もちろん、MANAMIさんの曲は福島の歌だけではないので、福島を拠点に全国へ広げていきたいと考えている。
「でも『福島にMANAMIちゃんがいるから会いに行こう』というふうになりたい(笑)」
MANAMI
福島県福島市出身在住のシンガーソングライター。
1992年6月2日生まれ。
ギター弾き語りのスタイルで16歳から音楽活動を始め、福島を拠点に県内外のライブハウス、ストリート等で精力的にライブ活動を行う。
キャッチーなメロディと等身大歌詞のオリジナル曲を中心に柔らかい歌声に乗せて音楽を届けている。
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