エコロジーオンラインの活動から里山エネルギー株式会社が誕生して4年半が経った。
東日本大震災をきっかけに生まれたナノ発電所を中心に、温暖化防止教育や、防災・減災のためのツールとして、小さな自然エネルギー機器の販売を手がけてきた。
そんな里山エネルギーがJICAの「中小企業海外展開支援事業~基礎調査~」の採択を受けたのが昨年2月。以後、1年にわたってマダガスカルでのロケットクッキングストーブとエコ燃料の事業化についての調査を続けて来た。今回、その最後の現地調査としてエコロジーオンライン理事長の上岡裕が1週間の予定で現地にわたった。
今回の調査はロケットクッキングストーブの販売とエコ燃料の製造が持続的な事業として成立するかの最終判断をするための渡航だった。今回の旅程をコーディネートしてくれたのはマダガスカルサービス。委託事業の外部人材としてマダガスカル側の現場調査も担当してくれたチームだ。
山々が人の暮らしによって食い尽くされていく。
今回の調査にあたってマダガスカルの森がいかに破壊されているかを身を持って体験するため、マダガスカルの首都アンタナナリボから西に向かう国道一号線沿いの村での調査を行った。この道が一番、マダガスカルの森林破壊を実感できるという。
アンタナナリボから調査地となるサカイへ至るまで、行けども行けどもはげ山が続く。雨期であるために見た目は緑。これが乾季になると延々と茶色の大地が続く。山のあちこちに残る「ラバカ」と呼ばれる山崩れの傷跡が痛々しい。
案内を担当してくれたマダガスカルサービス浅川日出男社長によれば、マダガスカルの森林破壊の原因は調理の燃料としての伐採、畜産のための草地への転換、低価格な木材としての輸出販売などであるという。おかげで7割あったマダガスカルの森林率がわずか7%まで落ちて来た。実際にこの目で見るまでは熱帯林に覆われた国だろうと勘違いしていたのだが、アンタナナリボを中心とする地域は砂漠に近いとさえ言える現状。
クルマを走らせていると、放牧された牛たちに出会う。しかもその牛の面倒を見ているのはほとんどが子どもたちだった。なかなか現金収入が得られないなかで、数少ない現金を得られる仕事。それが牧畜なのだろう。実際にはげ山に生えた草を食べさせて次の場所へと移動していく。
あのサハラ砂漠も8,000年前には緑の森林だったと言われる。それが畑作と牧畜によって大地が露出し、強い太陽光線にさらされたために砂漠になったという説もある。このままでは数百年後、マダガスカル全体が砂漠になる可能性も否定できない。
森林破壊を食いとめるための手立てはあるのか?
そんな状況を解決すべく私たちが手がける森林保護ビジネスは燃費効率のよいロケットクッキングストーブの販売とバイオマス廃棄物からのエコ燃料づくりだ。クルマの窓から見えてくる露店、商店、家庭、学校で薪や炭が活用されていることに気づく。多くの人の暮らしのなかで森の木が使われ、そのために森が減少していく。
ロケットクッキングストーブで木を効率的に燃やすことができれば伐られる木も減らせるかもしれない。もう一つが代替エネルギーの開発だ。
80%以上の人々が日々を2ドル以下で暮らすマダガスカルにおいて、コストのかかる代替エネルギーの開発は難しい。だが一方、無料もしくは処理費が稼げる廃棄物は可能性大だ。そういう視点で見ると道路沿いにモミガラやオガクズが大量に廃棄されている。それらを焼却しやすい形に加工ができれば燃やす木材の量が減らせるはずだ。
家畜の糞尿はどうだろう。
垂れ流される牛の糞尿は衛生的にも好ましくない。この糞尿からエネルギーを取り出すことができたら、調理用に新たなエネルギー源を手にすることができる。
全国の農村で牛糞由来のバイオガスの活用が進めば、木材の使用を減らせるはずだ。
だがそれを阻む大きな壁はこの地の貧困だ。農村の場合は自給自足の文化が根付いているため、貧困はそう目立たない。しかし、少ない現金収入といった点からすれば、とにかくお金がかかる新しい機器の導入は難しい。1号線沿いにあった砂利の加工をする農村でその作業でどのくらいの収入があるのかと聞くと、一日、家族で石を割り続けてバケツ3杯ほどが加工できる。バケツ1杯が50円。一日がんばっても150円にしかならないというのだ。
人と自然が共生する里山文化をマダガスカルに!
こんな暮らしから彼らが抜け出すために必要なのは教育だ。マダガスカルは元々フランスの植民地だった。そのためフランス語が喋れないとよい就職先にありつけない。ところが地域の公立学校ではフランス語は教えない。そこでプライベートスクールに子どもを入れたい。しかし月謝がかかってくる。私たちが訪問したサカイ市の私立ロバソア小学校の月謝は一人80円。現実的にはその月謝さえも支払えない親が多い。月謝が支払えなくて200名いた生徒が40人に減ってしまった。いかに森の大切さを訴えようとも、地域に森の再生を担ってくれる知識を持った人が育たないことには破壊は止まらない。これから地域を担う人たちのなかに豊かな森を生かしたビジネスやエネルギーづくりを考える人たちを育てる必要があるのだと思う。
こんなシビアな貧困を前に本当にロケットクッキングストーブやエコ燃料の販売はできるのか?
この訪問においてはその部分の見極めこそが重要だった。その結論は、短期的にはNO、長期的にはYESといったところが現状のように思える。そのNOの部分をYESにすることは現地の力だけでは到底できない。それなら日本のみなさんの力を借りよう。
私たち日本人は里山の自然を守りながら、資源やエネルギーを循環的に生み出す文化を培ってきた。そうした里山の文化を伝える施設や学校をつくっていくことを支援し、そのツールとしてロケットクッキングストーブや、エコ燃料の製造や販売を現地のみなさんと手がけていく。それならNOをYESとして事業を続けることができるのではないだろうか。それが僕らが出した結論だ。
日本の里山の文化が地域に雇用を生み出し、地球温暖化防止に貢献し、マダガスカルを砂漠化から守っていく。そんな大きな理想を胸に、森と人間の共生を呼びかけた先人・田中正造が生まれた地にある団体として、ぜひ長く支援を続けていきたいと思っている。
レポート:エコロジーオンライン理事長 上岡裕
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