外での仕事の機会が失われた代わりに介護の当事者として認知症と生きることがどういうことかを深く知るようになりました。

症状を進ませないために必要となる医学的知識や、行政による経済的な支援などの情報も手にしましたが、認知症の予防策についても詳しく知るようになります。自分が認知症になって家族に苦労をかけないためにも今からできる準備がありそう。

そんなわけで新しい活動として「Loving your memories ～認知症がボクに教えてくれたこと～」というブログが生まれました。この活動を通して認知症との向き合い方や認知機能を落とさないために知っておきたい情報などを発信していきたいと思っています。

さて、そんな活動を始めてみると手元に届く情報のなかにこれまでの環境保全活動とリンクするものも多く含まれることがわかってきました。たとえば化石燃料と認知症の関係です。

化石燃料を大量に消費することによって大気中に水銀が放出されることはよく知られています。その水銀は海洋での食物連鎖によってサカナに蓄積してそれを食べる人間に帰ってきます。

最近の研究で水銀以外の大気汚染物質がアルツハイマーなども含む認知症の発症に大きな影響を与える可能性があることがわかってきました。火力発電や自動車の排ガスに含まれる微粒子です。

調査を実施した南カリフォルニア大学（USC）の研究チームによれば、米環境保護庁が設定した微小粒子状物質の基準を超えた汚染地域に住む女性のお年寄りは、認知機能の低下を起こす確率が81％、アルツハイマーを含む認知症になる確率は92％高いと言います。

この結果をアメリカ全土に反映させると、認知症の21％が大気汚染によって発症したと考えられるとか。この調査を担当したUSC Leonard Davis School of Gerontologyのキャリブ・フィンチ教授はそのメカニズムについてこう語っています。

「化石燃料の燃焼から発生した微小物質は私たちの鼻から、直接、脳に取り込まれます。脳の細胞が鼻から侵入した微粒子を外敵として誤解して炎症を引き起こす。それが時間の経過とともにアルツハイマーを発症させ、悪化させるのです」

こうして自動車の排ガス中に含まれる微粒子が認知症のきっかけになるかもしれないということを知るわけですが、その一方、自動車の運転が認知症を防いでいるという話もあります。

最近、認知症を疑われる高齢者の事故が多くなっています。安全を考えると高齢者は運転をしない方がよい。そんな単純な理屈で75歳を越えるお年寄りが免許証を返すことを奨励する動きが出てきています。

知りあいの専門家に言わせると元気な高齢者から運転をとりあげてしまうと認知機能が低下する危険もある。そのために社会的な負担が増えることも考えられると言います。

現代文明の恩恵に浴する私たちは豊かに暮らせるツールをたくさん手に入れました。そのすべてにリスクがあり、ベネフィットがある。リスクとベネフィットをミクロな視野だけで判断すると新しい問題を生み出すことにつながる。認知症ということで考えると、何かが奪われた時に起こることをマクロな視野で考える必要がありそう。

空気が良いところに家を建てることは認知症予防につながる。でも、そのためにはクルマに乗るライフスタイルが必要。クルマを乗れるうちは良いけれど年をとったら乗れなくなる。そして運転をやめてしまうと認知機能が低下する。

その家から認知症患者を出さないために私たちは何ができるのか。認知症を防止する家づくりなんか考えて行くべきかもしれませんね。

文 / 上岡裕（協力：日本住宅新聞）