アメリカにトランプ政権が誕生してから、地球温暖化防止の取り組みはスローダウンしたかのように見えます。でも最近、地球温暖化防止に向けた新たな試みが世界のあちこちから伝えられるようになってきました。
本気で持続可能な社会づくりに動き始めた世界の動きは逆に加速しています。
英仏中がEV社会へ本格シフト!
今年の夏はクルマの歴史が大きく変わることを予見させるニュースが相次ぎました。フランス、イギリスが2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止することを発表したのです。それに続き、世界最大の自動車マーケットを持つ中国が同様の動きを検討していると伝えられました。するとパリ市がその目標を前倒することを公表。2030年までに市内へのガソリン車の乗り入れを禁止する方向で検討を始めたそうです。
遠い未来の話のようですが、今年生まれた子が中学1年になるとパリでガソリン車を見ることはなくなり、成人する頃にはイギリスやフランスにガソリン車は輸出できなくなります。ビックリですよね。
こうした動きの背景にあるのがパリ協定の成立です。先進国のイギリスやフランスは2050年までに温室効果ガスの80%削減を目標に掲げています。そのため、ディーゼル車やガソリン車を禁止する措置を打ち出したのです。先進国の仲間である日本も英仏と同様の目標を掲げています。日本だって負けてはいられません。
みなさんすでにご存じのように、本格的な普及に時間がかかると言われたLEDはあっという間に普及しました。その結果、蛍光灯の生産をやめるメーカーも出てきています。各国の動きを見ているとEVも同じような展開になっていくでしょう。
EVが自然エネルギーを安定化させる。
EVを動かすためには蓄電池が必要です。大量に普及した蓄電池がどんな役割を果たすのか。それによって社会は大きく変化します。
すでに予想されているEVの役割を見てみましょう。
・ヴィークル・トゥ・ホーム:災害があった時などにEVに充電された電気を家庭に提供します。
・グリッド・トゥ・ヴィークル:太陽光や風力発電などが大量に電気を生み出した際に電力系統から来た電気を蓄えます。
・ヴィークル・トゥ・グリッド:蓄えた電気を電力系統に逆流させて自然エネルギーの周波数の安定や需給調整などに利用します。
EVを増やす直接的な理由はCO2の排出抑制や大気汚染対策です。その結果、蓄電池が世界中にあふれる結果につながります。一つ一つは小さいけれど電子制御された蓄電池が、あたかも呼吸をするように、余った電気を吸い込み、足りなくなれば吐き出します。
それによって不安定だと非難されてきた太陽光や風力を地域で安定化させるバッファとして機能します。現時点では夢のような話ですがEVが大量に増えてくると現実味を帯びてくることは間違いありません。
自然エネルギーがベースロードになる未来
太陽光や風力発電などの電力は不安定であるため大手電力会社から嫌われます。一方、季節、天候、昼夜に関係なく、一定量の電力を安定的に生み出せる石炭や原子力は重視されます。こうした電源を必要最低限の電力をまかなう「ベースロード」と呼びます。
一方、自然エネルギーの持つ弱点を克服し、「ベースロード」にしようと立ち上がった会社があります。世界の科学の最先端を走るマサチューセッツ工科大学(MIT)のイェット‐ミン・チェン教授がつくった「ベースロード・リニューアブルズ」。まさに自然エネルギーをベースロードに変えるという名前を持つ会社です。
この会社がつくる蓄電池は石油とガスの生産過程で生まれる硫黄を活用。現在の蓄電池の1/5ほどの価格で提供が可能だと言います。蓄電池の低コスト化によって風の強い冬につくった風車の電気を風の弱い夏に使えるようになり、昼間の太陽光で生んだ電力を夜に使えるようになります。こうなれば自然エネルギーがベースロードになることも可能です。
現在のように多機能スマホを当たり前のように使うこなす未来を思い描いた人は20年前に何人いたでしょう。そうした変化が交通やエネルギー分野におき始めているのだと思います。産業革命の主役である化石燃料と内燃機関が生み出した文明が終焉に差しかかっているのかもしれませんね。
文 / 上岡裕(協力:日本住宅新聞)