文明の発達によって地球環境が破壊されている現代。崩れた自然のバランスを修復しようとしているのが今の状況だともいえるが、「体内環境も同じ」と語るのが、横浜市内で在宅療養している高齢者の訪問診療を行っているみずほクリニック港北の星名聖剛院長。人間の健康には腸内環境が重要と言われるが、その腸内環境は200種類100兆以上ものたくさんの微生物(腸内フローラ)によってつくられている。同じように、たくさんの微生物がいるのが土の中だ。土壌1グラム中に数億以上も微生物が存在する。星名院長はこの腸内環境と土壌との共通点に着目する。「病気を治すにはまずは食から。では良い食物を取り入れるには、と考えると、野菜が育つ土づくりが重要」と語り、医療の立場から農や食の改善を訴える。
星名 聖剛(ほしな せいごう)
秀峰会 みずほクリニック港北 院長
平成2年6月 聖マリアンナ医科大学病院研修医
4年6月 都立駒込病院臨床専門研修医
8年6月 聖マリアンナ医科大学病院第1外科
10年11月 聖マリアンナ医科大学病院救急医学
20年1月 医療法人財団 天翁会 新天本病院
29年1月 社会福祉法人 秀峰会 みずほクリニック港北 院長
構成/大川原通之 写真/エコロジーオンライン事務局
食べ物が人工的に加工され、輸入に頼るようになった戦後日本
「戦後は人工的に加工した食べ物がどんどん増えて、食料品も輸入に頼るようになってきた。またガンやアレルギーなどは、患者数が増加してきている。おそらく食生活が原因ではないかと思われる。だとすると病気は食から直していかなければならない。では良い食物を取り入れるためには、と考えると土づくりからのスタートだと」と星名院長は語る。
栄養豊富な土壌を作るには多種多様な微生物が必要だ。
「動物にも腸内環境があり、糞をして、それが肥やしになって野菜などを育てていたのが本来の姿。微生物が土を作り、土が食物を作り、食物が人間を作り、人間が地球(社会)を作る」。つまり、腸内環境を整えることと土壌を整えることは同じことだと強調する。
ちなみに、小腸の内壁は絨毛と呼ばれる短い毛のような小突起でびっしりと覆われており、これによって栄養を効率よく吸収している。また、植物の根にも、根毛と呼ばれる毛のような突起物が無数に生えている。「これらは、広がり方がとても似ているし、栄養の吸収の仕方も似ている」と、星名院長は共通点を見出す。
ところが、動物の糞などによる肥料が土を豊かにし、野菜などの食物を育て、それをまた食べるという連鎖の構図が、現在は崩れてしまっている。「農薬を使うことで微生物も殺してしまう」と危機感を訴える。
星名院長が以前勤務していた病院では、リハビリ室の前に畑をつくっていたという。畑で野菜を育てることで、リハビリをしている患者さんにも変化が現れたそうだ。
「一番の変化は、『植物を見てエネルギーを得る』という患者さん。天に向かってぴんと張った姿を見るとエネルギーが得られると。青々としたものが天に向かっている姿はエネルギーが感じられるようです」
また、土いじりは微生物に手で触れることでもある。「推測ですが知らずに口の中に入って腸の中を整えていることもあるのではないでしょうか」。
農薬を多量に撒いた土を素手でいじれば手が荒れるし、土を直接口に入れられない。しかし、無農薬で微生物が多い土は、いじっても手は荒れないし、口に入っても問題はない。
だからこそ、世界的に問題になっている農薬が、日本ではいまだにホームセンターなどで気軽に入手できる状況であることに批判的だ。「こうした農薬は神経症状にも影響がある可能性がある。また、世界中でミツバチもいなくなってきている。自然破壊だけでなく人間破壊。虫も含め共存共栄していかなければ生態系もおかしくなってしまう」
同時に、自分の身は自分で守るしかないとも訴える。まず、自分たちでできることは農薬を使わない野菜を作って食べること。
「でも、都会に住んでいては地べたが少ない。だからまずは、マンションでも、プランターで、キュウリでもナスでもトマトでも、洗わなくても食べられるものをつくって。そこからスタート。そして次は市民農園へ」
自らの抗生物質体験がクスリ依存を疑うきっかけに
星名院長はクスリよりも、まずは食べる事の大切さを重視している。「もちろんクスリがすべて悪いわけではありません。でも、長期に飲むモノではない。飲まなくてすむものはなるべく飲まない方が良い」と語る。食が細くなった高齢者に、クスリを大量に出せば、それだけでおなか一杯になってしまい、食事が入らなくなってしまう。「それならばきちんと食事をとってもらった方がいい」というスタンスだ。
例えば、カゼをひいたときなど、良く出される抗生物質。しかし、星名院長は「肺炎など『このばい菌によって人間が殺される』という判断をする場合に限って、抗生物質は使うべき。ただのカゼという診断なら抗生物質はいらない」という。
というのも、星名院長はかつて救命医をしていた時に、抗生物質のアレルギーで死にかけた経験があるのだ。
ある時、少々風邪気味だったため、感染症も疑い、念のため抗生物質を飲んだという。するとしばらくして呼吸困難になり、救命で救命されるという笑えない事態になった。
「自分が死にかけた薬を患者さんには出せない。だから患者さんに抗生物質を出すときすごく怖い」
そのため、以前に勤めていた病院では、患者さんに抗生物質を投与する際には必ず立ち会って、アレルギー反応などがないことを確かめてから患者のもとを離れるということにしていたそうだ。
例えば、痛風の人が酒を飲む時に尿酸値が上がる。そのため、尿酸を下げる薬を飲む。そこで、「薬を飲んでいるから、酒も控えよう」となれば良いが、「クスリを飲んで数値も良いからもう少し飲んでも良いか」となりがちだ。
高血圧も同じ。クスリを飲むと血圧が下がるため、塩分を控えることをおろそかにしてしまう。
「人間は欲の塊」と星名院長。
これでは永遠にクスリを飲み続けることになる。この悪循環を断ち切るためには、できるだけ必要が無いクスリを出さないようにすることだ。
「医療が発達したのはいいんですが、長寿国の日本は寝たきりの高齢者が世界で一番多い。人生100年時代などと言われ、ずっと元気で動ければ良いですが、動けるのはせいぜい80歳くらいまでで、残りの20年は寝たきりなんてありえない」
細胞内のミネラルバランスを調えることで未病を癒す。
世間的には〝未病〟も注目されているが、そもそも、なぜ病気になるのかが重要だという。
「人間の構造を考えれば、細胞内のミネラルのバランスが崩れることによって病気を発症する。だから未病の前の段階の、細胞内のミネラルを量って、足りないものは補充して、過剰なものは排泄しましょうということ。病気にならない身体づくりは、まず体内のミネラルのバランスが崩れないようにしましょうと」
そのためには、まずは食での改善が重要だ。
しかし、現在売られている野菜は、栄養価が激減している。ほうれん草のビタミンAは60年前の1/20以下、ビタミンCも1/4以下。トマトはビタミンAが1/8以下、鉄分は1/25、リンも1/2に減っている。栄養価が減少した分を大量に摂取して補える量ではない。
栄養価を取り戻すためには、土壌を微生物が豊富なものに改良していくことが必要だ。土壌の生物性を評価する「土壌微生物多様性・活性値」は、日本の土壌の平均が約79万で、100万を超えれば生物的に豊かな土壌だと評価される。一般的なオーガニック野菜の畑でも70万程度だという。
しかし、例えば、星名院長が推奨している土壌改良剤は、発酵食品を原料にした非加熱の〝生きた〟土壌改良剤で、これを使った畑の「土壌微生物多様性・活性値」は、100万~150万以上で、堆肥に近い。これだけの数の微生物がいる野菜は、ものすごく味も良いという。
「こうした野菜は流通経路がないためスーパーでは売れないけれど、おいしいのでレストランでは需要があると思う。無農薬でしかもおいしい野菜を、土壌の数値を測って証拠として証明をしていくことで、もっと広げることが出来るのではないかと思っています」
まずはプランターで、キュウリなどを良い土壌で育て食べるところからスタートだ。
*“聖ちゃん先生”へのご質問・問い合わせはライツフォーグリーンまで。
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