公園に恩あり
公園には恩があります。文化系だけど体を動かすのが好きだった自分はまず、音楽で踊る、ということに両者の接点を見出しました。
'90年代初頭、開局したばかりのWOWOWの音楽情報番組の一員として、当時開花しつつあったクラブ・シーンを取材したのをきっかけに。
着替えのTシャツ持参で毎回6時間は踊っていたことを考えると、クラブはクラブでもアスレチック・クラブと勘違いしていたのかもしれません。
が、タバコの煙であたりが霞んだ地下3階で朝まで、というのは持続可能なシチュエーションではありませんでした。
1年後には真逆のものを求めたくなり、地上に出て、クラブの近くにあった代々木公園〜神宮の森に行ってみたのです。
そして、爆音とストロボとコンクリートの床より遥かに情報量の多い風音や鳥のさえずり、木々の連なり、柔らかい土の道の感触にやられました
自然への関心開花
自然への関心開花でした。都内の地図に記された公園の緑表記の中から、面積の大きい順に片っ端から足を運ぶ。
そのうちに欲が出て、木々の向こうにビルが見えない場所を求めたくなる。
そして登山へ。
難度:Aの高尾山から始まり難度:Eの穂高縦走まで、のべ100山以上は登ったと思います。
標高が違えば植生も違う。
その甲乙つけがたい差に感謝しながら。
とはいえ山はしょつちゅう行けるわけではない。
でも自然には絶えず接していたい。
ということで週3ぐらいでお気に入りの公園や緑地に行っています。
白金の自然教育園のように年間パスを何度も更新しつつ通っている場所も含め。
さて。特定の公園に四季折々足を運ぶ。
それは定点観測のようなものでもあります。
1本の大木の新緑、紅葉、枝ぶりがあらわになる冬枯れ‥と言った変化も味わえる。
一方、そうした楽しみとは対極の部分で、いつ行っても気になる事というのも出てきます。
なんだこれは!
それが公園事務所が設置している看板でした。
いわく〝犬のロープを離さないでください〟。
いわく〝キャッチボールは禁止です〟。
どの内容も納得がいくものではあります。
が、問題はその表示の仕方。
園内にアクセスするにはまず、驚くほど多数の禁止事項を目にしなければならない。
しかも内容の異なるものが雑多と言ってもいいデザインと配置で並んでいることも多い。
園内に入ったら入ったで〝芝生に入らないでください〟といった立札が10メートルおきに立ってたりする。
立ち入り禁止の場所には工事現場用の赤いコーンや黄と黒のまだらのバーが設置してある‥。
写真を撮ろうとするとさらに痛感するのですが公園の美化を、絵になる風景を、最も疎外しているのはこれらべからずの看板群なんですね。
しかも1カ所に何年も通いつめているとよくわかりますが、年を追うごとにその数が増え続けている。
さらには大きな公園になるとたえずトイレや売店や花壇の改築・新築工事をやっている。
そこで都会では貴重な静寂も阻害される。
無言の自然教育を
欧米の公園に行ってみると看板など必要最低限で、いかに景観を保つかに深く留意していることがありありと分かります。
ゴミのポイ捨てなどは日本よりも多かったりしますけどね。
逆に世界で最も清潔好きと言われる日本人の国の公園が、なぜ無言の自然教育の場でもある場の景観をそこねてまでも禁止項目を並び立てるのか?
そこに社会における自然〜文化の優先順位の差を感じてしまいます。
昨年、友人のミュージシャンと共に初の環境イベントを開催させていただきました。
その際、ゲスト・スピーカーとしてお招きした庭師のポール・スミザーさんがおっしゃってました。
「イギリスでは自分の家の庭の木を切るにも許可がいる場合がある。その木はその地域のものでもあるから」と。
自宅に生えている木ですら! いわんや公的な場所の場合は、です。
いつも汗まみれ
日本の場合、公園は土木課公園係だの道路公園課だの、土木の範疇で管理されていることが多いですよね?
これでは美にも配慮したルール表示など希薄になるのも当然かもしれません。
さらには日本人のルール好きも、この問題をスルーさせているような気がします。
新幹線の座席の前にベタベタと貼ってある各種の注意書きも、公営プールの休息時間に長々とアナウンスされる注意事項も、公園のそれとまったく同質のものに見えますから。
ここ1年あまり毎月1回、母を車椅子に乗せて公園に散歩に出かけています。
草花が大好きで、でも自宅から5分あまりのところにある大公園ですら、もう自力では行けない彼女。
花壇の花に触れたり木々と空が織りなす風景に感嘆の声をあげたりしているしているその姿、「今日は本当に幸せだったと日記に書いた」などという後日談を聞くと、身近な自然=公園のありがたさをしみじみと感じます。
同時に、美に敏感な彼女に前述の看板を見せないようにするため、毎回どこかにある工事現場を避けるため、箱物を新築するわりには補修されていないガタガタの園路を避けるため、迂回を繰り返していつも汗まみれになっています。
その汗が、クラブや登山でかくものとはちょっと違うことが残念でありません。
Photo and Lyrics / Koh Imazu,,,