12月5日は国連が世界に呼びかける「世界土壌デー」。
私たちを生かす土・土壌についての認識を深める日です。
エコロジーオンライン編集部も11月30日、土壌のことを学ぶため、千葉県にある金澤バイオの見学に行ってきました。
金澤バイオ研究所といえば、土壌研究の第一人者、金澤晋二郎先生が手がけるオーガニック肥料「土の薬膳」シリーズを製造、販売していることでおなじみです。
有機廃棄物から生まれる「土の薬膳」
金澤バイオ研究所に到着した我々の目にいきなり飛び込んできたのは謎の白い山。
なんとこれは廃棄処分されたホワイトマッシュルーム。
というのも金澤バイオ研究所では他にも廃棄処分になったおから、竹パウダー、ビールカス、米ぬかなどを業者から引き取り発酵させて肥料を作っているんだとか。
この日は残念ながら発酵させる過程は見れませんでしたが、マッシュルームを発酵させる装置が稼働している様子は見られました!
ここで金澤先生から解説があり、一部の材料(コーヒーかすなど)を発酵させると養分やPh値が偏るため、強アルカリ性でミネラルを豊富に含む牡蠣殻などを混ぜ込んで発酵させているそうです。
いい土の条件の一つに有機物が大量に含まれていると色が黒いという要素があり、日本の土壌はこの観点からはあまり優秀とは言えず、今話題のウクライナがその条件を満たす土壌を持っているんだそうです。
特に金澤先生が最近注目しているのが、竹パウダー。
従来は炭水化物が豊富な稲わらを使っていたそうですが、豊かな土壌をつくる要素である窒素、リン、カリウムが少ないという欠点がありました。
竹パウダーは窒素、リンは少ないですが、稲わらに匹敵するほどの炭水化物と微生物の分解を阻害するリグニンが無いという特色を持っているそうです。
気候変動対策には炭素を土壌保留することが鍵です。
場所を移して屋内へ。先生の奥様が淹れてくださったほうじ茶を飲みながらお話を伺うことに。
--いま世界ではどのような土壌の危機が起きているのでしょうか。
温暖化で大気が乾燥し、アフリカや中南米、近いところでは中国などで大干ばつが発生しています。特に中国の長江という世界第三位の大河が干上がって大干ばつが発生したことは衝撃でした。
あんなに大きな川が干上がるなんてありえませんでしたから。
--そのような異常な事態を防ぐためには土壌改良の部分でどのような対策をすればよいでしょうか。
炭素を土壌保留することが鍵です。
有機肥料なら1年後も炭素が土壌に5~60%残るんですが、化学肥料を使うと土壌が酸性化して炭素を保留する力を奪われてしまうんです。
そこで有効なのが炭です。
アルカリ性の炭は、混ぜ込むことでその土壌の酸性化を抑え、さらに炭素をずっと保留してくれるうえに劣化しないんです。
--先ほどは世界の土壌について伺いましたが、翻って日本の土壌はどんな問題を抱えているのでしょうか。
これが意外に思うかもしれませんが、日本の土壌は劣化が少ないんです。
高温多湿で植生が活発なことが功を奏しているんですね。
ただ、日本の土壌にはリン酸が不足している。
ここつくばも火山灰土壌と言われるところで地中の火山灰がリン酸を吸着してしまうんです。
その代わり、豊かな森林が地中のミネラルを地下水を通して川から海に流しているおかげで田んぼの米や海底の海藻が豊かに育っているんですね。
昔の人は森林を伐採するとなぜか海藻が生えなくなってしまうと不思議がっていたそうですが、実はそういう絶妙なバランスで成り立っていたわけです。
金澤先生のお話に熱が帯びてきたあたりで日没を迎え、なんと栃木に戻る時間となってしまいました。
「先生からしっかりと土壌を学ぶには半日じゃ全然足りない。サマーセミナーなど長めの時間が必要だな」
そんなことを思いながら栃木への帰途につきました。
エコロジーオンライン編集部 / 上岡 健士郎
金澤晋二郎(かなざわ しんじろう)
株式会社 金澤バイオ研究所 所長。元九州大学農学部教授。専門は土壌微生物、土壌生化学、環境微生物学、未利用有機物の資源化など。
2001年の九州大学で行われた「学内ゼロエミッションプロジェクト」で提供した超好熱細菌をもちいた「超高温・好気発酵法」による有機質肥料「土の薬膳」が好評だったことをきっかけに、退官2年前に株式会社 金澤バイオ研究所を設立し、土づくりに取り組む。
常時80度以上の高温で好気発酵を行う超好熱細菌を利用した「超好熱・好気発酵法」を開発し、大腸菌、害虫病原菌、寄生虫、雑草種子などを死滅させたクリーンで高品質な肥料「土の薬膳®」を開発する。その他、様々な企業や機関との共同研究やプロジェクトも手がける。