それぞれの現場での活動を報告し、高齢者と音楽をつなぐ取り組みの「未来」を考えるシンポジウムでした。

当日の会場には、予想以上にお客様がいらっしゃって、立ち見が出るほどの盛況。皆さん興味のあるテーマだったようです。

上岡の「Music & Memory」のトライアル事業についての報告に続き、福士さんからは、医療的な視点から認知症についてご説明いただきました。6月に出された国の施策推進大綱の二本柱は「共生」と「予防」であるということ。そして、認知症の薬とプラセボ(偽薬)を比較した場合、どちらも効果に差がなく、しかも有害事象は薬が1、59倍多い。つまり認知症は薬では認知症は治らないという事実が述べられました。音楽による治療介入についても現在の検証方法の結果としては効果なしとされています。

福士さんは、この言葉を何度も耳にしているそうです。たとえエビデンスが無くても患者さんを訪問した際に音楽があることで場の空気が変わる事を多くの医師、看護師、介護者が五感で体験しています。数字や言葉では読み取りきれない心や脳への作用が音楽にはあるようです。

そして山岸さんのお話。会場の皆さんとの垣根を取り去る話術を毎回楽しませてもらっていますが、今回は音に合わせてエアーで楽器を演奏する体操や、歌詞の□□□部分を考えながら歌うカラオケ、「津軽海峡冬景色」を会場全員が振り付きで熱唱するなど、普段のカラオケではできないことを笑いを織り交ぜながらレクチャーしてくれました。東京以外でもフリーダム(多機能カラオケ)を持参して無料で講演してくれますので、ご希望の団体様は、ぜひ第一興商にご連絡ください♪

会場がカラオケで盛り上がってざわついた後の戸崎さんのお話でしたが、ご自身のグループホームでの体験や利用者さんの音楽を聴いた時の動作、反応がよくわかるビデオが流れると会場の皆さんも静かになり興味深くご覧になっていました。

普段、下を向いてグッタリされている女性にヘッドフォンで音楽を聴いていただくと車椅子から立ち上がり笑顔になって棒を掴みながら歩いていかれたり、昔宝塚を目指していたとカミングアウトされた方は思い切り歌い踊り始めたり、活き活きとした表情がビデオから見て取れました。

認知症の方は、どうしてもネガティブな感情が渦巻いている事が多いのですが、音楽を聞くことによって「場の空気が変わる」ということが実際によくわかる内容でした。

戸崎さんは、「認知症になっても思いやり、喜び、悲しみなどの情動機能はあまり衰えません。そこに音楽をプラスする事で幸せや楽しさを感じてもらいたい。今後さらに様々なアーティストの本物の楽器や音を聴いて人生を楽しく過ごしてもらいたいです」と締めくくりました。

様々な分野の4人のお話でしたが、共有した思いは「人がどうしたら幸せになれるか」という事だと感じます。

「認知症」の治療だけに縛られることなく、人としての幸せの拡大を目指していきたいですね。

エコロジーオンライン事務局長 上岡七生美