「癒し」をテーマに活動をするミュージシャンは多い。
だが、「波動」として表現される「音」そのものを探求し、現実の作品に反映させる取り組みをする人はそう多くはない。
精神障がいや認知症ケアの現場でも、音楽が活用されるようになったが、そこで活用される「音」の質についてはまだまだ考える余地が残されている。
自らレーベルを立ち上げ、人に寄り添う「音楽」を追求する丸山裕美さんにお話をうかがった。
丸山 裕美(まるやま ゆみ)
LEYLINE-RECORDS 代表、音楽ディレクター
(株)ソニー・ミュージックレコードの制作ディレクターを経て、フリーランスとなる。ソニー時代には爆風スランプなど担当し、日本の80年代ミュージックシーンを牽引。その後2007年に自身のレコードレーベル会社、LEYLINE-RECORDSを立ち上げる。ソニー時代から現在まで100タイトル以上のCDを制作。CD制作(プロデュース)、ヴォーカルディレクション、コーディネイション、プロダクトマネージメントなど幅広く音楽シーンに関わる。アコースティックな音を大切に、心を揺らす音楽をひとつ一つ丁寧に作るのが信条。平和で穏やかになれる音楽を、一人でも多くの人へと願いを込めて。
構成 / 井上晶子 写真 / 小林伸司
ジャンルとしての「人に寄り添う音楽」
「ちょっと自己紹介を兼ねて、自分が制作しているCDの説明を(笑)、この『ONSEN』シリーズは、温泉ビューティ研究家の石井宏子さんを監修に迎えて、私が温泉のイメージに合った音楽やアーティストの音を選んだり、新録したりして、作ったCDです。
温泉って行けそうでなかなか行けない。
私が、まさに温泉に行きたくても行けない人だったので(笑)、私と同じように、そうそう温泉に行けない人に向けて、温泉のように静かに安らげる、ゆったりできる音楽を届けたかったんです。
そもそも音楽って、いろんなジャンル、種類があります。
普通はエンタテイメントとしての、アーティストが主体となって、「自分の演奏を聴いてほしい!」というもの。あとは、励ましたり元気づけたりしてくれるものとか。
私が今作っている、人に寄り添う音楽というのは、アーティストの主張する音楽ではなくて、フラットな感覚で、無我になって演奏しているものです。
演奏するアーティストに、フラットでニュートラルな状態で穏やかに演奏してもらうと、私たちの体をつくる細胞にまで音が浸透していくように感じるんです。
そこにいるアーティストだけではなく、レコーディングするスタッフ、エンジニア、アシスタントエンジニア、ディレクターなどなどみんな同じ感覚、同じ気持ちで臨む。
そうすると整った波動になる。
科学的にいうと「音」って、空気を震わす波。これは、私の長年の仕事、経験でわかったことなんですけれど。
こうして作った最初の一枚が『 ONSEN 〜朝の時間〜』です。
それから『ONSEN』は、「黄昏時」「夜の静寂」3枚シリーズで作りました。
ONSEN-digestは配信しています。
それぞれテーマがあって、
「朝の時間」は、朝の静かなひと時、朝ならではの清々しさを感じてもらう。
「黄昏時」は、夕方をイメージして、まさに陽が落ちていく黄昏時の鎮まるような感じ。
夕方からのお食事する時のBGMにもいいと思います。
「夜の静寂」は、私の個人的イメージで(笑)、一人飲みの感じ。
そのまま寝てしまえるような静かな音楽を集めました。
こんなふうに人の生活に寄り添える音楽をいくつか作っているのが、私のレーベル LEYLINE-RECORDSです。
人に寄り添う音楽との出会い
私の30代というのが、人との別れが続いた年代で、かなりヘビーな時間を過ごしていました。
最初に父を亡くし、その後、母が高齢者にありがちな「うつ」のような症状が出て、そして4年後に、ある日突然亡くなりました。
私は、その時から、強い音が聴けなくなってしまいました。
耳や身体が激しい強い音楽を受け入れられなくなってしまったんです。
昔はロック少女で、ドラムを叩いていたくらい、仕事でもロックミュージシャンを担当したりするほど、仕事でも趣味でもライブに足しげく通っていたほど なのに・・です。
大切な人を失くしていくほどに、こうした強い音とか。
アピール度が高い音楽を受けつけられなくなった時に、改めて気づいたんですね、
音楽って、こんなに人の気持ち、バイブレーションに深く関与するんだ。
それで静かな音楽を求めるようになりました。
ただ静かなだけじゃダメなんですけど(笑)、そういう音楽というのは、人の心を支え慰めてくれるんだと改めて気がついて、それで自分もそういうのを作りたいなって思ったのが
何十年も前になりますが、キッカケでした。
ですが、やっぱり音楽ビジネスとして成立させていくのは難しい。
音楽市場で売れていくのはどうしてもエンタテイメント。
私が求めた、こうしたいい演奏をする人たちをどうやって紹介していこうって思って
立ち上げたのが、自分の小さいレーベル LEYLINE-RECORDS です。
そこから『ONSEN』シリーズ制作につながっていきました。
環境音楽から、高齢者の日常に寄り添う音楽へーー
「私が制作している音楽は、『環境音楽、アンビエントミュージック』といわれるようなジャンルもあります。
エリック・サティは知っている人も多いと思いますが、彼が提唱した「家具の音楽」に影響を受けた
音楽が1970年代に登場しました。
有名なのが、ブライアン・イーノという英国のアーティストです。
彼の「Music for Airports」という空港で流れる音楽をイメージして、作品を作りました。
私は美術館で流れる音楽ができたらいいなと思って、作ったCDがあります。
画家の方とコラボレーションしてCDのジャケットにもそのコンセプトを生かしました。
『On[隠]』というアルバムで、ギャラリーなどで流していただいています。
話は変わりますが、『ONSEN』を出した後のことですが、在宅でお父さんを介護、看護していた友人がいて、家でお父さんの入浴時にこのCDをかけたそうです。
そうしたら、お父さんはもちろん、介助をしている友人もすごくリラックスできて「よかった」と言ってくれたことがありました。
それ以来、いつもお家の中でこのCDをかけているそうで、変な緊張感もなく、いつも和やかな穏やか空気があると聞いて、とても嬉しく思いました。
高齢者の介護や看護現場にこうした音楽的なサポートは実は求められていると思います。
ご自宅はもちろんですが、高齢者の施設などでこのCDをかけてもらえたらいいなと思っています。
入浴の時だけでなく館内で終日かけたら、また雰囲気も違ってくるのかもしれないですね。
高齢者に、というのもありますが、介護している方にオススメしたい音楽です。
アーティストが落ち着いて、無になって演奏し、レコーディングするスタッフも同じくらいの状態で、録音された音は、本当にピュアで、身体の細胞レベルに達するようなリラクゼーション、気持ち良さがあります。
最近の音楽は、圧縮された音をダウンロードして耳に直接 音を流し込むように聴くスタイル、イヤホンで音楽を個人的に楽しむスタイルが主流です。
もちろん時間や場所を問わず、好きな音楽を聴けるのは素晴らしいことと思いますが、
こうした私の『ONSEN』や『On[隠]』のような音楽は、身体を音に浸すような聴き方をおススメしたいです。
先ほども言いましたけど、音は空気の振動なので、室内の空気を振動させて聴くのとでは身体が違ってくるんじゃないかって個人的に思っています。
だから生演奏って素晴らしいんですよね、生で聴くのが一番いいですが、なかなか叶いません。
なので、せめてもしできたら、質の良い専用の音楽再生機を使って、CDを再生してください。
私は仕事柄というのもありますが、大型家電店で、オーディオ器売り場で、自分が作ったCDを持って行って聴き比べをしたりします(笑)、もちろん閉店間際とか、空いている時間帯ですよ。
いろいろ聴き比べて、最近おススメしているのが、KENWOOD パーソナルオーディオシステムのシリーズ、CLX-50というもの(笑)。
価格も1万ちょっと という購入しやすい(店舗によるので、調べてください)。
とてもナチュラルで、質のいい音が聴けるので、一度店頭で試し聴きして、自分で確かめるのもいいと思います。
これからは、ジャンルを越えて、高齢者の方々が、朝ちょっとテレビを消して、音楽に合わせて、手を叩いたり、体操したり、踊ったりできるような音楽を作ってみたいと思っています。
静かに過ごす、というのに加えて楽しく過ごす、という時間に寄り添える音楽を作り、活用してもらいたいと思っています。
今回紹介した『ONSEN』シリーズ
『ONSEN-朝の時間』UICZ-8114 ¥2,057(税込)
『ONSEN-黄昏時』UICZ-8140 ¥2,057(税込)
『ONSEN-夜の静寂』UICZ-8160 ¥2,000(税込)
『ONSEN-digest』 (iTunes)
『On [穏]』 AKIRA OGAWA LLRCD-005 ¥2300 (税別)
最新のCDは、自分自身に戻るためのリトリートミュージック『NAO/Tititea』がある。
*お問い合わせ info@leyline-records.com
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