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コオロギフードでサステナブルな社会づくりへの参加を広げたい――昆虫食スタートアップ「エコロギー」の挑戦

昆虫食が未来の食糧危機を救うスーパーフードとして注目を集めています。

2022年現在、国内の昆虫食スタートアップ企業は10社を超えており、今回紹介する株式会社エコロギーもその1つ。

 

「当社では、コオロギの生産・加工をカンボジアで行っています。現地でパウダー状にしたコオロギを日本に輸出し、食品原料として二次加工・販売するというのが全体のバリューチェーンとなります」

 

そう話してくれたのは、同社の代表取締役CEOを務める葦苅晟矢(あしかりせいや)さん。

葦苅さんは現在、カンボジアを拠点に活動しており、コオロギ農家の開拓から生産指導まで、現地の農家と二人三脚でコオロギ生産を行っています。

さらには食品工場などから出される残渣を雑食性であるコオロギのエサに活用することで、年間84トンフードロス削減にも貢献しています。

こうした形で安価で高品質のコオロギ原料を量産・販売しているエコロギーですが、今のビジネスモデルにたどり着くまでには紆余曲折がありました。

 

コオロギとの出会いと小規模農家生産へのこだわり

葦苅さんとコオロギとの出会いは大学時代にさかのぼります。

当時、さまざまな国際問題について議論を交わす「模擬国連」の学生サークルに所属していた葦苅さん。

興味を持ったディスカッションのテーマの1つが、世界で増え続ける食糧問題でした。

時を同じくして、国連食糧農業機関(FAO)から1冊の報告書が公表されます。

「Edible insects-Future prospects for food and feed security(食用昆虫-食料および飼料の安全保障に向けた将来の展望)」と題されたその内容は、気候変動や人口増加による食糧危機の解決手段として昆虫食が有力であるというものでした。

昆虫は牛肉や豚肉に比べて圧倒的に少ない水と飼料、そして土地CO2排出で、良質なタンパク質を作ることができるといいます。

また可食部が多く、そのまま食べたり、粉状・ペースト状に加工してほかの食べ物と混ぜたりと、幅広い活用が可能です。

このほかにも、「農作物残渣や食品廃棄物を、昆虫のエサにすることで新たなタンパク質に転換できる」「現状の畜産・養魚用飼料からの置き換え」といった役割も期待されています。

同報告書に刺激を受け、昆虫食の可能性を確信した葦苅さんは、論より実践ということで、比較的飼育が簡単とされていたコオロギを、自室の押し入れで育て始めます。

実際に飼ってみると、とにかく成長が早い。あっという間にコオロギの数は数百匹に達し、自宅での飼育は困難になりました。

 

「そこで飼育場所を広いスペースに移すことになるのですが、ネックとなったのが日本の冬の寒さでした。気温が低いとコオロギは育ちません。しかし、暖房のために大量のエネルギー投入が必要となると、エコな栄養源であるはずの昆虫食の生産としては本末転倒なわけです」

 

打開策が見いだせないまま、立ち往生していた葦苅さんでしたが、一筋の光明を見出したのが、東南アジアに位置するカンボジアでコオロギの食文化が根付いているという情報でした。

1年を通じて温暖なカンボジアであれば、コオロギを育てられるかもしれない。いや実際に育てている人がいるはずだ――。

そう思い立ってから、カンボジアに渡るまでに時間はかかりませんでした。

そして導かれるように、数軒のコオロギ農家とつながることに成功した葦苅さんは、活動拠点をカンボジアに移し、現地での量産化に着手します。

 

「環境負荷の低い食料を求めてコオロギに、エネルギー消費の低い生産場所を探してカンボジアに、それぞれたどり着いたわけですが、実際に現地の人とコオロギ生産を手がけてみると、貧困問題解決のアプローチとしても有効なことに気付きました」

 

 

農家を支えるコオロギ生産の仕組み
農家を支えるコオロギ生産の仕組み

 

コオロギは自宅の軒先などで、手間をかけることなく育てることが可能で、約45日で出荷できるといいます。低所得の農家にとっては、本業の農業を続けながら、年8回の現金収入を得ることができる「副業」として歓迎されました。エコロギーでは56軒の農家にコオロギの生産を委託しており、相場よりも高値で買い取ることで、生産者のさらなる所得向上にも努めています。

 

コオロギ原料を生産・加工している企業の多くは、工場を設けて、生産の自動化・効率化を追求していますが、一軒一軒農家を訪ね、ゼロから関係性を作り上げてきたエコロギーでは、あくまでカンボジアでの小規模農家生産にこだわります。

 

「コオロギ生産は、いつでも、どこでも、誰でも、簡単に、タンパク質原料を作ることができるのが最大の特徴です。当然、生産量を増やすことは求められますが、それは現地農家さんの数を増やすことで彼らと一緒に実現していきたい。工場での一貫生産を行うことは、これまでもこれからも考えていません」

 

現地のコオロギ農家のみなさん
現地のコオロギ農家のみなさん

 

その言葉には、実際に自らの部屋でコオロギを育てた成功体験と、時間をかけて生産者との信頼関係を築いてきた葦苅さんの信念が込められています。

 

ブームを超えた定着を目指して

2020年に大手生活雑貨店がコオロギ粉末を使用した煎餅を発売すると、SNSなどで拡散され、コオロギ食品に注目が集まるきっかけとなりました。

するとエコロギーの周囲も、にわかに騒がしくなります。

 

「SDGsの文脈で新たな商品を開発したい企業にとって、コオロギは扱いやすいテーマなのかもしれません。数年前までは話を聞いてもらうことすら大変でしたが、最近は多くの食品メーカーから、前向きにお声がけいただくことが増えました」

 

これまでに味噌や醤油、スナック菓子などが商品化、試作化されましたが、コオロギパウダーの活用方法の提案機会や、実際に食べることのできる場所が少ないのが課題と葦刈さんは話します。

 

コオロギパウダーはクセがなく幅広い活用が可能
コオロギパウダーはクセがなく幅広い活用が可能

 

「レストランやカフェでコオロギメニューを提供してくれる共創パートナーさんを探しています。注目こそされるようになった昆虫食ですが、まだまだ珍しいもの、ユニークなものというコンテンツ商品としての域を出ていません。そのためにも、味でも栄養面でも優れた食品ということを知ってもらう場が必要です」

 

そんな食体験を提供する機会の1つとして、初のBtoC向け自社プロダクト「エコロギーチョコ」の製品化を目指し、現在、クラウドファンディングに挑戦中です。

 

 

 

「多くの人においしく食べていただけるチョコレートになりました。同時に背景にあるストーリーも伝えることで、食べるだけで社会を変える一助になる。今後もそんな商品を増やしていいきたいと考えます」

 

コオロギパウダーを使用したエコロギーチョコ
コオロギパウダーを使用したエコロギーチョコ

 

また、昆虫の持つ栄養価の高さについては前述のFAO報告書でも報告されていますが、コオロギの味や成分エサや飼育環境変えることができるといいます。

タンパク質やミネラルの不足によってカンボジアなどの新興国では栄養課題が起きていることから、エコロギーでは特定の栄養素を高めたコオロギの研究を産学連携で進めています。

 

「今年の11月にはコオロギパウダーが含まれた食品を一定期間摂取してもらい、その効果を確かめる臨床試験を行います。エビデンスが検証できれば、機能性表示食品としての展開も見据えています」

 

こうした機能性、健康効果の検証にとどまらず、コオロギ生産に係るカーボンフットプリントサステナブル指標についても定量化していきたいとも葦苅さんは語ります。

まだ見ぬコオロギの価値の可視化は、持続可能な食料生産と小規模農家の生活向上の好循環をさらに加速させることでしょう。

複数課題の同時解決を目指すエコロギーは、SDGs真に体現している企業といえます。

その規模はコオロギのごとく、まだ決して大きくはないですが、地球の未来を拓く無限の可能性を感じさせてくれます。


構成・文 / 加藤聡(エコロジーオンライン理事) 

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