2ヶ月に一度、坂本龍一さんがホストを務めるRADIO SAKAMOTOという番組でエコレポートを担当している。
普段のオンエアでは、エコロジーオンラインという、何でもありの活動をしているNPO法人の近況報告をさせてもらうのだが、5月6日の回についてはパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんとお話をして欲しいとスタッフからお願いがあった。
パタゴニアといえばアウトドアの世界で知らない人がいない大手ブランド。若くしてその日本支社長に登りつめた人だから、バリバリのビジネスマンをイメージした。スタジオに現れた彼はそんな予想を大きく裏切り、物腰のやさしい、ソフトな口調の青年だった。
彼との対話については番組ホームページをご覧いただくとして、そこで話題になった「ほたるの川のまもり人」についてご紹介したい。長崎県の石木ダムの建設問題に巻き込まれた住民たちを追いかけたドキュメンタリーだ。
真の文明は 山を荒さず 川を荒さず 村を破らず 人を殺さゞるべし
辻井さんという初めての人と会うわけだから、収録前にそれなりの準備は必要だ。
パタゴニアのホームページを確認するとこの映画を応援していることがわかった。ちょっとした機会があって訪れたお店では石木ダムについてダム建設が本当に必要かを考える公開討論会を呼びかけるチラシも配布していた。
エコロジーオンラインのような活動をしていると、世界のあちこちで起きる社会問題についての協力をお願いされることが多い。無言のプレッシャーも受ける。辻井さんと会った週もケニアのドゥルマ民族の自立に向けた闘いへのサポートをすることが決まったタイミングだった。実際に石木ダムの反対運動に関わっている余裕はない。そんな思いを抱きながら収録を待つことになった。
僕らが活動を支援するドゥルマ民族は、ケニア第二の都市モンバサの発展によって、自分たちの住む場所が奪われつつある。そんな彼らが見つけた移住先には水がない。伝統的な自給自足の暮らしをするには井戸が必要だ。貧しい彼らのために日本でお金を集めて井戸を掘ろう。それがこのプロジェクトの主旨だ。
「ほたるの川のまもり人」が生まれるきっかけとなった石木ダムも同じく水を開発する事業だ。都市部で必要となる水を供給するために石木ダムの建設が企画された。その計画が立てられたのはなんと50年も前のことだ。少子高齢化などで大きく地域社会は変化したのに、この計画が見直されることはなかった。そんな50年も前の計画でずっと住んできた人たちから土地が奪われる。途上国で起きていることと同じようなことがここ日本でも起きている。そんなことを感じた僕は郷土の偉人田中正造が遺した「真の文明」のメッセージを伝えることで番組を盛り上げることにした。
あなたの隣にいる、愛おしい人たちの物語
番組のオンエア後、自分は「ほたるの川のまもりびと」を配給する会社の方から連絡をもらった。クラウドファンディングに協力してくれた人たち向けのプレミア試写会に参加しませんか!というお誘いだった。
最近は海外での活動に加え、認知症のケアの取り組みも始まった。栃木から東京に出るだけでも一日仕事になってしまう。その忙しさを理由に上映会をお断りした。それならとネットで見る環境を整えてくれた。夜は母の見守り介護をしているので、自宅でならいくらでも時間はつくれる。なかなか寝付かない母のいる部屋の隣の仕事場で見ることにした。
ダムの反対運動について描く映画だから、肩に力を入れて見ないといけない。そんな思いを抱きながらディスプレイの前に座る。だが、その予想は大きく裏切られた。自分の肩からどんどん力が抜けていく。登場する人、動物、植物、木々、どれをとっても、可愛く、愛おしい。誰か友だちでも出ていそうな味わいだ。見終わってもう一度見たいな。素直にそう思った。
石木ダムの問題にはそう深く関われない。でも、この映画には深く関われる気もする。この映画を多くの人が見れば、きっと大きな変化が訪れる。あたり前のように思えたものが、いかに愛おしいものであったかを、多くの人が感じるようになって欲しい。
そんなわけでお近くの映画館で上映が決まったらご覧ください。もし、決まらないようなら、みんなで上映会をやっちゃうといいかも。
詳しくは下記のウェブをどうぞ!
エコロジーオンライン 上岡 裕