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気候危機で抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が増殖する!?

ガーナの首都アクラを襲う大雨被害 Photo be Stig Nygaard /by CC BY 2.0 DEED
ガーナの首都アクラを襲う大雨被害 Photo be Stig Nygaard /by CC BY 2.0 DEED

近年、世界中で懸念されている健康課題の一つに、薬剤耐性菌の増加があげられる。2019年の時点で世界中で127万人が薬剤耐性菌で亡くなっている。


元々、自然界にはペニシリンなどの抗菌薬に耐性を持つ薬剤耐性菌が存在するのだが、単一の抗生物質を使い続けることにより、薬剤耐性菌株だけが生き残り、増殖していくのだという。


1928年のぺニシリン発見以降、人間の命を救い続けてきた抗菌薬なのだが、その輝かしい戦績が仇となって不適切な使用が増え続けてきた。


抗菌薬の偏った使用、長期的投与、使用量を抑えることで殺菌できずに耐性化を促してしまうなど、薬剤耐性菌を生み出す土壌が形づくられてしまった。

 

厚生労働省では薬剤耐性に関する包括的な取り組みとしてアクションプランを策定。「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することを国民運動として展開している。

 

抗菌薬は家畜の生産や養殖漁業、ペット医療にもなど幅広く活用されており、2020年時点ではその使用は減少傾向にあるものの、新型コロナ感染症の蔓延以降、どのような推移をたどっていくのか未知数であり、引き続き注視が必要だと言われている。

 

この薬剤耐性菌問題に関して、新たな危機を訴える研究結果が発表されている。


気候危機による極端な気象と気温の高温化が薬剤耐性菌の感染を拡大するのだという。

 

微生物学者であるパディキ・ナルティさんは、自身の薬剤耐性菌への感染をベースにガーナでの事例を分析している。気候危機が進み、大雨被害にさらされる地域においては、下水から薬剤耐性菌が漏れ出て、家庭や飲み水を汚染する。渇水、台風、山火事などにおいても衛生的な水へのアクセスが難しくなり、怪我人が多く出る可能性とともに、抗菌薬が大量に使用され、薬剤耐性をもつ菌を生み出していく。

 

中国の研究者によれば、気温の上昇だけでも薬剤耐性菌が増えていく。1℃気温が上がるごとに14%の増加を見せた薬剤耐性菌もあったという。まだまだ研究の余地が残されているが、高温の環境下では病原菌全般が増殖しやすく、薬剤に負けない遺伝子を菌同士で共有する可能性が高まるという。

 

災害大国日本においては、地震や津波などの際に大量の抗菌薬が使われている。現在の能登半島地震でも被災者の怪我の治療や感染症の予防に大量の抗菌薬が使われる。

 

気候危機、災害、薬剤耐性菌の氾濫は、日本人の健康に対する3大脅威と言えるだろう。


平時には厚生労働省が掲げるアクションプランを周知徹底し、国民全体で抗菌薬の使用を抑制することが求められる。


多くの日本人が薬剤耐性菌の犠牲になる未来は何としても避けたい。


<参照リンク>

Antibiotic resistance is a growing threat — is climate change making it worse?


翻訳・文 / エコロジーオンライン編集部

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