□氏名:吉田登志幸
□所属:(有)オストコーポレーション北関東 代表取締役 http://www.ost-kk.com/
□経歴:1970年大阪生まれ、1992年明治学院大学経済学部卒、同年(株)山善(住設建材部門)入社、2001年退社、同年同社設立。
□活動: NPO法人ソーラーシティー・ジャパン代表理事、一般社団法人日本エネルギーパス協会理事、一般社団法人Forward to 1985 energy life理事。
会社設立時より環境問題に意識を持ち徐々に活動幅を広げていたが、2011年3月11日東日本大震災と福島第一原発事故が大きなきっかけで、日本のエネルギー問題解決に少しでも寄与するべく、省エネ・創エネに携わる団体等を通じて啓発活動や具体的実践を行っている。
SDGsの考え方にも大いに共感し、自身の行う講演ではSDGsの解説と各人が取るべき行動の具体的指針も広く伝えている。
2022年2月24日、自分にとってとても大きな意味を持つミーティングが公開生配信されました。
それが“第5回再生可能エネルギー等の規制に関する総点検タスクフォース”です。
タスクフォースの主要なメンバーだった河野行政改革担当大臣の言葉がとても印象的でその言葉から日本の断熱における規制強化が一気に花開いた感覚が残っています。
「日本の家が冬寒く夏暑く、これだけ多くの方がヒーショックで亡くなっているという事実があるにも関わらず、住環境が全く改善される兆しがないというのは大きな問題だ。.....菅総理の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、世の中がゲームチェンジしているという認識が国交省にはないのではないか。国交相が規制強化出来ないのなら環境省に担当を変えてでも規制強化をさせる!」
現役の大臣からこんなセリフが飛び出すとは夢にも思っておらず、その場で小躍りするような気持ちになったことを今でも鮮明に覚えています。
そして、今回の著書「断熱が日本を救う」です。
過去にもたくさんの日本の断熱不足警鐘的な本が出ました。中々、政治や一般の方の認識を大きく変えることができず、何とかならないかと頭を捻っていたときに、先の河野大臣の一喝が飛び出しました。
長年、家の省エネにこわだり、この本に登場している人たちのお手伝いをしてきた自分の役割として、この本を一人でも多くの方に読んでもらって、その認識を変えていただくとともに、新築においてはしっかり断熱や気密のことを考慮する施主を一人でも増やしたいと思います。
リフォームの方にも断熱の大切さをよく理解して改修の優先順位の上位にもってきてもらいたい。
リフォームの予定がない方にも今の状態がエネルギー的にも健康的にも環境的にもよろしくないことをしっかり理解して将来の参考にと思い、どんな事が書かれているのかを簡単にご紹介してみたいと思います。
第1章「がまんの省エネ」が寿命を縮め、お金を減らす
寿命を縮めるとは穏やかではありませんが、がまんして寒い家に暮らす健康被害のエビデンスが多数紹介され、日本の断熱基準が海外のそれと比してどれくらい緩いのかの比較データも掲載されています。
一般的に、断熱の性能を決める要素としては断熱材の質や厚さが注目されがちですが、家全体の熱の出入りの50%以上は窓からで、世界では窓の性能にも最低基準があって日本にはそれが無いことのおかしさも述べられています。
第2章エコハウスってどんな家?秘密と誤解を大解剖
この章は筆者の実体験が語られます。実際のエコハウスを解説しつつ、そのエコハウスに住むようになった著者のアレルギー性鼻炎が大幅に軽減したことや、夏は暑く・気密性が高いと息が詰まるといっう情報が誤解に基づいた偏見であることを示してくれます。
第3章エコハウスの選び方と断熱リノベーション
住宅情報は私たちに馴染みのない情報のオンパレードです。どのレベルの性能以上を選ぶべきかの具体的な数値について詳しく解説し、誇らしげに使われるZEH(ネット・ゼロエネルギー住宅)の性能も実はそんなに高くないことを指摘。断熱リノベーションとはどういうものか?またそれを行う際のポイントはどこに力点を置くべきか等々の紹介をしています。
第4章断熱で社会課題を解決!
この章は断熱を導入することによって変化する地域社会を描いています。エコアパートは暑い、寒い、うるさいが大幅軽減され、住み心地が格段に違うことや、空き家等の中古住宅をオフグリット化させた八ヶ岳エコハウス“ほくほく”の紹介。高校生がはじめた教室の断熱改修事例、埼玉県の小学校で天井の断熱改修を児童たちと一緒にやった取り組み等の事例が紹介されます。
東京大学の前真之准教授は学校の断熱について次のように語ります。
「国が責任を持って全国の学校の断熱改修を進めるべき....子どもたちが毎日使う学校を、健康で快適に勉強できる環境にするのは大人の責任です。断熱も換気も技術的にはまったく難しくありません。やらない理由はないはずです」
因みに、この前准教授が先のタスクフォースで河野大臣に日本の住宅が何故寒いのか?の根本解説をされています。
第5章断熱は持続可能なまちづくりのカギ
脱炭素は世界の常識となりました。日本でも鳥取県の“NE-ST”や、北海道ニセコ町の100年使える超省エネ庁舎、さらに9haの土地にニセコ町の約1割の町民が住むことができるサスティナブルタウンをつくる取り組みなど、全国の自治体で先進的な施策を行なっている事例を紹介しています。
このニセコの超省エネ庁舎やサスティナブルタウンの最重要カウンターパートとなっているのが、エコロジーオンラインの初期を支えた仲間たちが参加する、お馴染み、一社)クラブヴォーバンであるということも非常に興味深いところです。
かなりのダイジェストになりましたが、この本には今、知っておくべき「断熱」の最新情報が詰まっています。是非とも手に取ってじっくり読んでみませんか。
文 / 吉田登志幸